ラブリーサマーちゃん

悪戯に、自己アップデート欲求を刺激されても、私は簡単になびかない

 2020年9月16日に、ピチピチロックギャルの“ラブリーサマーちゃん”が、4年ぶりとなるフルアルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』をリリース!今作は、UKロックやネオアコースティック、ローファイなどへの憧憬が感じられるロックアルバム。ライブ会場のみで披露されていた人気曲「More Light」「豆台風」「I Told You A Lie」などの新曲を含む全11曲が収録されております。

 さて、歌ネットではそんな最新作から新曲「AH!」の歌詞先行公開スタート!さらに、今作の初回限定盤限定ブックレットに収録の「AH!」セルフライナーノーツも独占先行公開です!今、あなたには“自己実現欲求”がありますか? その欲求は、見えない誰か、何かに、無責任に刺激されているものではありませんか…? 是非、歌詞と併せて、彼女の想いを受け取ってください。

~M1.「AH!」セルフライナーノーツ~

2019年の年始、映画『ファイト・クラブ』を観た。私が“こんなのおかしい”と思ってきたことがクリティカルに表現されていて、触発されてこの曲を書いた。

この歌詞を書いた2019年4月頃、私は大学4年生だった。芸術系の大学だったためか、皆何かを作りたがり、何者かになりたがっていた。やりたいこと・なりたいものがあり、それに対して一生懸命になるのは素晴らしい。だが、そういった自己実現欲求を養分にして誠意のかけらもない金儲けをするシステムがあり、そういった輩に騙されるアホな自分や友達がいた。

例えば声優や俳優の養成所、「これを飲むだけで-10キロ!」と謳うYouTubeのダイエット広告、スター発掘番組。まともな養成所もダイエット商品も何処かにはあるのだろうが、私の周りにあったものは違った。4年間俳優の養成所に通った友達は無給のエキストラ止まりだった。彼の才能が無かっただけかもしれない、養成所に通い続けることを選んだのは彼自身であるからそれで良い。だが、彼が支払ったレッスン料で、売り出し中のタレントの広告が打たれている。なんでもないことかもしれないがやりきれなかった。

「太ったら恋人に浮気され、痩せて見返して幸せをゲット!」といったストーリー仕立てでダイエット商品を売るYouTubeの広告も、「なんでもなかった君が一夜にしてスター!」と謳うテレビ番組も、“今の自分より高度な自分になりたい”という夢とか希望とかいったものを悪戯に煽って弄んでいるようにしか見えなかった。

ダイエット商品の購入も、オーディション番組に出演するという決断も悪くはない。その人が満足していればそれでいいが、“今の自分より高度な自分になるべき、今より良い暮らしをするべきなんですよ”と見えない何かからいつの間にか洗脳されているなんてことはないだろうか。

本当に、今より高度な自分になるべきなのだろうか。今のままでも十分なのではないか?今の自分じゃ足りない!ダメだ!痩せなきゃ!頑張らなきゃ!と思い続けるのは辛いことなのではないか?今のままの自分に十分に価値があると思えないから、胡散臭いシステムや商品にお金を払いそうになってしまうのではないか、それは悲しいことなのではないか。 そして、“自分をアップデートしなくてはならない”という価値観が、誰かの金稼ぎのために巻き起こったものだとしたら?

ファイト・クラブは、戦後 資本主義と個人主義が推し進められた現代を、病める時代として描いた作品であると解釈している。 戦時中、人は大勢戦死するが、自殺者は少ない。戦争によって巨大な敵が現れ、敵に勝つという目的、役割、やるべきこと、意義が与えられ、国民は団結してアイデンティティを獲得できるためである。

戦争に限ったことではない。受験後の燃え尽き症候群、定年退職した人の鬱、そして犬を飼うことによってその鬱が良くなっていく等。人は“やるべきこと”を失って暇になると精神のバランスを崩す。 戦後、日本やファイト・クラブの舞台となっているアメリカは、他国と戦うという大義を失った。

社会学者、デュルケームは、自殺の要因を大きく四つに分け、その中の一つを“アノミー的自殺”とした。アノミー的自殺とは、社会の規範の弛緩や崩壊により、個人の欲求への適切なコントロールが働かなくなる結果、無制限の欲求に駆り立てられる個人における、幻滅、虚しさによる自殺である。

以下にデュルケーム「自殺論」を引用する。

豊かさは、それが与える力から、自分の力でなんでもできるという幻想をいだかせる。それは、物がわれわれにおよぼしていた手ごたえを減じさせるので、そのため、われわれは、物をいくらでも手に入れることができると思いこんでしまう。ところで、人は、自分に限界が課せられていないと感じると、あらゆる制限をますます耐えがたいとおもうようになるものである。
~中略~
今確認してきたこの第三の種類の自殺は、人の活動が規制されなくなり、それによってかれらが苦悩を負わされているところから生じる。その原因にちなんで、この種の自殺をアノミー的自殺と名づけることにしよう。

ファイト・クラブの主人公のセリフを引用する。

「宣伝文句にあおられて要りもしない車や服を買わされてる
歴史のはざまで生きる目標が何もない
世界大戦もなく 大恐慌もない
俺たちの戦争は魂の戦い
毎日が世界大戦で、毎日が解放の日だ
テレビは言う“君もある日、ミリオネア、ムービースター、ロックスター”
だが それは違う
その現実を知って俺たちはムカついてる」

この通りだと思った。このセリフを曲にしたいと思って曲を書いた。勿論私は戦争を肯定しない。絶対に起こってほしくないことだと思っている。しかし、大きな困難や意義がなくなった時代で人間が次に戦うのは自己である。自己との戦いは大きな精神的苦痛である。そしてその自己との戦いを資本主義が加速させていく。

本来私たちは生まれながらにして尊厳を持っている。太っていたって、何者かでなくたって誰だって持っている。なのにいつの間にか財布も尊厳も、見えない誰か、何かに握られている。“そんなの何も気にしてない、自分は自分に満足しているし自己をアップデートしなくてはいけないような気にさせられたことなどない”と言う人も勿論いるだろうが、ある日の私や私の周囲はそうでなかった。

夢みがちな“If”の話を無責任にこちらにチラつかせ、畏怖させ、洗脳し、誰かの尊厳を少しづつ削る世の中を思うと、アーーーーーーーーとしか言えなかった。 そして、アー!と歌いまくり、この曲ができた。 悪戯に、自己アップデート欲求を刺激されても、私は簡単になびかない、騙されない。そういうことを歌いたかった。

<ラブリーサマーちゃん>

◆紹介曲「AH!
作詞:ラブリーサマーちゃん
作曲:ラブリーサマーちゃん

◆3rd Full AL『THE THIRD SUMMER OF LOVE』
2020年9月16日発売
初回限定盤 COCP-41239 ¥3,300 + tax
通常盤 COCP-41240 ¥2,500 + tax

<収録曲>
M1. AH!
M2. More Light
M3. 心ない人
M4. I Told You A Lie
M5. 豆台風
M6. LSC2000
M7. ミレニアム
M8. アトレーユ
M9. サンタクロースにお願い
M10. どうしたいの?
M11. ヒーローズをうたって
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