映画『TANG タング』主題歌!言葉の音を愛するがゆえの歌詞づくりとは…。

 2022年8月17日に“milet”がニューシングル『Always You』をリリースしました。タイトル曲は、二宮和也が主演を務める映画『TANG タング』主題歌として書き下ろされた楽曲。さらに、オープンワールドRPG『Tower of Fantasy』主題歌「Clan」、3周年記念ライブのために書き下ろした「Into the Mirror」、全英語詞の2曲も収録!2019年のメジャーデビュー以降、怒涛の勢いでタイアップ曲を制作し続けている彼女が、大切にしていることとは…。また、英語と日本語がうまく混じり合う歌詞づくりの秘訣や、英語詞ならではの可能性など、言葉の音を愛するmiletにたっぷりお話をお伺いしました。
(取材・文 / 井出美緒)
Always You作詞・作曲:miletIt’s always you, always you 誰よりも
I know it’s you, know it’s you 近付いて
君がいたら変わる 世界まで変わる
君も知らない君のこと 目には見えないその本当
何度でも言うよ You’re the one that I really want
Hurry up 足りない 機械仕掛けnight
Build it up 消えない 重なるfootmarks
All I want is you 見つめていたいの
‘Cause it’s the way we go now
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「もうちょっと自分をオープンしていいんだよ」って、歌が言ってくれている。

―― miletさんがいちばん最初に音楽に心を動かされた記憶というと、何が思い浮かびますか?

親がクラシック好きで、常に音楽が流れているなかで生活していたので、特別に感動する機会ってあまりなかったんですね。ただ、私が幼い頃、母がずっとゴスペラーズさんの「ひとり」を聴いていて。それを聴いたとき、初めてひとの声で、「綺麗な音!」と思ったのを覚えています。

―― 子どもの頃から歌うことはお好きだったのでしょうか。

いや、あまり歌ってなかったかなぁ。歌を聴くのは好きでしたけど、音楽鑑賞という感じでもなく日常に流れているだけでした。自分から音を出すようになったのは、小学校でフルートを始めたときです。そこからはずーっとフルートをやってきました。当時は音大に行って、オーケストラに入るのが夢だったので、高校でも最初は音大受験をするつもりで。

だけど、同時に勉強もしていたらそっちも楽しくなってきてしまったんです。そこで、音大じゃなくてもオーケストラを持っている大学は結構多いと知って、もっと視野を広く持ってみようと、一般の大学を受験しました。とくに映画音楽が好きだったので、映画も一緒に学べるような大学に行きたいとシフトチェンジしましたね。

―― そこからどのような流れで歌のほうへ行ったのですか?

大学時代、「将来どうしよう?」と思い始めた頃、友だちの前で歌う機会があったんです。私はギターを買いたてで、趣味程度で弾き語りをしていて。そのギターを友だちがたまたま見て、「miletちゃん、あのギター何? 弾いて!」って。

当時、その子は精神的に少し疲れている時期で、あまり元気がなくて。でも、私が弾き語りをしたら、すごく心動いてくれて。「miletちゃんの声には力がある。心のモヤモヤが晴れたよ」って言ってくれて。フルートを吹いていても、そんなこと言ってくれるひとはいなかったけど、初めて私の歌声で感動してくれたひとがいたのが嬉しくて。この声でトライしてみたいなって。

―― miletさんの歌声は曲によって、荘厳でクールな空気感も、温かく優しい空気感も伝えられる唯一無二の魅力があると思います。当時も今のような特徴的な歌声だったのでしょうか。

ありがとうございます。歌声は今とまったく違いますね。もうちょっとあっさりストレートで、こんなモヤァーっとした歌い方ではありませんでした(笑)。歌で勝負するなら、こんな特徴のない歌声では生き残っていけないって思って。やっぱりCDを届けたり、ライブで歌うってなったら、マイクに乗せるから、歌声を改良していったほうがいいかなと。

そこから、マイクを通した自分の歌声を聴きながら、耳に残る歌い方を研究していきました。あと、私は日本のシンガーでSalyuさんが好きだったので、Salyuさんの要素を入れたくて。自分の好きなアーティストさんのエアリー感だったり、希望感だったり。そんなところを盗みながら新しく自分の歌声を作っていきましたね。

―― 今、ご自身の歌声を言葉で表すとすると、どんな特性があると思いますか?

