前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて分析し、キラっと輝くキラーチューン(名付けて“キラ☆歌”)を発掘しようというこのコーナー。今月は、名前に着目して、漢字フルネームアーティストをランキングしてみた。
第10回:漢字フルネームアーティストTOP10 (2010年05月:前月データより分析)
テーマ
順位
総合
順位
アクセス
指数
タイトル アーティスト 発売日 デビュー年
1位 1 100.0 また君に恋してる 坂本冬美 2009.1.7 1987年
2位 19 22.8 ずっと好きだった 斉藤和義 2010.4.21 1993年
3位 21 22.4 トイレの神様 植村花菜 2010.3.10 2005年
4位 25 20.4 初恋 奥華子 2010.3.17 2005年
5位 69 12.9 はつ恋 福山雅治 2009.12.16 1990年
6位 70 12.7 素直になれなくて 菅原紗由理 2010.5.19 2009年
7位 95 10.7 メンドクサイ愛情 大島麻衣 2010.5.5 2010年
8位 100 10.1 ゾッ婚ディション 大塚愛 2010.4.7 2003年
9位 109 9.6 君が好き 清水翔太 2009.12.9 2008年
10位 155 8.5 二宮和也(嵐) 2007.7.11 1999年
※ソロアーティストのコラボ作品は除く。またデビュー年は、メジャーデビュー時を基準とする。

 ふと、音楽チャートを見ると、例えばCDシングルでは男女アイドルグループやアニメのキャラクター名義の作品が躍進、着うたでは西野カナ、木村カエラなど漢字苗字+カナ名前、もしくはJUJU、BENI、Tiaraなどアルファベット表記の女性シンガーが目立っていて、漢字フルネームのソロ・アーティストが非常に少ないことに気付かれることだろう。(そういえば、とあるギャルが昔のオリコンランキングのアーティスト名を見て、「げっ!漢字ばっか」と驚いていたこともあったっけ。)珍しく漢字が多いチャートだと思えば、現代ではそれは演歌チャートだったりするものだ。

 そういった状況の中、歌詞検索ランキングでも、漢字フルネームTOP10を見てみると、総合順位で100位内に入っている楽曲は、たったの7曲。しかも、TOP10中の4組が既に前世紀にデビューした中堅〜ベテラン組で、漢字ソロアーティストの、とりわけ若手がいかに少ないかが分かる。J-POP界で漢字名義のソロデビューがこれだけ少ないのは、ともすれば演歌・歌謡曲テイストを制作側が過剰に敬遠しているからなのかもしれない。
しかし、そんな中、今月の1位は坂本冬美で、2007年にビリー・バンバンが歌っていたものをカバーした「また君に恋してる」。ベテラン作詞家・松井五郎ならではの、普遍性の高いラブストーリーも見事だが、それを演歌出身でありながら、本作ではコブシを抑え、更にはFMやタワーレコードのイベントにも出演するなど完全に殻を打ち破った坂本およびスタッフの心意気が素晴らしい。ちなみに、この前年からシリーズ化されている“演歌歌手によるJ-POPカバー集”『エンカのチカラ』も累計5万枚弱の売上となっている。

 2位は、斉藤和義が歌う同窓会をテーマとした軽快なロックチューン。斉藤は、スガシカオ、トータス松本と共に1966年(生まれ)組として着実に活躍してきたが、本シングル通算38作目にして、CD、着うた共に自己最高位をマークするという、昨今の音楽市場では有り得ないほど良い状況にいる。3位は、植村花菜の「トイレの神様」。祖母への感謝を綴った9分52秒の弾き語りバラードで、こちらも彼女にとって初のCDTOP10入りとなった。リアルなエピソードと相まって、後半のストリングスの洪水は、全国のお祖母ちゃん子には感涙必至である意味ズルすぎる(笑)。

