これは偶然が運んできた必然だなと腑に落ちる瞬間がある。

 2020年11月25日に“Helsinki Lambda Club”が全13曲入りのセカンドフルアルバム『Eleven plus two / Twelve plus one』をリリースしました。コンセプトは【ヘルシンキの過去から現在、そして未来】です。実験精神と冒険精神が溢れる今作、是非ご堪能あれ!

 さてに、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“Helsinki Lambda Club”の橋本薫による歌詞エッセイをお届け!綴っていただいたのは、今作のタイトルについてのお話。そして、そこに込められている想いの軸となるような楽曲「you are my gravity」についてのお話です。是非、このエッセイを読んだ上で改めて、収録曲の歌詞をじっくり読んでみてください…!

~歌詞エッセイ:「you are my gravity」~

先日こちらで作詞における3つの柱というテーマでエッセイを書かせていただきましたが、再度書く機会をいただきました。おかわりありがとうございます。今回は11月25日リリースの我々の2ndフルアルバム『Eleven plus two / Twelve plus one』について、その世界観を最後の収録曲である「you are my gravity」という曲を軸に紐解いていきます。

“love”という英語は和訳すると愛だ。もしくは恋だ。似ているけれど少し違う。それでは“gravity”はどうか。和訳すると引力だ。もしくは重力だ。似ているけれど少し違う。この“同じようでほんの少しずれていること”というのも本作の裏テーマみたいなところがある。

アルバムタイトルの話。『Eleven plus two / Twelve plus one』それぞれの文を、単語をジッと見てみよう。きっと見てもわからないだろう。なので説明すると、この二文はアナグラムになっていて、どちらも同じ種類と数のアルファベットで構成されている。本質的には同じものも見る角度でまったく別のものに見えることもある。どちらも足すと13なのにね。

遠心力にやられて話はビュンビュン飛んでいく。必然と偶然の話。昔から運命みたいなものは嫌いじゃない節があったけれど、最近は特に必然と偶然を意識することが多い。それが必然か偶然かなんて、神のみぞ知るだ。その神というのも人間の必然や偶然が創り出したものかもしれない(ちょっとデリケートな話なのでイエローカード)。「you are my gravity」の歌詞の中に

“祈るためのステンドグラス
作りものの神は言う”


という一節が出てくるのだが、これは10年近く前にイギリスに留学をしていた時の経験が元になっている。イギリスには歴史の古い教会が沢山あり、色んな由緒ある所に足を運んで硬い木製の椅子に腰掛けてジッと天井を眺めたりしていたのだが、舞台装置と言ってもいいくらい完璧なシチュエーションの中にいると本当に神様はいるのかもしれないなという気持ちになってくるのだ。神がいそうな雰囲気を極限まで人為的に作り出して、そこに偶然完璧な角度で日が差して完璧なタイミングでパイプオルガンの音色が響いたりすると、神の存在が必然になる気がする。

必然ととるか偶然ととるかというのは、基本的には自己の解釈でしかないけれど、時々ストンとこれは偶然が運んできた必然だなと腑に落ちる瞬間がある。昨今のコロナ禍においては、心が挫けてしまいそうなことばかりだけれど、この作品においては沢山の必然が舞い降りて表現の説得力や強度が増したように思う。

最初は12曲の予定だったけれど結局13曲になったしね。偶然からアルバムタイトルとの必然が生まれた。これ以外はないなってくらいに。

話を“gravity”に戻そう。和訳すると引力であり重力であると先ほど述べたが、その違いってわかるだろうか? どうやら引力は「物体が互いに引き合う力」で重力は「地球の引力と自転の遠心力を合わせた力」だそう。重力がちょっとわかりづらいね。地球上のすべての物体にかかる力、圧って感じ?

「you are my gravity」、引き合う二人というロマンチックな響きにもとれるし、自由を奪う足枷のようにもとれる。“you”が誰を・何を指すのか、“gravity”がどっちの意味なのかは人によってその時によって解釈が違うでしょう。同じようで違うこと。物事の二面性。君のもとへ戻りたいのか、それとも戻ってしまうのか。はたまたそのどちらもなのか。

“雨が止んで 家を出た
昨日までの二人とは違うってこと”


外側から見てもきっと二人は昨日と何ら変わらない様子なんだけれど、二人の中では何か変化が起きている。同じようで違うこと。

この作品は「過去、現在」そして「未来」という二つのテーマに分かれている。タイトルも然り。曲を聴いてもその二つでは全然違うアプローチに見えるかもしれないけれど、結局歌いたいことであったり世の中で起きていることっていうのは、あまり変わらなかったりするのかもしれない。真っ直ぐ歩き続けたつもりが気付いたら円を描いていたのかもしれない(地球は丸いしね)。だけど、ほんの少しだけ円の端っこと端っこがズレていたとしたら? 外側から見たら気付かない二人のように。もう一周したらまた少しズレて、更にもう一周したらまた少しズレて。

それが希望なのか絶望なのかは人それぞれというか世の中次第。少なくとも完全な堂々巡りよりは希望があるんじゃないかな。

この作品を一周して聴いたあとに、次の一周で少し感じ方が変わったりしたら面白いし嬉しいなと思う。CDショップの棚で、ストリーミングのプレイリストの中で、偶然手にする人たちが沢山いますように。既に好きでいてくれているあなたたちの必然に少しでも関われますように。

<Helsinki Lambda Club・橋本薫>

◆紹介曲「you are my gravity
作詞:橋本薫
作曲:橋本薫

◆『Eleven plus two / Twelve plus one』
2020年11月25日発売

<収録曲>
01 ミツビシ・マキアート
02 Debora
03 それってオーガズム?
04 Good News Is Bad News
05 パーフェクトムーン
06 Shrimp Salad Sandwich
07 Mind The Gap
08 午時葵
09 IKEA
10 Sabai
11 眠ったふりして
12 Happy Blue Monday
13 you are my gravity