好きなものが多すぎて、Apple Musicのアルゴリズムもおかしくなって。

―― カップリングは「Eden pt.2」ということは、pt.1があるのですか?

あるんですよ。1はまた別のタイミングで発表したいと考えているのですが、まずは2を出してしまおうと思って(笑)。でも1も歌詞は同じで、アレンジだけまったく違うんです。しかも、バンドアレンジで、かもめ児童合唱団さんだけが歌う。若い同世代のジャズミュージシャンたちに演奏してもらうので、かなり印象は変わると思います。

―― 「Eden pt.2」にも、かもめ児童合唱団さんの歌声は入っていますが、この歌詞を子どもたちが歌うのはギャップがありますね。

かもめ児童合唱団さんって、電気グルーヴの「Shangri-La」を歌われていたりするんですよ。僕が知ったきっかけも、坂本慎太郎さんの「あなたもロボットになれる」というかなり怖い曲を歌っていたことで。そういう狂気的なところが刺さりまして。この曲ができたとき、「ぜひ歌っていただきたい」とパッと浮かんで、お声かけさせていただきました。

―― 歌は<トマト食べて アボガドも食べよう ズッキーニも買って 塩胡椒で炒めよう>と幕を開けます。どんなときにできた曲なのでしょう。

インタビューカット1
photo by KEIKO TANABE

かなり、うわー!って悩んでいるときに(笑)。もう人生のすべてが憂鬱で。そもそも僕にとって秋は、沈むシーズンなんですよ。「寒いよ…、日が暮れるのも急に早いよ…」みたいな。しかもそういう日ほど、ジャンクなものを食べてしまったり、まったく料理しなかったりしてしまって。でも、ピュアなもの、フレッシュなものを食べたら、気分がよくなった経験があるんですね。だから、「とにかく食え!」という気持ちを書きました。

―― ものすごく実体験に基づいているんですね。

もう僕の生活そのものですね。しかも、トマト、アボガド、ズッキーニって、めちゃくちゃみずみずしさを求めているじゃないですか。それを子どもたちが一緒に歌ってくれると、よりフレッシュに弾けるなと。それで、かもめ児童合唱団さんにお声かけしたところも大きいと思います。

―― ダイアリー」にも通じますが、やはり<渇いたプール>にならないよう、みずみずしさを求めていらっしゃる。

あ、本当ですね。とにかく潤っていたいんでしょうね。常に心の化粧水を求めているのかもしれません(笑)。

―― ご自身の描く主人公には、何か共通する特徴や性質はあると思いますか?

落ち込みがち、悩みがちだけど、凪っぽい瞬間を求めている。ちょっとでも落ち着いたところや心地よいところに行きたがっている。そんなひとである気がします。それこそ、静かでみずみずしい場所。僕は金沢とか北海道とか大好きで、そういう澄み渡っているものに惹かれてしまうから。でも、同じくらい、新宿とかも大好きで。

―― 新宿ですか! 逆に振り切ってごみごみしている感じが?

そう、行き切りたいんですよね。凪とはまったく別の楽しさを感じるというか。

―― もしかして、それもご両親からの影響が大きいのでしょうか。

おっしゃるとおり(笑)。母は、「絶対に都会に住みたい。田舎はつまらない」とずっと言っていて。逆に父は、「都会は無理だ。凪いでいたい」と。どこまでも両親の影響から逃れられない。ドグラ・マグラ。

―― 作詞で悩まれることはありますか?

タイアップ系は悩みがちかもしれません。「ダイアリー」はスルッと書けたほうですが、「」とかはものすごく悩みました。作品に寄せると、どこまで自分のことを書くか線引きが難しくて。でも、「あ、このバランスだ」としっくりくる瞬間が必ずあって、そこに到達するまでとにかく書きます。自分自身の思いも重なるものにしないと、歌っているときに違和感を抱くので、必ず自分の歌になるように意識していますね。

―― 作詞のどんなところにいちばん魅力を感じますか?

最近よく思うのは、自由なところですね。本来、歌詞って、主人公の気持ちもシチュエーションもその表現方法もかなり自由度が高いもので。たとえば、宇多田ヒカルさんの「Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー」の<オーシャンビュー 予約>とか。藤井風さんの「何なんw」の<あんたのその歯にはさがった青さ粉>とか。「ええ!?かっこいい!」って。そういう自由度に魅力を感じるし、その楽しさを忘れたくないなと。

―― これから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

やっぱり生活詩かな。最近、エッセイを書かせていただく機会があって、今の連載ではただただ日々のことを書いているんです。「ファミレスに行った」とか。そういう歌詞を書きたいんですよね。急に出てくる名詞に、ときめく気持ちが芽生え始めまして。たとえば、前野健太さんの「ロマンチック2017」の<きみの涙と ぼくの涙 いいちこ で割って>とか、しぶいし、おもしろいし、めちゃくちゃ素敵。

―― お話を伺っていると、崎山さんはいろんなアーティストの楽曲をかなり幅広く聴かれていますよね。

そうなんですよ。あまり好きなものが多すぎて、しかも統一感がないから、Apple Musicのアルゴリズムもおかしくなるぐらい(笑)。そのなかでも最近はやっぱり、葛藤と暮らしの凪のバランスを書けるひとに惹かれていて。くるりさんの「ばらの花」の<ジンジャーエール買って飲んだ こんな味だったっけな>なんて、YouTubeのコメント欄に「詩すぎる…!」ってくだらない書き込みをしてしまいそうなくらい食らいましたし。

あと、阿部芙蓉美さん。「オーガンジー」とか「凪」とか、好きすぎて苦しくなります。<籠りたい 三週間くらい お布団がすき 出前のアプリ>なんてフレーズがあったり。そんなに元気がある主人公像ではないんです。でも、そういうひとが書く明るさというか、「なんとか前向きでいよう」という姿勢に食らってしまいますね。そして、なんで今までそういう歌詞を書いてこなかったのか不思議なくらい、僕も生活詩を書きたくなっています。

―― 今、23歳の崎山さんなら、どんな生活詩を書かれるでしょう。

「東京メトロに乗って…」とか、リアルな日常になってくると思います(笑)。とにかく正直に書きたいという気持ちが、めちゃくちゃ強くなっているんです。歌詞にすべてを出し切って、何も隠さない人生にしていきたい。わりと今まで、塗り絵のようにひた隠してきたゆえの反動というか。今作の「Eden pt.2」にはその片鱗が出ていますが、もっともっといける。どんどん丸裸になっていきたいですね。

―― ありがとうございました。最後に、崎山さんにとって歌詞とはどんな存在ですか?

いちばん素直で在ることができる場所。自分次第で、何でも言えてしまうなと思います。僕、『吉田類の酒場放浪記』も大好きで。吉田類さんが最後にベロベロになって詩を書かれるじゃないですか。それがめっちゃカッコいいときと、そうでもないときと、かなり差があるんですよ。でもまたその緩さ、素直さに救われて。僕もそういう歌詞を書けるひとで在りたい。それが今の理想ですね。


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