アイスが溶け切る前に。

 2021年4月7日に“FIVE NEW OLD”がニューアルバム『MUSIC WARDROBE』をリリースしました。KOSE『SUNCUT(R)プロディフェンス』CMソング「Summertime」、アサヒ『MINTIA』CMソング「Breathin’」、ECC ジュニア CMソング「Light Of Hope」のタイアップ3曲と、HIROSHI(Vo/Gt)も出演のドラマ『3Bの恋人』主題歌「Hallelujah」他、初めての日本語詞曲「Vent」、coldrain Masato をゲストボーカルに迎えた「Chemical Heart (feat. Masato from coldrain)」など、彼らの今が詰まった、聴き応え十分なアルバムが完成!
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“FIVE NEW OLD”のHIROSHI(Vo/Gt)による歌詞エッセイをお届け!綴っていただいたのは、今作『MUSIC WARDROBE』に宿っている実体験のお話です。当たり前だった日常がガラリと変わったコロナ禍。彼は一体どのように過ごし、どのようなことを考えたのでしょうか。是非、楽曲と併せてこのエッセイもお楽しみください。

~歌詞エッセイ:「アイスが溶け切る前に」~

仕事帰りにピスタチオアイスを買った。今、机の横で少しずつ食べごろを迎えようとしている。これを書き終えたら、寝る前にそれを口の中で溶かし、甘い余韻を、歯磨き粉で上塗りしてから床に入ろうという算段だ。アイスの食べごろを逃さぬよう、テンポよく筆を進めねば…。

とは言ったものの、さて何を書こうか。エッセイのお話を頂いて、他のアーティストさんのものを拝読してみたが、まぁ、皆さんの文才の凄まじいこと…!「どないなってんねん!? 皆さん前世か、前職で小説家なさってたんですか?」と、レベルの高さに舌を巻きながら、楽しく読ませて頂きました。…なんて事を言って少しでも文章量を増やそうとしている自分の姑息さは、大学のレポートを白目剥きながら書いていた頃からちっとも変わらないみたいです。お母さん。

アイスが溶けてしまいそうなので、本題に入ろう。

2020年、コロナ禍の世界。FIVE NEW OLDは10周年のアニバーサリーライブを皮切りに、オリンピックイヤーの勢いに任せてどんちゃん騒ぎしてやろうと思っていたのだが、そんな計画などお構いなしに、世界はコロナウィルスの脅威に晒され、当たり前だった日常をガラリと変えた。ライブはもちろん、今まで通りの暮らしを送ることも、友達に会うこともままならない日々。

10年続けてきた音楽漬けの毎日からポッと放り出された僕は当初、この状態が長く続くとは思わずにインドアな非日常を楽しんでいた。家事を放棄してオンラインゲームに没頭し、「Uber Eatsありがてえええ!」と運んで頂いた料理で腹を満たす日々。心の片隅、薄眼でこちらを睨む「罪悪感」をやり過ごしながら、「まぁ、こんなん今だけやしな。」と自堕落の沼に埋もれていた。

ところが、ご承知の通り世界は元に戻らなかったのである。なぜ、どこから湧いてくるのか解明できない謎の「罪悪感」はジワジワと膨れ上がり、自堕落な日々にその「価値」を問いかけ始める。

「俺は一体、何してんだ?」と。

こうなってくると心身ともによろしくないので、何か始めなくては行けないのです。

「さよなら、全ての自堕落。」

ようやく自分の本分を思い出し、曲を作り始めた。

「こんな状況の中で、戦っている人がいるんやなぁ。」とか、「きっと俺みたいに、腐りかけてる人おるんやろうなー。」とか、人に会っていないのもあり、いつも以上に人に想いを馳せやすかったのだろう。「ライブも出来ないし、直接ファンの人達に会いに行けないなら、会いに行ける音楽を作ろう。」ふと、心にそんな気持ちが芽生えてきた。

そこから、メンバーと久々に会って想いを交わして、曲を作り始めた。スタジオに入って一緒に音を鳴らす。それだけで幸せが湧き上がってくる。忘れかけていた熱を取り戻したような感覚だった。アルバムの制作に向けて、自分たちのプライベートスタジオを作り、4人でそこに集まって制作をすると、音を紡いでいくのが楽しくて、嬉しくて、おもちゃで遊ぶ子供みたいだった。

腐りかけていた僕は、このアルバムを作る事で救われていった。

その後の暮らしは自堕落でいることは減っていった(たまにはあったけど)。せっかく時間があるからこそ、手間をかけて暮そう。久々にレコードを集めて見つけたフランク・シナトラの「Fly Me to The Moon」は、リビングをラウンジのように優雅にしてくれる。自分でコーヒーを淹れたくなって、初めて豆から挽いてみたら、まさに「月にだって飛んでいけそう」な幸福感だった。

デジタライズされて簡単にできる事に敢えて自分で手間をかけ、その時間を味わう。それだけで人生には贅沢な幸せが山ほど転がっているのだ。日常を音楽はよりドレスアップしてくれるとフランク・シナトラは教えてくれた。

今回生まれた『MUSIC WARDROBE』には僕自身のそんな実体験が宿っている。幸せな時も、辛い時も、音楽を暮らしの中で身に纏えば、心が、人生が動きだす。効率や、必要性だけじゃない大切なものがある。


さて、そろそろアイスは食べごろだろうか? この先ピスタチオアイスを食べる度に、僕はこのエッセイを思い出すだろう。今回のエッセイは僕にとってピスタチオアイスを美味しくいただく為の「ひと手間」なのだから。

それではこの辺で失礼。

<FIVE NEW OLD HIROSHI(Vo/Gt)>

◆ニューアルバム『MUSIC WARDROBE』
2021年4月7日発売
初回限定盤 WPZL-31819/20 ¥4,500+税
通常盤 WPCL-13280 ¥3,000+税

<収録曲>
1 My house
2 Summertime
3 Breathin'
4 Hallelujah
5 Sleep in Till The Afternoon
6 Don't Be Someone Else
7 Oblivion
8 How to Take My Heart Out
9 Nebula
10 Chemical Heart (feat.Masato from coldrain)
11 Knock Me Out
12 Plane Garden
13 Light Of Hope
14 Vent
15 Moment
16 Awakening