愛ゆえに正しくいられないことも、たまにはあっていいと思う。

2020年8月5日に“さとうもか”がニューアルバム『GLINTS』(読み:グリンツ)をリリースしました。きらめきを表す「GLINTS」と名づけられた今作は、夏の恋にまつわる短編映画10作のオムニバスのような、自身初の季節をテーマにした作品に。アルバムと同タイトルのリード曲「Glints」は、突き抜けるような爽やかさと勢いがありながら、淡い夏の情景が浮かぶ、きっと誰もが体験した奇跡の瞬間の連続で起こる最高の夏を歌った1曲となっております…!
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“さとうもか”による、歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回は第1弾第2弾に続く、最終回です。綴っていただいたのは、今作の収録曲「愛ゆえに」にまつわるお話。たとえ、隣に居心地が悪くても、自分を犠牲にしてしまっても、それでもそばにいたい…そんな恋をしているあなたに届きますように。

~歌詞エッセイ最終回:「愛ゆえに」~

女の人の準備は時間がかかる。もちろん最速を目指せば、歯を磨いて顔を洗って終わり。それでもって着古して寝巻きに降格したTシャツなんかを着る時だってあるけど、好きな人と会うとなると、話は別だ。

準備は前日のお風呂の時間から始まる。肌も髪も、寝る前にたっぷり仕込んで、小顔になるマッサージなんかも調べて試す事だってある。明日着る服のコーディネートを考えて、髪の毛のセットとメイクをするには、出発の○時間前に起きて……文字にするととんでもなく面倒くさそうに見えるけど、実際好きな人と会える前日に、そんな事は1ミリたりとも思わない。

それでも「ごめん、やっぱ今日はやめとく。」の一言でその全てを無しにされてしまう時もある。すぐに「全然いいよ」と返信して、自分に仕方ないと言い聞かせて、行き場のない気持ちをどうすればいいか分からないまま、空いてしまった休日が終わっていく。

私の3rdアルバム『GLINTS』の中の「愛ゆえに」という曲の主人公は、そんな事にモヤモヤしながらも、“彼に嫌われるのが嫌”という理由がしっかりあった上で相手を許していた。だから2人の間では多分それなりに成り立っていたんだと思う。

でもそんな関係が長く続くと、そうじゃなかった頃の自分をだんだんと思い出せなくなっていく。彼との時間を作るために、色々なものを犠牲にして、今残っているのは彼だけなんじゃないかと錯覚する。頑張れば頑張るほど上手くいかなかったり、大切に、慎重に触れようとするほど遠くなっていくのは、もはや誰が悪いでもなくて、多分もうどこかの時点で本当は終わらなければいけなかっただけの事なんだと思う。

終わりは言葉にすれば簡単だし、他人から見れば一言で終わるような事だけど、実際自分の事になると、そう簡単にはいかない。思い出も愛もずるい気持ちも信じたい気持ちも、そんな全部をひっくるめて答えを出すなんて、すぐに出来るわけがない。

幸せの形は本当にそれぞれだと思う。この曲を主人公の目線で見ると、相手の男の人の方がどうしようもない人間だと思うかもしれないけど、逆にこの男の人の元々の性格や、主人公に対して思っていた事も色々あると思うし、そもそも主人公が相手と同じくらい自由な人だったら、お互いの違いをもっと理解して認め合っていたら、もしかすると2人は上手くいっていたかもしれない。

2人の関係は2人で作っていくものだけど、主人公はその2人で作り上げた関係の中にいる事が、最終的に苦しくて悲しかった。それに多分、相手の男の人もそうだったんだと思う。だから、ただひたすらに仕方のない事だった。誰も悪くない。もうそうなるしかなかった。

それでも私は、自分の気持ちに嘘を付きたくなる程人を好きになれる事は、誰がなんと言おうと、本当に特別で素敵な事だと思う。愛ゆえに正しくいられないことも、たまにはあっていいと思う。

<さとうもか>

◆紹介曲「愛ゆえに
作詞:さとうもか
作曲:さとうもか

◆3rd ALBUM『GLINTS』(読み:グリンツ)
2020年8月5日発売
ANCP-006 ¥3,000 (税込)

<収録曲>
1.Glints
2.オレンジ
3.Poolside
4.愛ゆえに
5.パーマネント・マジック
6.Strawberry Milk Ships
7.あぶく
8.アイスのマンボ
9.My friend
10.ラムネにシガレット