第77回:紅白経験&本年不出場アーティスト限定 人気曲TOP15
紅白歌合戦に落選したアーティストの人気曲は?
 前月の歌詞検索ランキングから、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて"キラ☆歌")を発掘しようというこのコーナー。今月は、NHK紅白歌合戦に経験のあるアーティストのうち、本年不出場アーティスト限定で人気曲を分析した。
 毎年、この時期になると盛り上がるのが、紅白歌合戦に関する話題で、今年は初出場・再出場を合わせて15組のアーティストが並び、例年以上に入れ替えが多かったように思える。その中には、CDセールスで好調な乃木坂46やμ's、演歌の三山ひろし&山内恵介、復活LIVEが話題となったX JAPANやレベッカ、周年アーティストとして精力的に活動した今井美樹、近藤真彦、島津亜矢、そしてダウンロードや歌詞検索でも人気のSuperfly、BUMP OF CHICKEN、ゲスの極み乙女。など実に多種多様な切り口での人選が行われており、これについては概ね好評だったように思える。
 その一方で、昨年出場していたのに今年落選となったのはSKE48、HKT48(といっても、彼女たちの大半はAKB48コーナーで出そうな気がします。。。)、水樹奈々、きゃりーぱみゅぱみゅ、ももいろクローバーZ、ポルノグラフィティ、T.M.RevolutionなどCDヒットの常連組も少なくない。
 そこで今回は、過去に選ばれつつも本年は不出場というアーティスト限定で人気曲を探ってみた。なお、当初は"紅白未経験アーティスト"も含めたランキングも考えたが、そうするとback numberだらけとなり、全体像が見えにくいので、今回は紅白経験組に限定している。
第77回 紅白経験&本年不出場アーティスト限定 人気曲TOP15(2015年12月:2015年11月データより分析)
テーマ
順位
総合
順位
アクセス
指数
タイトル
アーティスト
発売日
1位 7 100.0 新宝島 サカナクション 2015/9/30
2位 37 39.5 ハピネス AI 2011/12/14
3位 40 38.7 奏(かなで) スキマスイッチ 2004/3/10
4位 50 34.1 花束 中島美嘉 2015/10/28
5位 74 26.8 366日 HY 2008/4/16
6位 82 25.3 Story AI 2005/5/18
7位 105 21.3 中島みゆき 1992/10/7
8位 115 19.8 君に届け flumpool 2010/9/29
9位 143 17.5 赤い糸 コブクロ 2008/10/29
10位 145 17.5 三日月 絢香 2006/9/27
11位 148 17.4 未来予想図II DREAMS COME TRUE 1989/11/22
12位 150 17.3 Best Friend Kiroro 2001/6/6
13位 159 16.8 タカラモノ〜この声がなくなるまで〜 ナオト・インティライミ 2010/5/19
14位 167 16.0 flumpool 2011/9/7
15位 179 15.0 やさしいキスをして DREAMS COME TRUE 2004/2/18
次点 194 14.1 いつかきっと ナオト・インティライミ 2015/4/8
※紅白歌合戦に1回以上出場経験があり、なおかつ2015年末の最新回には出場しないアーティスト限定で
 人気曲を調べてみた。
不出場組の今年のヒット曲は意外と少ない。但し、10年以上支持されている
楽曲も見られ、紅白がロングヒット歌手を網羅しているのもまた事実
 まず、表全体を見渡すと、不出場組の全16曲中今年のヒット曲は3曲とかなり少ない。これは11月度のランキングだが、年間ランキングで不出場組の今年の楽曲を探しても、3月発売のきゃりーぱみゅぱみゅ「もんだいガール」と4月発売のナオト・インティライミ「いつかきっと」が総合TOP30内に入るだけで、やはり少なめだ。つまり、紅白経験のある不出場組は、少なくとも歌詞の面から突出して支持されている人が少ないということだ。ここに、例えば絢香やT.M.Revolutionが入っていたならば、楽曲としてヒットしていることが明確で、今年の連続出場も決まったのかもしれない。

