「絶妙な年齢じゃん…」という、自分の本音がかなり歌詞に出ています。

―― ニューシングル「ダイアリー」のタイトル曲は、TVアニメ『SANDA』エンディングテーマです。アニメサイドの方からはどんなオーダーがありましたか?

自分の「覚えていたのに」という楽曲をあげていただいて、その曲を一緒に作ったのが、Kabanaguさんだったので、今回もお声かけさせていただいたんです。結果、「覚えていたのに」と遠くないものが作れましたし、やりたいことも詰め込むことができたと思います。

―― タイトルの「ダイアリー」は、どのようにたどりついた言葉ですか?

インタビューカット1
photo by KEIKO TANABE

歌詞を書きながら<立っていたり 叫んでいたり 迷ってる気持ち 寄せては返す気持ち>と、“い”の母音で韻を踏んでいて。そのなかで<弱音も綴るダイアリー>というフレーズが出てきたんですね。「これはフックになるな」と。思春期に気持ちが行ったり来たりする様子が、まさに日記を綴っているようなイメージが重なって。タイトルは大体、歌詞を書いているなかで見えてくることが多い気がします。

―― 崎山さんが、『SANDA』エンディングテーマの核として大事にされたものというと?

主人公の三田一重くんは、少年だけれど、大人にもなることができる。大人の気持ちもわかってしまう。その心のグラデーションにフォーカスしようと思いました。登場人物たちも、「大人になりたい」とか「子どものままでいたい」とか、「大人はわかってくれない」とか、それぞれ抱く思いがあって。

僕はそのどれも「わかる」と感じたんです。だから<幼いままなんか とっくにいられないって 大人になったら 逆に思ってしまうんだ>というサビが出てきたとき、「よし、これだ」と思えました。今の僕は、「子どもの頃に戻りたいな」という気持ちになることもあるんです。それなら、そう感じている今のことも、未来の自分からは眩しく見えるんじゃないかなって。常に目の前には、その時々の葛藤があるものですから。

―― 子どもに戻りたくなる気持ち、わかります。子どもの頃は、「早く大人になって説得力が欲しい」などと思っていたのに…。

まさにそうなんですよ。僕もずっと同じことを思っていました。でも、歳を重ねるにつれ、「いや、別に僕の説得力ってどうなんやろう」って(笑)。30代、40代になったら、また変わるのかもしれないけど、今はまだ23歳で、成人はしていますが、そこまで大人にもなりきれていなくて。「絶妙な年齢じゃん…」という、自分の本音がかなり歌詞に出ています。

だからこそ、「大人になりたい」と思っている子どもに対して、「もったいないよ。そう思っている今こそがキラキラ輝いているんだよ」と言いたくなるし。今の自分自身に対しても、<今ある日々だって 憂鬱に思ってしまうが 過ぎたら本当に 恋しく思えるのかな?>と投げかけているんですよね。ネガティブすぎず、「恋しく思えるんじゃない?」みたいなニュアンスにも捉えられる。サウンドも相まって、希望的に響くんじゃないかなと。

―― 「ダイアリー」のAメロは、焦ったり潤んだり、叫んだり、寄せては返したり、常に動いているイメージが湧きますね。水が滞らないというか。

そうですね、現在進行形で悩んでいる感じ。僕としては、学校から逃れられない子どもたちみたいなイメージもありました。狭い世界の水のなかで、ぐるぐるぐるぐるさせられているというか。

―― 1番Bメロの<きっとどうだろう?>というフレーズは、どんな感情を描かれたのですか?

やっぱり水のなかにいて、ふわふわぷかぷか浮いて、ぼーっと漂いながら、「きっと…、いや…、どうだろう…」って迷い続けているような姿をイメージしました。Bメロはちょっと幻想的にしたくて。

―― 2番Bメロには対になるように、<渇いたプール みたいなここに いたく ない いたく ないの>というフレーズがありますが、実は“渇くこと”や“水の停止”がいちばん怖いのかもしれないと感じました。

ああー、たしかにとても怖い。

―― 歳を重ねるにつれ、<渇いたプール>みたいな現実になってしまいがちなんですかね。

いや、そんなことないと信じたいです。僕、田原総一朗さんが『伝説の朝食』で、ジュースを6杯飲んでいる動画とかを観ると、「潤っているな、自由だな、大人って最高だな!」って思えるんですよ。あと吉田類さんとか、山田五郎さんとか、ああいう方々の抜け感にものすごく憧れます。あんな素敵な大人が待っていると思うと、「ありがとうございます」という気持ちになる(笑)。いくつになっても、みずみずしく在りたいですねぇ…。

―― また、2番Bメロが終わって、急に異次元に飛ぶような感覚がおもしろいですね。

僕的にはもはやここがメインかもしれません。カニエ・ウェストの「Bound 2」という曲で、サンプルの上でカニエがラップしているんですけど、途中でまったく違う曲が入ってくるんですよ。それをやりたくて。急にスイッチするみたいな、DJみたいな曲にしようと。デモ段階から、「こういうパートにしたい」と案を投げました。

というのも、Kabanaguさん、yuigotさん、コサメガさんという方々が、絶対にかっこいいアレンジで作ってくれると確信していたから。「やっちゃってください!」という気持ちでした。その結果、歌詞だけ読むと暗そうだけれど、アレンジやメロディーで癒されるような、絶妙なバランスの曲になって。結構、癒されるし、いい意味で変な曲だし、自分でも大好きな曲になりましたね。

―― そして、歌は<叫んでるeveryday 迷ってるeveryday>と幕を閉じます。葛藤したまま終わるのが、またいいなと思いました。解決しないほうが救われることもあるというか。

それ、すごくわかります。もちろん解決してくれるひともカッコいいですよね。たとえば、千葉雄喜さんの1stとか2ndを聴くとかなり言い切っていて。「心配無用、大丈夫」みたいな。いろんなものを越えた先にある解決であり、それはそれで憧れます。

でも、町田康さんの小説とか、主人公が何も解決しない。僕はまさにそこに救われるんですよね。堕落的な生活をしている姿に自分を重ねて、「彼もこうなんだから」という投影ができたり。他者の迷いによって、自分の迷いも消化される感覚があったり。マイナスとマイナスをかけると、プラスになるみたいな。

―― 迷っている今この状態自体を肯定できたりしますよね。

そうそう。「先のことはわからないけど、今は悩んでいようよ」みたいな曲に助けられることもある。だから「ダイアリー」では、軽い息抜き感をサウンドに任せました。歌うときにも、抜け感というか、ひらけているようなイメージがありましたし。だから、迷いながらも思いつめすぎていない、不思議な曲になったなと思いますね。

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