うーん…。私的には自分の声って、少年性みたいなものを感じるんですよね。男っぽいわけじゃないけど、女性っぽくもない。歌によっては男の子みたいな聴こえ方もする。中性的というか。曲によって歌い方をかなり変えるので、実態が掴めない歌声でもあるといつも思います。

―― 最初に歌詞を書いたのはいつ頃でしょうか。

デビューする前、「歌でやっていこうかなぁ」と考えていたとき、親友とお互いに曲を作ってプレゼントし合ったことがあって。多分それがいちばん最初です。もうリリースもしている「レッドネオン」って曲で、私にしては珍しくほとんど日本語の歌詞ですね。

―― DISCOGRAPHYを見ると、デビュー後からかなりハイペースでタイアップ楽曲を書き下ろし、EPを出されていますが、作詞でスランプに陥ることなどはありませんか?

photo_01です。

どうかなぁ…。でも最初に壁にぶつかったのが、「us」でした。まず作詞作曲自体、デビューするちょっと前に始めたぐらいでしたし、ラブソングでストレートな歌詞って、それまで書いたことがなくて。だからこそ、そこを抜け出してからは一皮むけた気がしました。どんなストレートな表現もしてみたいと思ったし、恥ずかしいことも歌だったら歌えると思った。なのでそれ以降、あんまり作詞のスランプはないかもしれません。

―― 「us」のときは、ご自身のなかで何か越えるべき壁があったんですね。

<好きだと言ってしまえば 何かが変わるかな>なんて、自分を1回閉じ込めなきゃ歌えないような歌詞でした。その押し込める作業がそれまで経験したことなくて。どれだけ素直に正直に歌うかを大事にしていたので。あんまり私は告白とかしないタイプだったし(笑)。

だから自分から好きって歌うのは、本当にそれを体験するかのごとく恥ずかしい行為で、かなり勇気がいるものではあったんです。でも、伝えてしまえば、まさに告白と同じでなんかスッキリして。「あ、私また大きくなった。こんなことも乗り越えた」って自信にもなって。歌詞と実体験がリンクしたような感覚がありました。

―― 「us」リリース前、デビュー当時は今よりミステリアスな印象が強かった気もします。今はステージ上のmiletさんと素のmiletさん、ギャップがなくなってきたようなところもあるのでしょうか。

かなり素の心をひらけるようになってきたかもしれません。デビュー当時はずっと、味方がいないんじゃないかと不安に思っていたので(笑)。右も左もわからないし、知らないひとばっかりだし。ほとんどライブを経験できないままコロナ禍に入り、ツアーも中止になって、誰が聴いてくれているのかなかなかわからない。自分の立ち位置もわからない。言葉を発するにも、誰に向けていいのか。そういう不安がありました。

それが最近、「私のこの言葉を誰が受け取ってくれるか」と想像したとき、歌を聴いてくれるひとや、ライブに来てくれているひとの存在が浮かぶようになってきたんです。その安心感がいちばん違うのかな。受け入れてくれるひとがいるってわかるから、いろんな場所で安心して言葉を発することができるようになりましたね。歌で本当に伝えたい言葉もどんどん増えてきているようにも思います。

―― 歌詞面で変化を感じるところもありますか?

まず自分の歌詞が、徐々に自分をこじ開けてくれている感覚がありますね。それこそ最初は「inside you」とか「Waterfall」とか、沈んでいくような曲が多くて。でも「us」のような明るい曲たちが、「もうちょっと自分をオープンしていいんだよ」って、言ってくれている気がしているというか。そのおかげで私が見える世界もどんどん明るくなっているんです。

最近はだいぶ日本語で書くことにも慣れてきましたし、「Ordinary days」みたいなほぼ日本語詞の曲もリリースするようになりました。今だからこそ、全部の言葉を日本語で、みんながわかるように伝えたいと思ったりもします。自分にとっての歌詞の役割というか、「歌は伝えるツールである」って認識が変わってきたなと思います。

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