 今年発売の作品を見ると、1位がサカナクションの「新宝島」。iTunesでは最高1位を含み、6週間TOP10入りするヒットなので、紅白じゃなくても例えば年末の『ミュージックステーションスーパーライブ』のような大型音楽番組に出れば、テクノポップの黎明期を思わせる昭和の歌番組風のプロモーションビデオや振り付け、耳馴染みのよい曲調なども相まって、今後さらにロングヒットするポテンシャルは十分にある。
次点のナオト・インティライミの「いつかきっと」も、長く支持されることで、本作がリード曲となった5周年ベストアルバム『THE BEST!』も累計12万枚の自己ベストのヒットに。彼の場合は、音楽への関心が薄いファンまで取り込むトークやパフォーマンス力があり、その存在自体が"紅白向き"なので、今後もヒットを継続すれば、復活の可能性は十分ありそうだ。

 そして、ランキングの大半を占めるのが、昨年以前の人気曲。ここ数年、コカ・コーラのCMにて冬の風物詩となっているAIの「ハピネス」、カラオケ番組などで歌われる度に再浮上を繰り返す、スキマスイッチ「奏(かなで)」やHY「366日」など、スタンダード曲ばかりだ。中には、中島みゆきの「糸」や、DREAMS COME TRUEの「未来予想図II」など90年代の名曲も見られる(10年以上前の楽曲を濃い網掛けで示すことにした)。
 これを見ると、不出場組に今年のヒット曲が少ないという風にも取れるが、視点を変えてみると、"不朽の名作"を持つアーティストの大半は、過去に一度は紅白に出場しているという事実も見出される(実際、歌詞の超ロングヒットを持つアーティストで、紅白に出たことのないのは「小さな恋のうた」を歌ったMONGOL800のみ。)そう考えると、J-POP組でも紅白に出るアーティストというのは、ヒット曲を持ちうるある種のステイタスとも言えそうだ。

 以上、今年不出場の紅白キャリア組には、今年のヒット曲は意外に少なく、逆に過去のロングヒット曲が多いことが分かった。今年出場するアーティストの中にも、数年後紅白を離れたとしてもロングヒットしそうな楽曲が多数出ることを期待したい。やはり、それだけアーティストや楽曲が幅広い年代に認知される貴重な機会なのだから。
第4位:中島美嘉「花束」
 映画『NANA』関連作やコラボ作品を含め通算40作目となるシングル。同事務所の篠原涼子が主演をつとめるフジテレビ系ドラマ『オトナ女子』主題歌となっていることもあり、CDではオリコン週間30位ながら、ダウンロードではレコチョク週間4位、iTunes週間12位と、ここ数作では及第点のヒット。(これだからヒットを単一的に評価するのは難しいのです。)
 本作は、玉置浩二作詞・作曲のバラードで、玉置らしい情熱ほとばしる起伏の激しいメロディーラインを、中島が出だしの高音ファルセットから、穏やかにつぶやく低音部まで、まるで揺れる炎のようにドラマティックに歌っている。きっと、音源を上手く繋ぎ合わせたり、機械で均(なら)したりすれば、もっと落ち着いて聞こえるのだろうけど、あえて感情をむき出しにしたのではないだろうか。しかし、この効果の為か、不器用でも本物の愛を捧げようという歌のメッセージがいつもよりリアルに伝わっているように感じられる。
 シングルカップリングには、TBSドラマ『表参道高校合唱部』での劇中歌のソロ・バージョン。こちらも、ドラマ中では出演者たちが綺麗なハーモニーを聴かせていたが、中島版は独特なビブラートを多用して随分と感情的。メイクやヘアスタイルもますます前衛的になっているので、今後、音楽に対するスタンスが、どう変化していくのか注目していきたい。


ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。
ルーキー部門第8位:水曜日のカンパネラ
  
 今月は8位にランクインした水曜日のカンパネラに注目。彼らは、ボーカルのコムアイをメインとした音楽ユニットで、今年になってから、ヤフオク!のCMにて、コムアイが自由奔放に振舞う様子が話題となっているが、音楽面でも非常にユニークな存在だ。
 彼らは、2013年からヴィレッジヴァンガードやタワーレコードなど、ごく一部の限定流通にてCDリリースを開始。ハウスやヒップホップ、テクノを自由に行き来するサウンドに、歴史上の人物や映画のキャラクターなどを題材としつつも、現代をシニカルかつコミカルに投影した歌詞を載せるというスタイルが特長的。加えて、早口ラップから、伸びやかなコーラスまでこなすというコムアイの歌唱も大きな魅力だろう。(あまり語られていないが、どの作品も耳馴染みが良く、これがJ-POPファンにも訴求しうる武器だと思う。)
 特に、注目度が一気に高まったのは、14年11月に発売された4thアルバム『私を鬼ヶ島に連れてって』収録の「桃太郎」。ゲームに熱中しゴロゴロしている少年が祖父母に追い出されて鬼退治に向かうという斬新な設定で、コムアイのあどけない声でのラップや、「きびだーん、きびきびだーん」のループなど、一度聴いたら覚えてしまうほど強烈で、この頃からテレビやネット、さらにはファッション誌や音楽誌などで取り上げられるようになった。
 そうして、今年4月に全国流通盤の1stシングル「トライアスロン」をリリース。こちらも、銭湯を中心に風呂にまつわるエピソードを盛り込んだ「ディアブロ」が話題となり、オリコン最高位23位ながら年末まで何度もTOP200に再浮上するほどのロングヒットに。
 その流れを汲んで11月にリリースされた5thアルバム『ジパング』は、一気にオリコン11位にまで登場した。(ちなみに、この週は、関ジャニ∞、水樹奈々、中島みゆき、IDOLM@STERシリーズ、ワン・ダイレクション、ジャスティン・ビーバーも発売され、この前週ならば6位レベルの売上げだったことも申し添えておく。)本作では、EDMサウンドにカレーをテーマにした歌詞を載せるというこれまた斬新な「ラー」がとりわけ人気で、他の作品も歌詞検索数が急増し、今回のルーキー選出に至った。
 とにかく、歌詞、サウンド、CDパッケージ、ボーカル、そしてコムアイのキャラクターと、フックだらけの存在なので、今後、メジャーデビューすることがあれば、きゃりーぱみゅぱみゅやゲスの極み乙女。のように、大きな話題となりそうだ。

順位
アクセス
比率
タイトル
初収録作品
発売日
1 9.0% ラー 5th AL『ジパング』 2015.11.11
2 8.3% 桃太郎 4th AL『私を鬼ヶ島に連れてって』 2014.11.5
3 7.0% ディアブロ 1st Sg「トライアスロン」 2015.4.15
4 6.1% シャクシャイン 5th AL『ジパング』 2015.11.11
5 5.4% ツイッギー 5th AL『ジパング』 2015.11.11
6 5.3% メデューサ 5th AL『ジパング』 2015.11.11
7 5.3% 小野妹子 5th AL『ジパング』 2015.11.11
8 4.3% 千利休 4th AL『私を鬼ヶ島に連れてって』 2014.11.5
9 4.0% ナポレオン 1st Sg「トライアスロン」 2015.4.15
10 3.9% 猪八戒 5th AL『ジパング』 2015.11.11
臼井孝の「キラ☆歌発掘隊」

プロフィール:臼井孝
うすい・たかし。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、それまでのヒットチャートデータと理系的センスを織り交ぜた音楽市場分析を持ち味として、05年にT2U音楽研究所を設立し独立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信、日経トレンディネット、月刊タレントパワーランキングなどでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic
 日経エンタテインメント!の2016年1月号にて、通算15回目の年間ヒット特集の音楽部分を担当しました。15年ほど前は、CDシングルとCDアルバムの売上げを見ているだけでヒット傾向が見えたのですが、そのうち1商品でもDVD付きやイベント特典付き、さらには数十種類セット販売などどんどんエスカレートしてヒットが見えづらくなっています。しかし、そんな中でもダウンロード、歌詞サイト、動画サイトなど複眼的に分析することで、ヒットが見えるようになり、多くの人にも認知されてきたかな〜と思います。「歌ネット」のデータも出ていますので、よろしければどうぞ♪