前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて分析することで、キラっと輝くキラーチューン(二重の意味で"キラ歌")を発掘しようというこのコーナー。
第1回は、シングルに収録されていなくても人気の「アルバム曲ランキング」を取り上げてみたい。
第1回:アルバム曲ランキング(09年8月:前月データより分析)
テーマ
順位
総合
順位
アクセス
指数
タイトル
アーティスト
収録アルバム
発売日
1 3
100
Butterfly 木村カエラ 「HOCUS POCUS」 2009/6/24
2 7
67.3
Aitai 加藤ミリヤ 「Ring」 2009/7/8
3 14
47.3
君の声を feat.VERBAL(m-flo) 西野カナ 「LOVE one.」 2009/6/24
4 15
44.0
いつまでも GReeeeN 「塩、コショウ」 2009/6/10
5 20
39.0
I still love U Perfume 「⊿」 2009/7/8
6 23
35.9
最愛 福山雅治 「残響」 2009/6/30
7 29
31.4
GReeeeN 「塩、コショウ」 2009/6/10
8 42
23.9
NIGHT FLIGHT Perfume 「⊿」 2009/7/8
9 43
23.6
口笛 GReeeeN 「塩、コショウ」 2009/6/10
10 44
23.4
おしゃかしゃま RADWIMPS 「アルトコロニーの定理」 2009/3/11
11 52
20.4
花になれ flumpool 「Unreal」 2008/11/19
12 56
19.8
366日 HY 「HEARTY」 2008/4/16
13 62
18.7
空への手紙 GReeeeN 「塩、コショウ」 2009/6/10
14 63
18.5
ハレルヤ!!!! GReeeeN 「塩、コショウ」 2009/6/10
15 66
17.1
妄想日記2 シド 「hikari」 2009/7/1
16 69
17.0
キミに贈る歌 菅原紗由理 「キミに贈る歌」 2009/4/8
17 71
16.8
STORY GReeeeN 「塩、コショウ」 2009/6/10
18 72
16.5
Alright!! Superfly 「Box Emotions」 2009/9/2
19 74
16.2
父母唄 GReeeeN 「塩、コショウ」 2009/6/10
20 95
13.8
NAO HY 「Confidence」 2006/4/12

  TOP3は、6月下旬〜7月上旬に発表したアルバムがヒット中のカエラ、ミリヤ、カナの女性アーティストが独占。1位の木村カエラは「ゼクシィ」CM、3位の西野カナは、「レコチョク」CM、と共にタイアップやTV出演で伸びているが、2位の加藤ミリヤはノンタイアップで、本作のTV歌唱も殆どない。アルバムの3週前から配信が開始されて、歌詞の注目度を上げ、そのままアルバムヒットにつながった模様。"一番に愛さなくていいから""何度傷ついてもいいの"といった悲惨かつ純粋な心境が、他の"セツナソング"を圧倒しているようだ。

 アーティスト別では、GReeeeNがTOP20内に7作もありダントツ。中でもトップの「いつまでも」は、結婚ソングの新定番となりそうなミディアム・バラード。こちらもノンタイアップだが、GReeeeNの楽曲は、タイアップを見越したかのように歌詞もメロディーも映像的なのが多い。なお、6位の福山雅治「最愛」は、自身も作詞・作曲・演奏で参加したKOH+「最愛」も加算すると、約90ポイントでアルバム曲2位相当という高い人気。KOH+は昨年10月の発売なので、今回の高ランクは、ほぼ福山のアルバム発表&東芝『REGZA』CM効果と言えるだろう。今年40歳となった彼の楽曲は、10代、20代の多い歌ネットユーザーにも共感を呼ぶ普遍的な作品だということも分かる。

 アルバム曲といえども、やはりシングル同様に旬のアルバムに人気が集中する中で、昨年発売のflumpool「花になれ」(11位)と、HY「366日」(12位)、さらには、同じくHYの3年以上前のアルバム『Confidence』収録の「NAO」(20位)の健闘が光る。キーボード担当の仲宗根泉が歌うラブ・バラードへの歌詞の注目度の高さがうかがえる。他にも、RADWIMPSやシドなど、シングルや着うたランキングと比べて、バンド系が強いのもポイント。バンドの安定した人気には、サウンドやノリだけではなく、歌詞から発するカリスマ性も重要ということか。

