人生で初めて死を感じたのかもしれない3日間でした。

 2020年8月19日に“湯木慧”がメジャーファーストEP『スモーク』をリリースしました。今作について彼女は「モノが燃えて灰になるまでの間で生み出される煙のように、自分と他者、人間と人間、過去と未来、理想と現実、そのどちらでもないという曖昧なモノ、それらの間で生み出される煙のような感情を作品にしました」とコメント。

 さて、今日のうたコラムではそんな最新作をリリースした湯木慧による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回は第1弾第2弾に続く、最終回です。綴っていただいたのは、今作の収録曲「スモーク」と「狭間」についての想い。彼女が何を見つめ、何を感じ、何を伝えたくて誕生した2曲なのか…。是非、歌詞と併せて、このエッセイを最後まで受け取ってください。

~歌詞エッセイ最終回~

「分かりません。」



なんだか世の中は「分かりません。」と言いにくいなと思う。そして私は「分かりません。」と言うのが、すごくこわかった。分からないことはいけないことで、曖昧なのもいけない、優柔不断もダメ、そう思っていた。

そんな私はまんまと、この世の中の空気にのまれ、まんまと、分からないのに分かったフリをする人形かお化けのようなモノになっていた。



だからどんどん、自分が分からなくなっていった。








というわけで、歌詞エッセイ最終回、始まりました。よろしくお願いします。私は湯木慧です。最終回は『スモーク』というCDの中の「スモーク」と「狭間」という曲について書いていきます。

まずは今作の表題曲「スモーク」という曲について。



今作を制作している中で、“分からない”に呑まれ本当に分からないの中にいた時に、見つけたたった一つの自分が持てた光。それは「分からなくても良い」という考えでした。

この「スモーク」という曲は、自分を肯定してあげる。というメッセージをまず自分自身に向けて歌っていて、そして自分を肯定してあげることが難しく感じるようなこの世界で、もし、私以外にも自分と自分との世界で深く渦巻くように戦ってる人が居るのであれば、自分を肯定する力や勇気や温かさが一つ届いたらいいなと思い完成まで辿り着いた楽曲でした。





そして次は、最後の曲「狭間」について。





気付いたら、3日間何も食べず風呂にも入らず歯も磨かず、僕は、キッチンの床に座っていた。


「………………………………………………………………
…………………………………………………………………
…………………………………………………………………
…………………………………………………………………
…………………………………………………………………
…………………………………………………………………
…………………………………………………………………
…………………………………………………………………
…………………………………………………………………
…………………………………………………………………
…………………………………………………………………
…………………………………………………………………
…………………………………………………………………
…………………………………………………………………
…………………………………………………………………
…………………………………………………………………
………………………………………………………。」


だんだんなくなっていく心の視野を、どうにか消さないように、静かに、ただ静かに呼吸することしかできなかった。



そんな私に残っていた唯一の感情は、
“曲を作らなきゃ”という感情。
本当にそれだけの感情で、作業台まで歩いて、
もはやなんで泣いてるのかも分からないまま、
手ぐせコードを鳴らし、ただ、歌を書いた。

何かの狭間で。





狭間という曲は、そんな3日間に書いていた曲です。首を吊る訳でも、手首を切る訳でもないのに、人生で初めて死を感じたのかもしれない3日間でした。恐怖や分からないという感情に飲み込まれた中、これもまた人生で初めて1mmも誰かに向けた訳では無い作品を作りました。そんな曲を、今作は一番最後のトラックに持ってきて、そして、完成したのが、『スモーク』です。


正解も不正解もない世の中、何を言ったって何をやったって批判されるような、この世の中で、“分からない”の中で削られて生まれたこれらの曲が、答えのない“分からない”ということと戦っている人と共になれるような作品になっていたらいいなと思っています。



私は、悩んで、考えて、もがいた後、
心から、
『分かりません。』
と言える人間になりたい。








これにて、私の歌詞エッセイ企画は終了でございます。3回に渡って楽しんで頂けたでしょうか…、皆々様の感想が気になるところではございますが、兎にも角にも、本当に最後まで、ありがとうございました。

本当に底に落ちてる時は、感情や言葉なんて何も出てこないもので、だから、こうして今言葉が出てくること、そして、言葉を届ける機会を頂いていることに、物凄い奇跡と感謝を感じております。本当に、この企画に関わってくださっていた人全てにありがとうございました。






あっ、
でももう私は、
どんなに底に落ちても、
わからなくなっても、
『分からなくなった』
と、言葉にするんだろうな。


これから、湯木がどんな言葉を紡いでいくのか、
楽しみです。



ありがとうございました。
またどこかでお会いしましょう。

<湯木慧>

◆紹介曲「スモーク
作詞:湯木慧
作曲:湯木慧

◆紹介曲「狭間
作詞:湯木慧
作曲:湯木慧

◆メジャーファーストE.P.『スモーク』
2020年8月19日発売
初回限定盤 VIZL-1768 ¥2,400+消費税
通常盤 VICL-65379 ¥1,800+消費税

<収録曲>
1. Answer
2. 雑踏
3. 追憶
4. Careless Grace
5. スモーク
6. 狭間