Cikah

見た目だけの恋人同士じゃなく。だって心が欲しかった。

 2021年4月28日に“Cikah(チカ)”が新曲「AM」をリリースしました。中毒性溢れるメッセージを伝え続ける、話題のR&Bシンガーソングライターの連続配信シングルの第3弾。誰もが内側に込める思いの本当の意味を考えさせられるミディアムバラードとなっており、胸を締め付けられる歌詞と、表現力豊かな声、そして洗練されたサウンドメイクにより、温かい気持ちになる1曲となっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“Cikah(チカ)”による歌詞エッセイをお届け。綴っていただいたのは、新曲「AM」に通ずるお話。好きと伝えるだけが恋じゃない。伝えられない恋も、伝えない恋も、見た目だけじゃわからない恋もある。あなたは今、どんな恋をしていますか…? 是非、歌詞と一緒にこのエッセイを受け取ってください。

~歌詞エッセイ:「AM」~

さようなら、もう好きじゃない。

そう言い聞かせて飲み込んだ気持ちの墓場は、一体どこにあるのだろうか。好きと伝えた恋と、一度も伝えられなかった恋は、何故こんなにも違う残り方をするのだろう。胸の奥に染み付いて、ふと忘れた頃にチクリと痛む棘がすごく疎ましいような、それでいてなんとも懐かしいような気持ちになる。

短く切り揃えた爪の形、湿気に負けてたボサボサの髪、笑い転げてた話の内容、好きなビールの銘柄。甘えたみたいに私の名前を呼ぶ声がどんなだったかはもうはっきりとは思い出せない。それなのに、当時のふたりが好きだったあの曲だけは今でも歌えるのだから嫌になる。まだどこにも発表されてない、私だけが覚えてるあの子の作った歌。

思い出はゆっくりゆっくり薄まって、それから段々と輪郭が曖昧になる。毒々しい刺激的な色も時間をかけて上手に私の中に消化されて、美しい淡さを纏う。あの頃、何がそんなに愛おしくて楽しくてそれから寂しかったのか。当時を振り返っても少しも自分が分からないのだ。そういえばあの子のことも何にも分からなかったな。どうしてあんなに素敵だったのだろう。今でもちっとも分からないままだ。

私たちの背中ってどう見えていただろう。二人で並んで歩く姿や、一つの傘の下で寄り添った背中は、恋人同士に見えていたのかな。手を繋ぐでも口付けるでもなく、心が知りたくてたまらなかった。身体的な温もりや繋がりよりも、その場を色付ける愛の言葉よりも、ただ知りたかった。そんな風に思ったのは後にも先にもあの子だけだった。

もしかして
二人は偶然に
ともだちを演じてきたのだとしたら


とっても仲が良かった。何だって話せた。多分あの子もそうだった。大切で楽しくて変えの効かない存在だった。掛け替えのないってこんな関係を言うんだろうなと思ったりした。いつもそばに居られるのなら、別に恋人になれなくても良かった。でも誰のものにもならないでね。そう思っていた。

人は大抵、目から入ってきた情報を優先しているなあと思う。この目で見たものが全てというような。例えば、女同士が仲良く寄り添っていても、友達同士仲良いんだなと思われることが多いだろうし、反対に男性と2人でいると恋人同士ですか? などと疑問に持たれることもあるだろう。太っている人はよく食べて、服装が派手な人はあんまり常識が無くて、タトゥーやピアスをしてたらあいつは不良だ、など、中には見た目だけでジャッジするようなとんでもない偏見もある。

実際、わたしは長らくビビットなピンク色の髪の毛をしているし、鼻にピアスも開いている。好きなファッションは個性的なものばかりだし、そういった見た目で自分の価値が知らないうちに判断されているみたいな機会が、望まなくとも向こうからやってきた。それをいつもひどく残念に思う。鼻ピアス=不良の理論に笑ってしまう。アンケートでも取ったの? 一人一人性格や素行を調べたりしたの? 開けてくれたお医者さんにはめちゃくちゃ似合うねって言われたのに!

何をしてたって何を着てたって誰を愛していたってどこに居たってわたしはわたしだ。誰からジャッジされる必要もない。ただのわたしだ。それから、あなたもあなたなのだ。

あの頃の二人は、恋人同士に見えていたかもしれないし、仲の良い親友に見えていたかもしれない。でも本当の答えはそこにはなくて、「分からない」が当時のわたしの持てる想像の限界だった。同時に、見た目の情報ってなんの頼りにもならないのだなあと思った。見た目だけの恋人同士じゃなく。だって心が欲しかった。

いつだって見えないところに真実があると思う。簡単に分かってしまうものも、インスタントで手軽で時間の足りない現代人にとっては素晴らしい。だけど、時間をかけて飲み込んで考えて吐き出して、ようやく「もしかしてこうなのかも?」とぼんやり浮かび上がるような答えがあってもいいと、わたしは思う。

結局、わたしは最後まであの子の気持ちが分からなかった。聞いたりしなかったし、伝えたりもしないことを選んだから。諦めたんじゃなく、選んだのだ。でも、あの子も多分わたしの気持ちが分からなかったよね。そういえば「何考えてるのか分からないよ」とよく言われていたし。

好きと伝えた恋と、好きと伝えられなかった恋。どちらが美しいのかは、大人になった今でも、ちっとも分からない。だけど一つだけ分かったことがある。

あの子がくれた余白分だけ、わたしは歌を書いているのだと今思う。

<Cikah>

◆紹介曲「AM
作詞:Cikah
作曲:Cikah
このトピックをシェアする
  • LINEで送る
Cikahのうたコラム一覧