デビューしたときからずっと、自分のなかに「一人称問題」がある。

―― 新曲「Always You」は映画『TANG タング』の主題歌ですね。映画制作側の方から何か使ってほしいワードの希望などはありましたか?

歌詞についてはあまりなかったです。曲としては、「ポップで明るさがあるもの。冒険の要素がある作品なので、壮大さも欲しい」というヒントをいただきました。脚本を読んで、ロボットのタングや、二宮さん演じる健のメインビジュアルを見ながら、想像して作っていきました。

―― 楽曲が0から1になるとき、書きたいイメージは映像で見える感覚なのでしょうか。

そうですね。基本的には脚本を読んで、自分の頭のなかに描いた物語のイメージに、劇判をつける感じです。先に映像を観させていただく場合には、同時に曲ができていることも多いです。そこから音を当てはめにいく。「私の頭のなかの音、これかな? こっちかな?」ってパズルみたいにハメていくのが通常の作業で。

ただ、今回は「Always You」というタイトルがいちばん最初にポッと出てきた、珍しいパターンでした。それで、「あ、これは温かい曲になるな」って思ったんですよね。

―― では、「Always You」というタイトルから導かれるイメージを具現化していくような。

はい。自分のなかで「Always You」って言葉が、いくつか意味を持っていて。たとえば、「いつもそばにいるあなた」でもあるし。「そばにはいないけど、私の心のなかにずっといるあなた」でもあって。そこから、大きな世界のなか、ひとりとひとりで出会った“わたし”と“あなた”の、見えない一本の線を歌いたいなと思いました。

サウンド的には、冒険という大きなテーマで、壮大な世界観はあるんですけど。でも歌っていることは、一対一の最小限の世界のお話で。そういうギャップというか、「こんな壮大な世界の内側にも、一対一のラインがあるんだよ」というメッセージを歌で表せたらなと作っていきましたね。

―― 映画の登場人物である「人生に迷子のダメ男・健」と、「記憶をなくした迷子のロボット・タング」、それぞれmiletさんにはどんな存在に映りましたか?

どっちも本当にポンコツだなぁって(笑)。タングは人とコミュニケーションが取れるロボットなんですけど、人間の小さな子どもを見ているような気持ちになってきて。ものすごくかわいくて、愛情深い。あと、「大好き」とか「友だち」とか思ったことを素直に言う子で、「あ、ここはちょっと私と似ているかもしれない」とも思いました。

一方で健は、そういうこともうまく伝えられないし、口下手だし、面倒くさがり屋。でもそれがこの映画のリアルなところだなとも思って。近未来の世界が描かれているけれど、その洗練された映像のなかに、人間味が溢れていて泥くさいふたりがいることにすごくホッとするというか。改めて、自分自身もいろんな感情が湧く人間でよかったなと感じましたね。

―― 歌詞ではとくに<君も知らない君のこと 教えたくないの誰にも ここだけの秘密>というフレーズが印象的で。こういう関係もまた可愛らしいですね。

実際にたとえば、親友に対して、その子自身も知らないその子の一面を私が好きだって、その子が気づいてないことさえ愛おしいとか。あと、その子がコンプレックスに感じているところが、私にはキラキラ綺麗に映って見えるとか。そういう感覚がすごくあって。そういうことって、日常ではなかなか相手に面と向かって言えないけど、私には歌があるので(笑)。「私はあなたのその魅力、全部知っているんだよ!」って言いたくなるような距離感の近さと信頼関係を伝えたくて書いたフレーズですね。

―― サビは<It’s always you, always you 誰よりも I know it’s you, know it’s you 近付いて 君がいたら変わる世界まで変わる>と、「う」の母音で韻を踏んでいて、聴き心地がよかったのですが、やはり使う母音によっても伝わる温度感などはかなり変わりますか?

