作詞家をはじめ、音楽プロデューサー、ミュージシャン、詩人、などなど【作詞】を行う“言葉の達人”たちが独自の作詞論・作詞術を語るこのコーナー。歌詞愛好家のあなたも、プロの作詞家を目指すあなたも、是非ご堪能あれ! 今回は、ボーカロイドプロデューサーであり、「ロストワンの号哭」「脱法ロック」など数千万回以上の再生数を誇る楽曲を多数制作している「Neru」さんをゲストにお迎え…!
作詞論
 
作曲の延長線上にあるもの。
作詞という名を持った工程の作曲。
作詞によってメロディラインがリズム、グルーヴを殺さないように常に気を配っています。
音節(シラブル・モーラ)による抑揚を操作するという縛りプレーの中で、
自由な言葉選びを楽しむのが作詞だと思っています。
[ Neruさんに伺いました ]
  • Q1. 歌詞を書くことになった、最初のきっかけを教えてください。

    元々インストゥルメンタル楽曲よりも歌モノを好んで聞いていたというのが第一です。そしてVOCALOIDカルチャーへの憧れがあったため、そこからソフトや楽器を揃えて音楽制作を学びました。

    インターネットでVOCALOIDを用いた楽曲のリリースを行っていく上で、曲を作るからには歌詞が必要だな、とトライしたのが始まりでした。

  • Q2. 歌詞を書く時には、どんなところからインスピレーションを得ることが多いですか?

    普段からどんな瞬間でも頭の中で何かを煮詰めてしまう性格なので、そういったとっ散らかった喧騒の渦みたいなものの中からテーマや言葉を選ぶ事がほとんどです。手が空いている時には考えをメモに取るようにしていて、後でそれを見返しながら作詞を進めることがあります。

  • Q3. 普段、どのように歌詞を構成していきますか?

    ある程度、作曲の段階でメロディと一緒に言葉が聞こえてくる事があるので、そこから広げていく場合が多いです。

    特にそういった事がない場合は、曲頭でもサビでも思いつくところから手を付けます。
    とにかく何かしらの手段で最初の一手を動かしてみるということを大切にしています。

  • Q4. お気に入りの仕事道具や、作詞の際に必要な環境、場所などがあれば教えてください。

    良いフレーズが思いついてもメロディとの相性が良くない事が作詞中にはよく発生するので、類語辞典を常に用いて制作を進めます。

    猶予があれば(自分の中での)100点でなく120点、200点でも狙ってやろうと意気込んでしまうので、時間的な制約があった方が完成しやすくて助かります。

  • Q5. ご自身が手掛けた歌詞に関して、今だから言える裏話、エピソードはありますか?

    脱法ロック」という楽曲を制作した際、その時やりたい事を面白可笑しくやってやろうという著明なイメージがあって、肩の力を抜いて作詞をしたら深夜テンションの2~3時間で書き終えてしまったという体験がありました。

    1日かかっても最後の1行がしっくりこないということもありますし、時間をかければ良いというものでもなくて、作詞とは一期一会そのものだなと感じた思い出です。

  • Q6. 自分が思う「良い歌詞」とは?

    いつの時代でも、例えば子供の頃に出会って大人になって聞き返しても、何か読後感を覚える言葉の響きがあるもの。

  • Q7. 「やられた!」と思わされた1曲を教えてください。

    サンボマスターの「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」を挙げさせてください。
    初めて聴いたのは中学1年生の頃でしたが、YouTubeチャンネルの『THE FIRST TAKE』で聞き返す機会がありました。

    サビの<心の声をつなぐのが これ程怖いモノだとは>という一節にかなり胸を打たれました。
    人とは未来の安寧を守る為に今の自分に依存したがる傾向にあると思います。
    そこから一歩、踏み出す勇気こそが恋の美しさだよなと改めて感じました。

    そういった言語化されていないけど皆が感じている集合的無意識を、音楽というフォーマット、しかもサビで反復するのが素敵過ぎます。

  • Q8. 歌詞を書く際、よく使う言葉、
         または、使わないように意識している言葉はありますか?

    発音が繋がりやすい音節(もう、そう、さあ、etc)はメロディの抑揚をコントロールしやすいので、多用している記憶があります。

    死生といった主題は命の根幹に基づくので、厳格に扱われるべきだと思っています。
    そういった表現を行いたい場合は、できるだけ婉曲的なアプローチを取るようにしています。
    音楽、とりわけ大衆音楽においては誰かを救うかもしれないけど、一方で誰かを傷つけることもあると私自身は感じているからです。

  • Q9. 言葉を届けるために、アーティスト、クリエイターに求められる資質とは?

    作品は誰かのものである前に自分のものでもあります。
    数年後の自分が聞き返して、「改めてこの言葉を選べてよかったな」と思える楽曲を残していってほしいと老婆心ながら思います。
    落ち込んだり塞ぎ込んでしまった時、きっと自身の作品がそっと背中を押してくれる事があるでしょう。

  • Q10. 歌詞を書きたいと思っている人へのアドバイスをお願いします。

    10数年、音楽活動を続けてきましたが、私自身、作詞とは何なのかを理解していません。
    作曲で言うところの音楽理論のように体系化するのも困難です。

    ですからとにかく経験を積み重ねる事がコツなのかもしれません。
    取り急ぎ一筆、後で全部消してやってもいいんだぜという気持ちで手を動かしてみることを是非オススメしたいです。

歌 手
ナナヲアカリ
タイトル
一生奇跡に縋ってろ
自分という人間の自己効力感、自己肯定感のねじ曲がり方がよく表れていて気に入っています。結局あくせく前や後の事について悩むというのは非常に愚かな行為で、つまるところ今を精一杯やりきるしかないんだぞ、と自分に言い聞かせたいのだと思います(上記の通り、延々と何かについて考え続けてしまう性分なので)。
Neru(ネル) ボーカロイドプロデューサー。
2009年にボーカロイドを用いた作曲活動を開始。
2011年、18歳のときにニコニコ動画に投稿した「アブストラクト・ナンセンス」「東京テディベア」が瞬く間に人気を集める。
「ロストワンの号哭」「脱法ロック」など数千万回以上の再生数を誇る楽曲を多数投稿。それ以降も、疾走感溢れるサウンドと聴衆の心を揺さぶる歌詞でカリスマ的な人気を誇っている。