それが僕なりの「あなたは愛されている」という伝え方なのだ。

 2021年9月22日に“尾崎裕哉”がNEW EP『BEHIND EVERY SMILE』をリリースしました。父である尾崎豊の曲をTVで披露し大反響を受けたり、昨年末より精力的にLIVEを行ったりと、活動してきた彼。今作には、トップクリエーターである旧友・Yaffleとのコラボレーション曲も収録。また、長年の盟友にしてヒットプロデューサーでもあるトオミヨウとがっつり組んだ意欲作となっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作をリリースした“尾崎裕哉”による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回は第1弾です。人の笑顔に惹かれ、人の笑顔を描いてきた彼。コロナ禍だからこそ、改めて“笑顔”に着目し、試みたこととは。そして最新作に込めた想いとは。是非、歌詞と併せてこのエッセイを受け取ってください。

~歌詞エッセイ第1弾~

僕は人の笑顔に惹かれる。家族でだらだら過ごすリビングでも、仕事仲間とともに新たな曲を作るスタジオでも、ファンと過ごすライブ会場でも、みんなの笑顔のために何かをしたいと思う。理由はシンプルで、人の笑顔を見ると僕自身が幸せな気持ちになれるからだ。笑顔は見る人を幸せにする。それゆえに僕は笑顔をテーマに曲を書くことが多いのだ。

その始まりは「サムデイ・スマイル」を書いた時だと思う。2011年4月。東日本大震災直後の宮城県塩竈市でボランティアをした。瓦礫撤去の作業を終えた後に寄った仮設シェルターの隣の公園で少年少女たちと鬼ごっこをして遊んだ。

30分くらい経ったのだろうか。しばらく楽しく遊んでいたが、そんな時間も突然の雨によって唐突な終わりを迎えた。当時、雨に放射線物質が含まれているとの噂があり、怯えた一人の女の子が泣きながら『帰ろう』と僕の手をシェルターの方へと引っ張った。僕は複雑な気持ちになり、動くことができなかった。東京からきた僕の「帰る場所」はそこにはなく、遠く離れた東京に暖かい家があるのだと思うと、胸が痛んだ。その時の思いが「サムデイ・スマイル」に込められている。その時に失われた少女の笑顔をどうにか取り戻したかった。

それはまるで、寺山修司『少女詩集』の『海を見せる』に登場する主人公の男の子が、少女に海を運んだときに近いのかもしれない。海を見たことのない少女に「海は広く真青である!」と堂々説いた少年が、一生懸命バケツに海の水を汲んで彼女の元へ運ぶ。だが、バケツに汲まれた水は広くも青くもなく、少女に嘘つき呼ばわりされて落ち込む、という話だ。

曲を書く仕事は、海を見たことない少女に海を見せるようなことなのかもしれない。誰かを喜ばせたい一心で曲を書く一方で、広大な“感情という名の海”の中から言葉を汲んだとしても、僕の見てきた“青い水”を見せることは非常に難しい。それでも、ライブで曲を歌う時、観客の笑顔を見れた時に、きっと誰かのためになっているのだと言い聞かせてきた。

あれから10年経った今、コロナ禍になってまた笑顔に着目したのは必然なのだろう。ただ、「笑顔」は思っていたほどシンプルではなかった。当たり前だと思っていたものが当たり前じゃなくなった。コロナによる戸惑いが社会を包み、不安が蔓延した。最近になって心から笑うことはあっただろうか? と自分に問う。そんな自分や社会を観察する過程で生まれたのが、『BEHIND EVERY SMILE』というタイトルだ。

強がりから生まれる笑顔、照れ笑い、苦笑い、嘲笑、爆笑など、さまざまな笑顔がある。―笑顔という表情の裏側にある無限の感情― それを切り取るというのが今回の試みだ。「Lighter」はそんな様々な笑顔を見た結果として生まれた曲だ。この曲がどんな“青い水”を見せられているのかは、分からない。でも、僕は僕の思う本当の笑顔に必要なことを書いたつもりだ。優しさに触れて笑顔になれた時、本当の笑顔は生まれる。そして、誰もが誰かの笑顔を産む火種になり得る。僕はそこに愛を感じる。

そう。だから僕は人の心の中に笑顔を描きたい。それが僕なりの「あなたは愛されている」という伝え方なのだ。この世界が笑顔で溢れますように。笑顔は誰かに見せるためにあるのだから。

<尾崎裕哉>

◆New EP『BEHIND EVERY SMILE』
2021年9月22日発売
【初回生産限定盤】SECL2695-2696 ¥2,300(税込)
【通常盤】SECL2627 ¥1,600(税込)

<収録曲>
1. ロケット
2. Anthem
3. Lighter
4. With You