形がないものを抱きしめてしまったひとは、果たして不幸なのか。

―― 今作のなかで、とくに「書けてよかった」と思うフレーズを教えてください。

3曲目の「universe」です。オノマトペルの工藤拓人と作った聴覚をテーマにした曲で。まず曲ができて、ピアノのリフといい、先の展開がわからない空気感といい、工藤拓人のアレンジ、すごいなと思いました。そこにどうやって言葉を乗せるか、ふたりで話し合いながら作っていったんですけど、そのなかの<抱擁するなら 形あるものだと ちくり>が自分にとってのベストフレーズです。

―― このフレーズはどのような思いから書かれたのでしょう。

「触れられないもの、形がないものを抱きしめてしまったひとは、果たして不幸なのか」と考えて。僕が演じる役でもよくあるんです。このままの自分で生きると、絶対にしんどいことはわかっている。いろんなひとを傷つけるし、自分も傷つく。だけどそういうふうにしか生きられない。そういうひとが、「この自分が自分です」と在ることに対して魅力を感じて、そのニュアンスを書きたいと思いました。そこをうまく一文で表現できたかなと。

―― そのあとに続く<さよならすればいい もしもの日に晴れ渡れ>というフレーズも好きです。

おそらく<僕>には、「こうやって生きなければ」とか「これが正しいんだ」みたいな雨がチクチクと刺さり続けているんでしょう。だけど、“そんな声は関係ないよ”という気持ちを込めたかったんです。そして<もしもの日>、死ぬときなのかもしれないし、何か反乱したいような気持ちの日なのかもしれないし、そういうそのひとにとっての大事な局面で、素直になれる瞬間を書けたらいいなという思いがありました。

―― 歌詞は音から見えてくるような感覚だったのでしょうか。

はい、最初にデモを送ってくれたとき、雨のなか、傘を片手に雨宿りをしているひとの姿が浮かんだんです。そして近くには草木があって、紫陽花の葉っぱにかたつむりがいる絵のイメージが膨らみました。でも、実はかたつむり自体が、紫陽花の葉に行くことはないらしいんです。紫陽花には毒があるから。

―― そうなんですか! でもかたつむりは紫陽花の葉にいるイメージがありますよね。

ありますよね。それはなぜかというと、ある寄生虫がいて、そいつはもともと鳥に寄生しているんです。そして、そいつの卵を含んだ鳥の糞が地面に落ちてくる。それをかたつむりが食べる。今度はかたつむりのなかに寄生虫が入る。すると、そのかたつむりを鳥に食べてほしいから、寄生虫がかたつむりの触覚を操って、紫陽花の葉の上のほうに行かせるわけです。結果、葉の上のかたつむりを鳥が食べて、寄生虫はまた生きていくそうで。

ここまでお話ししてしまうとすごく恥ずかしいんですけど(笑)。そういう寄生していく存在と、寄生されていく存在というものも裏テーマとして描きたかったんです。通常の状態では、かたつむりが紫陽花の花に噛みつくことはない。だから、<毒毒しい愛に 侵された僕は 紫陽花の花に 噛みついて願う>というフレーズでは、“音楽に寄生されている状態でも生きているもの”を表現してみました。

―― ご自身の引き出しにあるそういった知識やワードが、作詞のきっかけになることが多いですか?

そうですね。別に知らなくてもいいような雑学を、本や映画からたくさん得ていて。歌詞を書くとき、「あ、あれが使える」と思い出したりすることが多いです。あと、それが視覚的なイメージに繋がりますね。毎回、「このシーンを書きたい」というものが浮かぶというか。

でも正直、自分の歌詞の書き方って本当にわからなくて。逆に「みんなどうしていますか?」と訊きたいです(笑)。こんなことを言ったらよくないかもしれないけれど、あと3枚くらいアルバムを作ることができたら、その先でようやく納得できる歌詞ができそうな気がしています。昔から言葉遊びは好きだし、お芝居のなかでも言葉を使うことはすごく好きなんですけど。作詞は音楽のなかにある言葉だからこそ、特殊で難しいなと思います。

―― 菅田さんにとって、歌詞とはどんな存在ですか?

僕にとっては、音楽の入り口のような存在です。とくに日本の曲は、言葉で聴いているイメージがあるし。テレビでも歌詞がテロップで流れているから、みんなそこを目で追うじゃないですか。

でも、自分で曲を作るようになって、音楽の触れ方が変わったとき、「この曲のベース、昔はまったく意識してなかったのに、今はやたらよく聴こえるな」とか、「裏で鳴っているコーラスがいいな」とか、「トランペットがカッコいいな」とか思うようになって。いかに自分が歌詞だけを聴いていたのか、気づいたんです。

あとは、まさに五感だったり、感覚ってなかなか共感しづらいし、共有しづらいものですが、それを他者に伝えるときの共通言語にもなる便利なものだなと思います。

―― ありがとうございました。最後に、これから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

すべて英語の歌詞です。メロディーに乗せたとき、わりとファジーに使えそうですし。具体的になりすぎず、シンプルな言葉でも伝わるものがあるなと。ただ、僕は英語がまったく話せないので、自分が歌わない可能性が大です。提供して誰かに歌っていただくのかもしれません(笑)。


123