前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて分析し、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて"キラ☆歌")を発掘しようというこのコーナー。今月は、CD発売が10月下旬以降となった最新曲限定で分析してみた。
 昨今、テレビの音楽番組では、昔の映像を大量に流しつつ、最新曲はサラリと紹介するというパターンのものが増えている。確かに、その方がファミリー層に人気で視聴率が取れるし、ミリオンヒットがバカスカ量産された90年代を中心にすれば見栄えも良いし、何より古いコンテンツの流用で制作費が浮くし、現代における"正しい番組の作り方"かもしれないが、そんな"温故"と"知新"のバランスの悪さもヒット曲を遠ざけているのではないだろうか。実際、90年代のミリオンセラーと、昨今の数万枚ヒット(だけど、動画試聴回数は数百万回)を同じ土俵で "どちらが売れているか"なんて決めるなんてナンセンス極まりないのでは?もし私が10代ならば、こんな勝ちようのない比較の為に、自分の好きな音楽やアイデンティティを否定されたようで、卑屈になりそうだ(苦笑)。

第40回:最新曲限定TOP15 (2012年11月:2012年10月のデータより分析)
テーマ
順位
歌詞順位 アクセス
指数%
楽曲名 アーティスト 発売日
1位 7 100 いちばん近くに HY 2012.12.5
2位 11 90.7 LOVERS partII feat.若旦那 加藤ミリヤ 2012.10.17
3位 14 73.3 ナミダソラ Milky Bunny 2012.10.17
4位 15 66.5 キミ記念日
〜生まれて来てくれてアリガトウ。〜
ソナーポケット 2012.11.7
5位 17 56.4 Always 西野カナ 2012.11.7
6位 23 48.5 青い春 back number 2012.11.7
7位 26 45 ファッションモンスター きゃりーぱみゅぱみゅ 2012.10.17
8位 42 35.4 指輪 〜あたし、今日、結婚します。〜 沢井美空 2012.11.7
9位 49 28.4 Answer flumpool 2012.11.7
10位 70 23.2 またね。 AZU 2012.10.31
11位 73 22.9 Say Goodbye 家入レオ 2012.10.24
12位 80 21.4 クルトン 関ジャニ∞ 2012.10.17
13位 88 20.5 Just Friend 山崎あおい 2012.10.24
14位 125 16.5 Damage 安室奈美恵 配信限定
15位 144 15.6 DEEPNESS MISIA 2012.11.7
※色分けは各楽曲のメインボーカルの男女別で判断した。

 そんな状況を振り返って、よりいっそうヒットの芽を察知しようとしたのが今回のランキング。1位は、NHK朝の連続テレビ小説『純と愛』の主題歌にもなっているHYの「いちばん近くに」。アルバム発売は来月だが、既に歌詞検索やダウンロードではヒットの兆しを見せており、王道のラブソングなので今後カラオケでも流行りそう。ちなみに、フルコーラスでは、仲宗根泉だけではなく、新里英之のボーカルも聞けるので、いっそう心に浸透する。
2位は、加藤ミリヤが若旦那とコラボレーションした通算23作目となるシングル。CDシングルランキングでは、5作連続でTOP10入りを逃しているが、ダウンロードでは今でもTOP10入りの常連。ちなみに本作は若旦那とのコラボレーションで、若旦那は男性目線からの「LOVERS feat.加藤ミリヤ」をリリースし、この2作は表裏一体の作品なのだが、iTunesでは、発売元の関係で「LOVERS part II」が配信されず、「LOVERS」のみ上位入りという現象が起きている。どちらも二人が歌っているのに、ファンからすれば、しこりが残りそうだ。

 ともあれ、このように最新作限定で上位15作を見ると、うち11作が女性アーティスト、しかもその大半がソロ・シンガーとなっていることが分かる。実際、加藤ミリヤ、西野カナ、AZU、家入レオなどの女性ソロは、ダウンロードでは、CDシングル以上に好調なアーティストが多く、またいずれも有線やコンビニBGMなどの"街鳴り感"も強いアーティストばかりだ。つまり、CDシングルでは、"握手券軍団"に押されて、上位入りは難しいいが、楽曲のチカラを街鳴りや歌詞サイトで十分アピールして、CD発売日前後という早い段階から、ダウンロードのヒットを確実なものとし、その実績を重ねることでアルバム・ヒットに繋げようという戦略が見て取れる。

