どこかに必ず“ひねくれ怠惰”な像がある。

―― Disc2の15曲目「明日の私に幸あれ」(TVアニメ『ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います』EDテーマ曲)は、とくに大きな広がりを見せ、多くの方に届いていますね。

本当にいろんなところで「聴いたよ!」と言ってもらえて、すごく嬉しいですね。この歌は、アニメ“ギルます”ED曲だったので、「みんなが横乗りしやすいような曲にしよう」というところがスタートでした。そして、原作を読ませていただいた上で、楽曲提供していただいたWiennersの玉屋2060%さんと打ち合わせしたときに、「主人公のアリナちゃん、めっちゃ頑張っていますよね。でも、結構うちらも頑張っていますよね。ていうか、みんな頑張っていますよね!」という話をお伝えしたんです。

すると、玉屋さんもハッピーな方なので、「そうだよね!」と言ってくださって、そこから“みんな頑張っている!”という曲の核が生まれました。報われないことも多いけれど、それでもお休みの日の自分を想像して、「今日を乗り切ればゆっくり眠れる」と思って頑張る。それは、アリナちゃんも、現実世界を生きている私たちも一緒だなと。つまり、人間の真理の歌なのかもしれません。

―― 完成した楽曲を聴いたときの第一印象はいかがでしたか?

ナナヲアカリとして、こういうノリの曲は珍しかったので、「今までの楽曲とはテイストが違うから、ライブで育てていくのが楽しみだな」と思いました。あと、冒頭の<半端ないぱっぱらっぱっぱらっぱらっ(へい)>は、「平成アニメの楽曲とかでよく使われていた導入部分を入れたいです」と玉屋さんにオーダーしたら、完璧なフレーズを書いてきてくれたので、「すごいなあ。本当に器用な方だなあ」と。

でも、まさかこんなに多くの方に聴いてもらえる曲になるとは想像もしませんでした。サビを聴いたとき、「こんなに当たり前のことをサビに持ってきてくれるんだ!」という衝撃とおもしろさがあったんですけど、まさにそこがたくさんのひとに刺さったみたいで。

―― <眠くなったら寝る お昼過ぎに起きる 遊びたくて遊ぶ お腹減ったらご飯を食べる>、思わず口ずさんでしまいます。

この4行はとくにわかりやすいし、普遍性がありますよね。いろんな世代の知り合いから、「これは私の歌だ」「僕の歌だ」って言っていただけるんです。幼稚園生の子から60代の方まで。老若男女を問わず、聴く方それぞれが自分の曲にしてくれたんだと思うと、嬉しくて。やっぱりみんないくつになっても、「眠くなったら寝たい」し、「お腹減ったらご飯を食べたい」よな!って(笑)。

―― 他にDisc2収録曲から、とくに思い入れの強い曲を教えてください。

インタビューカット3

13曲目「正解はいらない」ですかね。メジャーデビューしてからは初のNeruさん楽曲だったので、まずそれが嬉しかったです。あと、この曲もアニメタイアップ(TVアニメ『戦隊大失格』ED主題歌)だったのですが、「どんな楽曲でもずっと変わらずNeruさんだ!」と感動しました。独特なワード使いですし、尖り方が常軌を逸している(笑)。これこそが、私が10代の頃から好きだったNeruさんであり、ブレることのない魅力だなと。

―― Disc2収録曲で、とくに好きなフレーズを挙げるとすると?

私は澤田 空海理さんの歌詞がすごく好きなので、9曲目「陽傘」は全体を通してものすごくいい歌詞だなと。なかでも<飛ばせなくなる階段。それでも磨り減る靴。>というフレーズは天才だと思いました。多くを語らず、自分が大人になってしまったことに対する感情、すべてを内包している1行ですね。

ピノキオピーさんに提供いただいた、7曲目「アイがあるようでないようである」のコミカルでシニカルな感じも唯一無二です。とくに<アピってるかい(はい!)ラブ売ってるかい(はい!)渇いてるから欲しがってる倍(Bye!)>と<詐欺ってるかい(はい!)悪魔ってるかい(はい!) なんとなく値がつく松竹梅(Bye!)>の韻を踏みながら、現代を歌っている感じ。少し前の曲ですが、今こそいろんなひとに聴いてほしいと思います。

