第100回 「Mr.Children 道標の歌」(小貫信昭著)
photo_01です。 2020年11月19日発売
 おかげさまで当コラムは連載100回目を迎えました。「歌ネット」編集部のみなさま、そしてもちろん読者のみなさま、本当にありがとうございます! この瞬間、僕の頭の中でくす玉が割れ、周りの人たちがクラッカーをパンパンと鳴らして祝ってくれてるのが見えた……、ような気がします。

「いつも読んでます」と言ってくださる方々に感謝です。気になる歌があって訪ねてきて、「たまたま『言葉の魔法』ってタイトルを目にして読みましたよ」という方にも感謝です。また、音楽関係の方々も、当コラムのことを話題にして下さっているようで、直接ご連絡いただくことも多いです。重ねて感謝いたします。

 改めて『言葉の魔法』というコラムのコンセプトをお伝えすると、それは「取り上げた楽曲の歌詞の真意を探ること」ですが、その実、僕が勝手に解釈し、「こんな意味にも取れるのでは?」と書く部分も多いです。まぁ“勝手に”というか、“柔軟に解釈する”、ということなのですが…。

一番つまらないのは、ひとつのエピソードを歌に張り付けて、そこに拘りすぎて、聴き手が自由なイマジネーションを働かせないことだと思っています。たとえばシンガー・ソング・ライターのAさんが、楽しみにしていたお団子を食べようとした瞬間、地面に落としてしまい、その悲しみを歌にしたとしましょう(仮にここでは、その歌を「万有引力のおバカさん」というタイトルにしておきます)。このエピソードが人々に知られることとなったと仮定しましょう。

でもだからって、聴いた人達は、毎回毎回、お団子を思い浮かべる必要はなく、聴く人それぞれに、その歌に宿る悲しみがどれだけ自分の心に浸透したかを解釈すればいいわけです。もし自分のブログに歌の感想など載せてらっしゃる方ならば、それを自由に言葉にすればいい。“人生の挫折”や“永久の別れ”を描いたものに聞こえたら、それもこの歌の“真実”なのですから。

 話は変わります。Mr.Childrenの大ヒット曲に「HANABI」がありますが、あの歌は、作者の桜井さんが趣味で飼っているメダカの水槽の水を換えている時、ふと得たモチーフがもとになって出来た曲です(本人がコンサートのMCでそう説明している)。しかしあの歌を聴いた多くの人たちは、毎回、メダカのつぶらな瞳を思い浮かべて聴いたりはしません。それはエピソードとして興味深くはあるけれど、普通、あの歌を聴く人は、サビの“もう一回 もう一回”のところを自分の胸に照らしてみて、自分のなかで繰り返されるべき大切な何かを探るはずなのです。

さて皆様。Aさんのお団子からMr.Childrenへの急展開を策略と感じたアナタは正解です。ここから宣伝です(祝100回ということで、今回だけは僕個人的の話になることをお許しください)。とはいえ当コラムと無関係というわけではありません。

 このたび『Mr.Children 道標の歌』(水鈴社)という本を上梓させていただくことになりました(ここで再び、くす玉&クラッカーをお願いいたします!)。本のコンセプトは、Mr.Childrenの“読むベスト・アルバム”です。年代順に彼らの代表曲を取り上げていますので、バンドの通史としても読めますが、あくまで目指したのはベスト・アルバムのような本なのでした。

ぜひぜひお買い求め頂きたいので、ここに本の内容を明かすことはできませんが、本邦初公開のエピソードも豊富に含まれた内容となっております(でもちょっとだけ書きますと、先ほどの“もう一回 もう一回”に関しても、作者の桜井さんに改めて質問し、新たに判明したことを書かせて頂いてます)。

じゃあどんな曲を取り上げているの、という方に、以下、これが本の「目次」です。
Introduction
1988ー1992 君がいた夏
1993ー1994 innocent world
1995ー1996 名もなき詩
1997ー1998 終わりなき旅
1999ー2000 口笛
2001ー2003 HERO
2004ー2007 Sign
2008ー2010 GIFT
2011ー2012 擬態
2013ー2015 足音~Be Strong
2016ー2018 himawari
Outroduction

 執筆中に苦労したのは、「どの曲を取り上げるのか?」ということでした。そもそも“ベスト・アルバム”は“シングル・コレクション”とは違います。曲の選者が想う“ベスト”が念頭に置かれます。みなさんも様々なアーティストの“ベスト・アルバム”に接して、“あれ? この曲は入ってて、この曲は入らないんだ”みたいなツッコミを入れたくなったことはおありでしょう。この本も、そのあたりで苦慮しました。とはいえ、誰もが文句ナシに選びそうな代表曲を外す、ということは考えず、それを軸に、この「目次」には登場していない楽曲にも、各章で様々に触れる内容となっております。

原稿は、すべて書き下ろしです。過去の記事の寄せ集めなんていう手抜きは一切ありません(笑)。これまで彼らに取材してきた膨大なインタビューや様々な記事を、すべて読み返し、また、新たな取材もさせて頂きながら曲にまつわるエピソードを整理し、書かせて頂きました。

僕のMr.Childrenへの取材の特徴としては、メンバー全員にそれぞれソロ・インタビューを重ねてきたことが挙げられます。今回、この本を書くにあたって、それが大いに役立ちました。それらから構成することで、この本にはこのバンドの“総意”が描かれているはずです。発売は11月19日です。詳しいことは水鈴社さんのHPをご覧くださいませ。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
プロフィール 小貫 信昭  (おぬきのぶあき)

以前は薔薇を育てることを趣味にしていて、かつてロンドンへ取材に出掛けた時も、みんながカムデンあたりに行くのを尻目に自分だけクイーンメアリー・ローズガーデンに行ったりもしていたが、ここ最近、趣味が変わりつつあり、ここ最近仕入れたものは、「オオカナメモチ・ピンククリスピー」と「ジンチョウゲ・前島 なごり雪」と「モクレン・フェアリーマグノリア」の苗木なのだった。生け垣なんかに利用されるカナメモチの、新芽がピンクでかわいいヤツと、沈丁花の葉に綺麗な斑が入ったヤツと、なんと木蓮は木蓮なんだけど、花がマグノリアみたいに可憐なヤツという三種類だ。しかしこんなに買っちゃって鉢をどこに置くんだ……という問題も(悩)。