 別の視点から見れば、ここに、女性アイドルがランクインすれば、それはイベント参加券でも楽曲でも支持されるという稀有な存在となり、まさに鬼に金棒となるのではないだろうか。昨今は、そのイベント回数を増やしたり、5枚、10枚と表題曲が同じCDを大量に購入させたりする施策ばかりがエスカレートしがちだが、アイドル・グループと言えども曲や歌詞をしっかりアピールして認知を広めれば、他のグループとも大きな差別化ができるようにも思う。実際、今回12位に関ジャニ∞がランクインしているように、彼らや嵐が、男性アイドルの中でも頭抜けているのは、アイドルながら、このように楽曲の認知が進んでいることも大いに影響しているだろう。だからこそ、女性アイドルでも、もっとそういった存在が増えることを願う。

 以上のように、最新曲ランキングでは、とりわけダウンロードに強い女性ソロの活躍が目立った。その意味では、CD発売前から今回上位入りしている8位の沢井美空の今後に注目したい。




いちばん近くに/ HY


LOVERS partII feat.若旦那
加藤ミリヤ


ナミダソラ/Milky Bunny
/

 2011年5月にシングル「あたし、今日、失恋しました。」でデビューした19歳の女性シンガーの4thシングル。本作は、05年に発売され、ロングセラーとなったnavy&ivory「指輪」のメロディーに、沢井自身が詞を乗せたアンサーソング。男性目線で歌われるnavy&ivory版は、闘病している夫婦へのエールソングとして年配層からも注目されたことや、ハートフルで泣かせる男性ボーカルから、シリアスなイメージが大きかったが、沢井版は、ピアノとストリングス中心の清らかなアレンジに彼女の一途でキュートな歌声ゆえに、フレッシュな結婚ソングとして流行りそうだ。ちなみに、シングルのカップリング曲「ダーリン」は、四つ打ちのリズムに乗って、恋に夢中な女子の気持ちが綴られていて、表題曲とは別の魅力が垣間見える。本作で初のシングルTOP50入りとなるか期待したい。


※ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。
 今月は、男性4人組のクリープハイプに注目。彼らは、01年、ボーカル兼ギターの尾崎世界観を中心に結成されたバンドで、09年11月より現在のメンバーで活動開始。10年のタワーレコードでの推薦、11年7月のミニアルバム『待ちくたびれて朝がくる』でのオリコンTOP100入り(82位)を経て、12年4月のフルアルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャー・デビューし、いきなりオリコン19位をマーク。その後、メジャー初のシングル「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」は8曲入りLIVE DVD付きという後ろ盾もあり、オリコン7位まで上昇。悶々とした日常を打破したいと叫ぶような歌詞や、衝動的なバンドサウンド、そして尾崎のキーンと耳と胸を打つ高音ボーカルなど、どれも非常にユニークで、多くのリスナーがLIVEに行きたくなる事だろう。カリスマ性の高さから、急激にヒットを拡大させているのが面白い。ちなみにWikipediaのページが2012年10月末時点でいまだになく、オリコンTOP10入りを果たしたという点も、知る人ぞ知る実力派という感じでカッコいい。

順位 占有率 曲名 初収録作品 発売日
1 26.2% おやすみ泣き声、さよなら歌姫 1st Sg 2012.10.3
2 5.9% オレンジ 1st AL
『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』
2012.4.18
3 5.3% イノチミジカシコイセヨオトメ インディーズAL『When I was young,
I'd lissten to the radio』(1st ALにも収録)
2009.6.3
4 5.2% ウワノソラ インディーズAL『待ちくたびれて朝がくる』 2011.7.6
5 5.0% 愛の標識 1st AL
『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』
2012.4.18
6 4.8% 手と手 1st AL
『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』
2012.4.18
7 4.5.% 明日はどっちだ 1st Sg c/w 2012.10.3
8 4.4% 転校生 1st Sg c/w 2012.10.3
9 4.3% 欠伸 インディーズAL『待ちくたびれて朝がくる』 2011.7.6
10 3.9% あの嫌いのうた インディーズAL『待ちくたびれて朝がくる』 2011.7.6
※1stシングル&アルバムはメジャー・デビュー以降でカウントした。



つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic。
 オリコンチャートについて、"もはやヒット曲が見えない"と嘆いている人を、リアルでもネットでもよく見かけますが、実は演歌以外でもヒット候補は意外とあるのです。例えば、花は咲くプロジェクトの「花は咲く」、LiSAの「crossing field」、miwa「ヒカリへ」、じん「チルドレンレコード」。これらはいずれも特典のない状態で10週以上TOP100にチャートインしているので、間違いなく"曲で売れている"と言えます。歌詞サイトや音楽配信のランキングもそうですが、切り口を少し変えればヒットが見えてきますよ♪