そして、4曲目「Higher's High」かな。アニメ『戦翼のシグルドリーヴァ』OPテーマで、ナユタンさんから提供曲ですね。ナユタンさんは、ナナヲアカリとファンの繋がりをすごく意識してくださる方で。空のアニメだから、空ベースでありながらも、ナナヲアカリが高く飛んでいくイメージを書いてくださっているんです。たとえば、<今より高い場所へ羽ばたいていくよ>とかも、すべてがリンクする。ライブで育った曲ですね。

―― いろんな作家さんが、いろんな形や捉え方でアカリさんを描きますが、どの曲もちゃんと“ナナヲアカリ”らしく芯が強いですよね。

たくさんお話させていただくなかで、私が届けたい核をキャッチする能力の高い作家さんばかりだなと感じます。しかもそれぞれの作家さんらしい言葉で、ナナヲアカリを表現してくれるので、毎回ありがたいです。

―― ナナヲアカリ楽曲の歌詞の主人公には、何か共通する特徴や性質はあると思いますか?

基本的に、ひねくれ怠惰(笑)。ものを穿った見方をしていた時代の名残はすごくありますね。今もそんなにピュアな瞳ですべてを見ることができているわけではありません。先ほどお話したような、性悪説の時期と、性善説の時期とでアウトプットの仕方は変わっていると思いますが、どの楽曲にもどこかに必ず“ひねくれ怠惰”な像がある気はしています。

―― アカリさんは、作詞でスランプに陥ることってありますか?

メモ帳を開いて、どの種を見ても「今ではない」と思うとき、ピンと来ないときは、「どうしよう…何を書こう…」というスランプに陥りますね。

―― その「今ではない」というジャッジは、何が基準になっているのでしょう。

まずは、自分の気持ちです。どの歌詞でも絶対に嘘はつきたくないし、盛りたくないので。あと、他の収録曲との兼ね合いですね。「いや、このタイトル曲の次にこういうカップリング曲が流れるのはナシだな」とか。自分の気持ちとリリースタイミングはかなり考えますね。

―― そういうときはどのようにスランプを打破するのですか?

数日ぐらいは何もしません(笑)。潔く諦めます。すると意外と見えてくるものがあったりするので。

―― 作詞のためのインプットは、普段どんなところから?

すごくいい映画を観たときには、「これを題材に歌詞を書いてみたい!」と思うのですが、大体あまりよくならなくて、お蔵入りになっています…。でも以前、『わたしは最悪。』という映画を観たときは、何かしらの曲のエッセンスになりましたね。あの作品は、自分にないものばかり欲しがってしまうというところにすごく共感できたから。「わかる、わかるよ、その気持ち!」と思いながら、言葉を綴ったのを覚えています。

―― ご自身のなかに、映画とリンクする部分があると曲の種が見つかるのかもしれませんね。

そうなんですよね。パリピすぎる映画とかは、たとえおもしろくても何の参考にもならなくて(笑)。提供曲であっても、まったくナナヲアカリではない物語や気持ちを歌うことはないので、自分自身が共感できることは大事ですね。

―― アカリさんにとって、歌詞とはどのような存在ですか?

インタビューでは別なのですが、やっぱり普段はディスコミュ気味というか、そんなに自分のことを話さないし、さらけ出さないんですよね。だから歌詞は、言えない部分や見せられない部分を表現できるものですね。

―― ありがとうございました。最後に、これから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

洋楽をすごく聴くので、歌詞をすべて英語で書いてみたいですね。まったく日本語とは発声も子音の繋がりも違うので、新しいナナヲアカリを表現できるんじゃないかなと思います。前に一度、友人に英訳してもらって「ダダダダ天使」を英語で歌唱した「Useless Angel」を歌ったことがあるのですが、それが楽しかったんです。いつかはプロの方に手直ししてもらいながら、自分で書いてみたいなと思っています。

―― ちなみに、この方に書いてほしいなと思うアーティストはいますか?

何も考えずに言うと、ポーター・ロビンソン! 大好きです。


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