 ここで、上位3曲に共通した特徴がある。それは、いずれも幅広い世代に歌詞の物語性が伝わっていることだ。これは、漢字アーティスト名というイメージから、真摯なメッセージ性がより伝わりやすかったのではと、私は推察する。なぜならば、高年層からすれば、カナや英語表記ではなく、漢字フルネームのアーティストならば、自分の世代にも通じる楽曲と思って「聞いてみようかな」という気になりやすいからだ。具体的に想像してみると、3位の植村花菜が、“植村カナ”というアーティスト名で「トイレの神様」を歌っていたら、それは“若い子の間で都市伝説となっているホラーソング”のようだし、“Kana Respects Grandma”ならば、レゲエミュージックのようで、漢字アーティストでなければここまで広がったとは思えない。実際に、4位の奥華子、9位の清水翔太が、意外と年輩の方までファンが広がっているのは、親しみやすいメロディーや声もさることながら、漢字フルネームでデビューしているという点も覚えやすく、拒否反応がなかったことも大きいのではないだろうか。

 この不安定な時代の中で長く生き残れるのは、確かな個性を持ち、ゆるがないメッセージ性を放ち続けるアーティストだろう。そんな中で、漢字フルネームのアーティストは、その字面から、時代遅れだと誤解される可能性もある一方で、字面が個性的な分、大量にデビューするアーティストの中でひときわ凛として輝いているようにも見える。その意味で、今年中には、漢字フルネームのアーティストが、とりわけ市場が冷えている女性ソロから、世代を超えて人気のアーティストが出現するのではないだろうか。




「ずっと好きだった」
斉藤和義

 2010年4月21日発売のシングル。本作は、80年代の人気アイドル、石川秀美、河合その子、荻野目洋子、伊藤つかさが出演する化粧品CMソングであり、サビの「ずっと好きだったんだぜ 相変わらず綺麗だな」というフレーズや、ちょっと懐かしめのロックテイストが、オバさんになっても輝き続ける彼女たちと絶妙にマッチしたことがヒットの要因だろう。コピーライターでもある作詞家の一倉宏と組んで07年に「ウエディング・ソング」をヒットさせたあたりから、自作詞曲でもストーリー性の高い楽曲が際立つようになり、本作でも同窓会をテーマとしていて、つい引き込まれていく。それが徐々にファン層を広げているのだろう。
 なお、シングルのカップリングには、胎内を想起させる安らかなバラード「ウームの子守唄」や、忌野清志郎へのオマージュソング「Phoenix」のLIVEバージョンなどが収録され1枚でも多彩な仕上がり。更に、初回盤にはトレードマークをあしらった缶バッチやピックも封入し、耳でも目でも楽しめるようになっている。


ここではデビュー1年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。


  今月は3位まで上昇してきたTiaraに注目した。彼女は、静岡県浜松市出身で、デビュー前からケツメイシ、エイジアエンジニア、Spontaniaなどヒップホップ系アーティストの作品やツアーにバックコーラスとして実績を築き上げてきた。
 2007年のインディーズデビューを経て、2009年「さよならをキミに...feat. Spontania」でメジャーデビュー、その切ない歌詞と抜けの良い繊細な声で主に着うたチャートで人気となった。現在、歌詞検索数が伸びている3rdシングル「Love is・・・with KG」は、男性R&BシンガーKGとのラブ・バラード。カラオケでも歌い映えしそうな作品なので、今後も徐々に広がりそう。Tiaraは、5月12日には1stアルバム『Message for you』を発売。これまでの3作のシングルと配信限定だった古内東子のカバー「誰より好きなのに」など全14曲を収録。トークでは、男女共に愛される可愛いキャラが垣間見えるので、加藤ミリヤ、西野カナに続く“東海R&Bディーヴァ”として更なるブレイクが期待される。


Tiara
順位 占有率 曲名 初収録作品 発売日
1 62.3% Love is… with KG 3rdシングル 2010.4.7
2 9.7% さよならをキミに... feat. Spontania 1stシングル 2009.9.2
3 8.6% 好きでいさせて 3rdシングルc/w 2010.4.7
4 4.8% 誰より好きなのに 1stアルバム 2010.5.12
5 4.4% キミがおしえてくれた事 feat. SEAMO 2ndシングル 2010.1.27



つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛情と熱情に満ちた連載を継続中。5月19日には、岩崎宏美の最終復刻CD5タイトルが発売。これにて3年間にわたっての彼女の復刻CD47枚、DVD3枚がようやく完結しました。膨大な量のライナーノーツ編集やボーナストラック発掘は、私にはもう二度と出来ないかも(笑)。ご興味があればどうぞ。