ずっと書きたいと思って、書けないでいる歌詞は…

―― 「あなたがいる」に対し、カップリングの「ねがいごと」は“あなたがいなくても生きていかなきゃいけないひと”のための歌ですね。

そう!他の方にも言われてビックリしたんですけど、この対比は偶然なんです。前からあった歌で、出しどころに困っていて(笑)。もともとは明るい歌だったんですよ。でもディレクターと話しているなかで「会えなくなったひとにもう一度会いたいという、切ない歌のほうが合うんじゃないか」と。それで歌詞を書き変えまして。だから明るい曲調に切ない歌詞が乗っている曲になっているんですよね。

―― まずこの歌では<星のない東京の空で>と、あえて<東京>という具体的なワードが入っているのが印象的でした。

<東京>って言葉はめちゃくちゃ大きいですよね。それが歌詞に入るだけでガラッと変わるじゃないですか。でもこの<星のない東京の空で 星が流れるのを待ってる>ってフレーズすごく好きで。僕としては“絶対にかなわないこと”って意味なんですよ。絶対に会えない。だけどそれをずっと“ねがいごと”として持って、待ち続けている未練みたいな。そういうイメージで書いた曲ですね。

―― どこかwacciの「東京」も思い出しました。あの歌には<いつでも どこでも 居場所を探し続けて>というフレーズがありますが、「ねがいごと」には<見つけた二人の居場所>というフレーズがあり、通じているのかな…?と。

あ、ホントだー!これ…2曲が繋がっているってことにしてもいいですか(笑)。たしかに、あの二人の何十年後かのストーリーだとも捉えられる歌詞になっていますね。そういえば、Hey! Say! JUMPに「ナイモノネダリ」という曲を書かせていただいたんですけど、そのとき結構「別カノの続編だ!」とおっしゃっているひとがいて。やっぱり同じ人間がずっと歌詞を書いていると、どこかで曲と曲がリンクすることってあるのかもしれないですね。意識してはいないですが、それは書き手としてもすごくおもしろいです。

―― 「ねがいごと」はあえて<僕>や<私>といった一人称がないのでしょうか。

photo_01です。

僕はそういうのをわりと無意識でやっているんですけど、たしかにこの歌は一人称を入れたくなかったかな。カラーがだいぶ変わってしまうというか。幼くなるというか。重点を<あなた>に対する想いの吐露に置きたかったんですよね。そこに<僕>が介入してくると、聴くひとが自分のことに捉えにくくなる気もして。だから<僕らの居場所>じゃなく<二人の居場所>にしたり。今、改めて読んでみても一人称を入れなくて良かったなと思います。

―― ちなみに今作の収録曲は「あなたがいる」「ねがいごと」「まばたき」と3曲ともタイトルが“ひらがな”ですが、これも偶然ですか?

すみません、偶然なんです(笑)。なんで「ねがいごと」漢字にしなかったんだろうな…。

―― ひらがなの「ねがいごと」のほうが幻っぽいといいますか、先ほどおっしゃっていたように“絶対にかなわないこと”というニュアンスが出る気がします。

ですよね。たしかにそれはあるな。「願い事」って書くと言葉というか、気持ちが固い感じがします。それが嫌だなぁと感じたのかな。そういう感覚が無意識にあって「ねがいごと」にしたんだと思いますね。あと「まばたき」は「瞬き」という曲タイトルが世の中に比較的多くあったからです(笑)。

―― 今作に「まばたき -LIVE take-」を収録されたのはどういった想いからでしょうか。

このシングルの収録曲を決めるときに、何かのライブテイクを入れたいという話になって。じゃあせっかくだから3月に出した新曲2曲のうちのどちらかを入れようと。あとは“あなたがいる歌”と“あなたがいない歌”があって、最後に“だからこそ今を大事に生きよう”という「まばたき」の着地がすごくハマるんじゃないかなって。…さっき「偶然」とか言った話と矛盾していますね(笑)。でも結果として「まばたき」がそういう役割を担う曲になって良かったなと思います。

―― 橋口さんは歌詞の“人称”ってどのように決めていますか?