 以上のように、シングル曲でなくても人気の楽曲が多いこと、しかもその中にはノンタイアップ曲も少なくないということが分かる。このランキングを見て、リスナーの方は"ファンに支えられた本当のヒット"を探してみたり、プロの方は、LIVEやメディアで実演したり、アルバムのプロモーションやシングルリカットの参考資料にしたりと、共にヒットを発掘してもらえると嬉しい。



Butterfly/木村カエラ
「HOCUS POCUS」

 
 4人組ビジュアル系バンドのインディーズ時代からの人気曲「妄想日記」の続編。とはいえ、ノンタイアップなのに、シングル曲の「嘘」や「モノクロのキス」と同レベルの検索があることから、一般リスナーの本作への関心度の高さがよく分かる。第1弾に始まった妄想による"秘密の関係"が、第2弾では更にエスカレートして、恋のライバル(妄想)に強引なまでに嫌がらせを続けるという内容で、俗に言うストーカー女のテーマソングといったところか。スカのリズムでテンポよくストーリーが進みつつも、歌謡曲のギラギラ感が歌詞のオカルトテイストを助長している。
ボーカル、マオの小悪魔的声質のおかげで女性言葉でも、全く違和感なく聞こえる。こういった"嫌われ女性"をアーティスト自らが演じることで、"ファンには、こうなって欲しくない"という反面教師にもなっているようだ。(ちなみに、ビジュアル系ファンは、どのジャンルよりも礼儀正しい子が多いので念の為。)アルバム『hikari』では、本作のようにシングル以外でもキャッチーなナンバーが勢揃い。「泣き出した女と虚無感」の歌詞や編曲のナンバーも出来るという振り幅の大きさに感心した。


シド「妄想日記2」
アルバム「hikari」より



ここではデビュー1年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。


 今月は4人組バンドflumpoolに注目した。
彼らは、08年10月に、配信限定シングル「花になれ」でメジャーデビュー、翌月に発売されたアルバム「Unreal」が約25万枚のヒット。これは、この1年間の新人アルバムとしては最大級ブレイクだ。今月は、7/1発売の両A面シングル「MW 〜Dear Mr. & Ms. ピカレスク〜/夏Dive」の影響で歌詞アクセス数が急増。前者は、ピカレスク(悪漢)が主人公の映画『MW』の主題歌を意識したであろう、全編マイナー調で駆け抜けるロックチューン。呟いたかと思えば、いきなり叫び上げるような歌唱のメリハリ、“忘れることだけを上手くならないで”“傷つけないために傷つく痛みだけが証じゃない”といったヒネリのある歌詞など、これまで以上に成長を感じさせる1曲。後者は、ポルノグラフィティ「ミュージック・アワー」の爽快感と、サザンオールスターズ「DIRTY OLD MAN」の悪ノリを掛け合わせたようなサマー・チューン。ポルノもサザンも事務所の先輩だが、この2曲でポルノやサザン同様に、シリアスとコミカルの両面を自分達のものにしようという姿勢がうかがえる。これこそが、新人バンド群から頭抜けた人気の秘策なのでは。

flumpool 人気曲TOP5
順位
占有率
曲名
初収録作品
発売日
1
31.3
MW 〜Dear Mr. & Ms.ピカレスク〜 シングル・両A面曲 2009/7/1
2
15.6
花になれ アルバム「Unreal」 2008/11/19
3
11.9
星に願いを シングル・A面曲 2009/2/25
4
7.7
夏Dive シングル・両A面曲 2009/7/1
5
7.3
Over the rain〜ひかりの橋〜

アルバム「Unreal」

2008/11/19



つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽コンサルティングや企画CDの選曲や監修をする傍ら、日経エンタテインメント!などでチャート分析および注目作品に関する連載を執筆中。