そうですね。歌として歌いにくいのは、「い」や「う」の母音にアクセントを置いたり、高い音に持っていったりするポイントなんですね。やっぱり「え」とか「お」とか喉がひらける母音のほうが歌いやすい。だけど自分のなかで、「う」のラインって鋭さになるなと思っていて。しかも<you>の「y」とかって、「k」とか「s」の子音に比べたら、優しくて丸いイメージがあるからこそ、そこにアクセントをつけるなら「う」ぐらい鋭いもののほうが効果的なのかなと。そういう母音と子音のバランスも結構、歌詞を書くときには考えますね。

―― ちなみに歌詞内に、<君>という二人称はあるのですが、日本語の一人称はありませんね。

デビューしたときからずっと、自分のなかに「一人称問題」があるんです。最初は<僕>とか書いていたんですけど、どうしてもそのたびに違和感が生まれてしまって。私は日常生活で<僕>って言わないから。だから歌詞で日本語の一人称を使うとき、最近はほとんど<私>にしていると思います。

ただ、<私>って、メロディーに乗せると幅を取ってしまう3文字でもあるので、そういうときは一人称を取っ払っちゃいます。意外と<君>という二人称だけ出したほうが、世界を狭く感じられたりもしますし。実際に自分が使わない言葉を歌詞に乗せると、歌っていてあまり感情移入ができなかったりするので、なるべくリアルな言葉遣いをしたくて。それは私のなかのルールみたいなものかもしれません。

―― そう思うと<I>は便利ですね。音数も少なく、かつ<僕>も<私>も<俺>もすべて含んでくれる言葉で。

そうなんですよ! なので「Always You」もそうなんですけど、<私>を使わずに自分のことを伝えたいときは<I~>って英語で言っちゃうのが奥の手です(笑)。あと、男性の方にもカラオケで歌ってもらいたいと思ったとき、「<私>よりも<I>って英語で歌ったほうが恥ずかしくないかもな…」とかも最近は考えたりしますね。

―― miletさんがとくにお気に入りのフレーズを教えてください。

1番の<そんなバカみたいなことを本気で願ってしまうよ>と、2番の<どんな場所にいたって いつでも君のことを想ってしまうよ>が、メロディーも相まってとくに好きなポイントですね。自分でバカバカしいと思いながらも、本気で思っている自分がいることも、思える相手がいることも、本当に幸せだなって。とにかく<君>への気持ちが溢れている場所なので、歌っていてもすごくグッときます。

―― miletさんはこれまでも多くのタイアップ楽曲を制作されていますが、タイアップ楽曲の歌詞を書くときに大切にされることというと?

やっぱり『TANG タング』のような作品ですと、「この映画をひとことでまとめると?」って問われている気がして。そして私が答えとして 「Always You」と出す。起承転結、喜怒哀楽、すべてが含まれているような数時間の映画を数分の曲に落とし込むのは、なかなか難しいんですけど…。映画を観たあとに抱かれる気持ちと、この楽曲を聴いたときに抱かれる気持ちが同じであってほしいという思いがありますね。

主題歌は作品の後味みたいなものであり、その作品を包括できるような1曲でなければならないと思っていて。だからこそ、大きさもありながら、小ささもある曲というか。小さなひとりの隅まで表せるような曲であることは大切にしながら作っていますね。

―― 少し大きな質問になってしまいますが、映画では「人生の宝物」を探すというのがひとつのテーマになっていますよね。miletさんにとって「人生の宝物」というと何が浮かびますか?

うーん、家族ですかね。いちばん近いひとだし、親がずっと、「miletは私達の宝物だから」と言って育ててきてくれたのもあって。大人になった今、私自身も家族は宝物だって実感するんです。私が歌でやっていくというタイミングでも家族は、「miletができると思うなら、できるんじゃない?」って。いつも何も言わずに見透かされている気がしていて(笑)。無償の愛、見返りを求めない愛って、家族にいちばん向けられるなと思います。

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