難しいなぁ…。たとえば「あなたがいる」は、単純にサビ頭が3文字でハマりが良かっただけなんです。そういうパターンもあるし。「まばたき」みたいな歌の場合は、人称が<あなた>だとちょっと距離ができてしまう気がします。だから<君>という近くて狭いニュアンスで伝えたくて、世界中に<僕>と二人ぼっちみたいな感覚がありました。あと「結」っていう曲があるんですけど、そういうウェデイングソングみたいな歌詞の場合は、より丁寧に好きな気持ちを伝えたいから<あなた>を使ったり。そして、一人称が<私>の場合はもう完全に女性目線ですね。

―― 女性目線で歌詞を書くときって<僕>として書くときと感覚は違いますか?

かなり変わりますね。女性目線の歌のほうが比較的書きやすいです。やっぱり自分と切り離して書けるのが大きいと思うんですよ。歌詞って、いかに自分をさらけ出せるかみたいなところあるじゃないですか。僕は男性目線だとどこか保守的というか、良いやつになっちゃうんですよね。でも女性が主人公なら、そのひとを自由に動かせる(笑)。極端な話、不幸にも幸せにもできてしまう自分がいるんです。なんとなく自分のなかで守っていた部分を、女性目線の歌だと一気に解放できる。その上、いろんなひとから聞いた“あるある”も溜まっているから、まだしばらくは書けそうです(笑)。

―― 橋口さんにとって、歌詞ってどんな存在のものでしょうか。

僕は他には何にもない人間だけど、歌詞だけは唯一の武器だと思います。演奏もサウンドもバンドメンバーに頼りっぱなしだけど、そのなかで自分がなんとか踏ん張っていられるのは「もっと良い歌詞を絶対に書くぞ」という気持ちがあるからだし。これからも命がけで歌詞を書いて、自分のプライドを守っていきたいと思いますね。

―― 先ほど、応援歌における言葉選びについてはお伺いしたのですが、歌詞を書くときに使わないように意識している言葉ってありますか?

うーん…。やっぱりNGはないですね。何よりも伝わることが最優先なので。あんまり「これを使わずに表現しよう」というところには意識を向けないタイプだと思います。なんか…だから応援歌を書くときにいつも苦しんでいる気がします。使う単語は意識せずに、伝わる1行をものすごく考えてしまうので。

―― 逆によく使う言葉はありますか?

それこそ「ひとりじゃない」もよく使うし、あと「誇り」とか「胸を張る」とか。「昨日」「今日」「明日」も。とくに応援歌は被っている言葉が多いと思います。応援歌って、伝えたい大きなメッセージは限られているじゃないですか。だから僕は“あるある”に固執しちゃうんですよね。応援歌でずっとヒットしているひとたちってすごいですよね。ベリーグッドマンとか。

―― WANIMAさんとかもパっと浮かびました。

そうですよね。僕みたいに、クラスの中心にいるひとたちの悪口を教室の隅っこで言っていたようなタイプの人間には、応援歌ってなかなか難しいところがあるわけですよ(笑)。

―― でも、教室の隅っこタイプの方が書く応援歌も必要だと思います。

たしかに。そうですよね…。自分が納得できるもの、自分にとって説得力のあるものを書きたいからこそ、大変なんですよね。wacciなりの応援歌というものは、これからも大事にしていきたいなと思いますね。

―― では最後に、これから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

ずっと書きたいと思って、書けないでいるのは、エロい歌ですかね(笑)。なかなか書ききれず、ずっと避けてきたテーマなんですが、いつか男性目線でちゃんと書いてみたいですね。

あと、友達に「夢を追いかける歌も良いけど、夢を見つけられてないひともたくさんいるから、そこに対する歌も良いんじゃない」って言われたんですよね。そう考えると、恋人同士のラブソングもいいんだけど、付き合うか付き合わないかのドキドキ感を書くのも良いんじゃないかなとか。僕がこれまで描いてきたシーンの前の部分を書くのもおもしろそうだなって、その友達の話を聞いて思いました。そこの“あるある”もきっと探せばたくさんありそうなので。

そして、大きなテーマで全世代に刺さる名曲をいつか作ってみたいですね。中島みゆきさんの「糸」とか、坂本九さんの「上を向いて歩こう」みたいな。書いているときは、そんな大きな歌になるとは思ってもいなかったのに、結果として教科書に載せても良いような曲が書けたらと思いますね。それがひとつのゴールかな。


123