―― 年齢や音楽活動を重ねてゆくにつれ、歌詞面で変わったと思うところはありますか？
昔より取捨選択はうまくなったのかなぁ。何が伝わりやすくて、何がわかりにくいかとか。自分のなかの判断基準ができてきているなと思います。あとは…そろそろ青春真っ只中な歌は書けなくなってきそうだなっていう気持ちはあります。つい先日、歌ネットさんでヒグチアイさんの「縁」の歌詞エッセイを読んだんですけど、それこそああいう歌詞を書きたいというか。すごく良いなと思って。自分の年齢ならではのそういう歌もちゃんと書いていきたいなと。だからこれからちょっと変わっていく気がします。無理をせず、等身大の自分を出していけたら良いですね。
―― また、今「日常を切り取りどんな人のそばにでも寄り添って歌う」となると、現実的な「withコロナ」「新しい生活様式」という部分も、歌詞を書くときに考えますか？
最初は、切り離して作ろうと思っていたんですよね。でも一昨日なんかも、夏の歌を書こうと思って書きはじめたんですけど…。たとえば、みんなでビーチに集まってキャッキャッ的なシーンを描きたくても、「いやコロナだしな…」って。ちょっと制限されている感覚がありますね。どうなるかもわからないし。もしかしたらずっとこのままかもしれないじゃないですか。だからタイトルに「～コロナ終息後～」とか入れようかなとか考えます(笑)。
あとつい最近、コロナ禍だからこそ遠距離恋愛をテーマにした歌を書いてほしいという依頼もいただいて。そのときは“離れていても繋がっている方法”みたいなものを歌詞に取り入れましたね。「付き合いたてでまだ写真も少ないから、寂しいときはLINEのトーク画面を見返している」みたいな。そういう“会えないあるある”をたくさん考えて。それもまたコロナ禍に寄り添っているのかなって思います。
―― 橋口さんは歌詞内に“あるある”を取り込むのがすごくお上手ですよね…！
そう、僕“あるある”めっちゃ意識しているんですよ！日常のなかで書き留めているものもあるんですけど、基本的には書いてる途中、2番のAメロで出てくることが多いですね。テンションが上がって波に乗っていると絶対に出てくる。多分、自分のなかの引き出しに“あるある”がたくさん入っていて、調子に乗ると出てくるようになっているんです(笑)。
―― では、ここからはニューシングル「あなたがいる」についてお伺いしていきます。タイトル曲はTVアニメ『バクテン!!』エンディングテーマで、まさに先ほどおっしゃっていた「青春真っ只中な歌」ですね。
はい、だから大変でした(笑)。あと実はこの曲、最初は＜僕＞ではなくて＜あなた＞のための歌だったんですよ。二人称メインだったんです。でも「一人称をメインにしてほしい」という希望があって。つまり“あなたはあなただから頑張って”じゃなく“僕は僕だから頑張るよ”にしてほしいと。自分が夢を見つけて、仲間とともにそれを追いかけてゆくというお話だから、誰かに対して向けた歌じゃなくて、自分が主人公の歌のほうがより良いと。それでガラッと書き換えたんですよね。
―― それは難しそうですね。＜あなた＞のために書いた曲を、＜僕＞のための曲に変えると。
かなり難しかったですね。でも要望があったのはそれぐらいかな。台本は全部読んで、それだけでもすごく面白くて、たくさんヒントを得て書きました。何より『バクテン!!』というタイトル。バク転って、後ろに補助のひとがいて、そのひとに背中を支えてもらうから後ろに飛ぶ勇気が生まれるわけですよ。まさに「あなたがいる」から飛べる。
―― 冒頭の＜あなたがいる だから僕は飛び立てるんだよ あなたがいる だから僕は踏み出せるんだよ＞というサビが軸になっているんですね。
そうです。その軸をもとに作っていきましたね。あとはやっぱりバンドもチーム戦なので重なる部分も多く、その共通項で書こうと。そしてサビまではひたすら“夢追いかけてるあるある”です(笑)。あと、これも実を言うとなんですけど、歌詞の候補は5パターンぐらいありまして。知り合いのスポーツをやってる人などに意見をもらいながら、最終的にいちばん良いものを選びました。
―― こうした応援歌における言葉選びで大切にされていることってありますか？
これは僕の感覚ですけど“好きだと言わずに好きだと伝えるべき”みたいなこだわりって、デビューと同時に捨てちゃったんですよ。わかりやすいなら使っちゃえ！と。とにかく自分が書きたいテーマがちゃんと伝わる言葉であれば、制限を設けないようにしていますね。とくに応援歌では。なので「頑張れ」とか「ひとりじゃない」とかもめちゃめちゃ使いますね。
その代わり、どれだけサビで使い古された言葉を使っても、その説得力をちゃんとAメロBメロで持たせようと意識しています。「あなたがいる」もそうですね。それこそ“あるある”で、サビまでにどれだけ惹き込めるかというところが、応援歌でこだわっているところですね。
―― 「あなたがいる」MVのコメント欄には、ご自身の実体験を書かれている方も多く、とくに2番Aメロの＜好きで始めたはずが 好きじゃなくなっていって＞というフレーズは共感力が高い印象でした。
そうなんですよね。なんか…wacciの音楽はそういう役割でいたいなと思います。日常のテーマソングとして鳴っていてほしいというか。結婚式のときに流したい曲とかってあるじゃないですか。それと一緒で、自分が頑張っているときに流したい曲であったり。それぞれの人生のいろんな節目のテーマソングを書いていきたいですね。だからコメント欄に実体験を書いてくれているのを見るとすごく嬉しいです。ちゃんと届いているんだなって。
―― 「あなたがいる」で、書けて良かったと思うフレーズを教えてください。
2つあります。1つは＜上には上がいたって 僕には僕だけだって 遠まわしだったけど 嬉しかったよ＞というところ。これを2行で言い表せたのは良かったなと思いました。もう1つは＜追いかけ続ける中で 小さく叶ってゆくんだろう 僕らは今日も叶える 同じ未来を共に描くという夢を＞というところ。
前に、甲本ヒロトさんがテレビで「自分はバンドをやっている時点でもう夢は叶っている」って言っていたんですよね。売れるとかじゃなく、自分はバンドをやることが夢だったから、バンドをやっている時点で夢は叶っているんだって。その夢がずーっと今も叶っている状態なんだって。そういう意味だと、僕も「叶ってるじゃん！」っていう。
大きな夢はいつまでも掴めないものかもしれないけれど、それこそ「バンドを今もやっていること」だったり、「別カノがちょっと広がったこと」だったり、「武道館でライブができたこと」だったり、気づいたら小さく叶っているものがたくさんあるんだなって。部活とかも、仲間と一緒に何かを頑張っている時点で、もう何かが叶っているんだと思う。だから“夢は叶う”とは言わないけれど、夢を追いかけている過程で、実はいくつも叶っていることがある。それがこの歌でいちばん伝えたかったことですね。
