私が飛行機を嫌いな理由

「これを飲んだら行きなさい」
そう言う母に 無言で頷き
アイスティーに口を付けた
見慣れた長崎空港
響くオルゴールの BGM
沈黙を引き立たせた

キャリーバッグを引いて
セキュリティ前で立ち止まった
「またね」と見送る手に
引き止めて欲しかったけど
躊躇いもせず同じ言葉を残して
ゲートをくぐった

コンビニは遠く街灯も少なくて
賑わっていたアーケードも静かで
友達だった人とも
今じゃほとんど連絡も 途絶えたままで

広い空港の屋上
大きく母が手を振る
離陸する前 帰っていいのに
これ以上見てると
もっと一緒に居たくなる
そっと携帯の電源を切った
だから私は飛行機が嫌い
だから私は飛行機が嫌い

あそこのカフェ美味しいんだよ
今度来たら連れて行ってあげる
あれだけ苦労していた 東京の駅
今では すっかり慣れた
方言はまだふとした瞬間
でてきてしまうけど

「今日はどんなだったの?」同じ事 聞かれても
その心配を理解できず 避けてた
「ちゃんと食べてる?」がなぜか
暖かく感じるの東京の夜

旅立つ時
きっと東京へ「帰る」のが正しいんだろう
だけど私の「帰る」場所は
生まれ育ったあの町だけ

あの日 夢だけ持って飛び出し
力の抜き方なんて 知らないままで
ただがむしゃらに
ビルの隙間の飛行機
手を振る笑顔思い出させるの
あの場所に帰りたくなる
だから私は飛行機が嫌い
だから私は飛行機が嫌い
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