あなたもまだ知らない“自分”に出逢える、アニメ『ラディアン』ED曲!

 シンガーソングライター“NakamuraEmi”が新曲「ちっとも知らなかった」をリリースしました。同曲は、NHK Eテレ TVアニメ『ラディアン』第2シリーズのエンディングテーマとして書き下ろされた1曲です。小柄な体からは想像できないほど、パワフルに吐き出されるリリックが強く支持されている彼女。しかし、かつては「ふわふわした歌詞ばかりを書いていた」んだそう。そんな彼女を大きく変えたひと言とは…? 今のNakamuraEmiが向き合っている葛藤、新曲の歌詞に込めた想いと細やかなこだわり、100%自分のリアルな音楽を作り続ける理由などなど、まっすぐな言葉で語ってくださいました。

(取材・文 / 井出美緒)
ちっとも知らなかった作詞・作曲:NakamuraEmi獣みたいな私も 泥だらけの私も
強くなった 鋭くなった 勲章だって
怖じ気づいた私も 一人ぼっちの私も
優しいんだって 正直だって 大丈夫だって
でもお手上げの時は 君に会いに行くよ
笑いながら 君は言うだろう ひどい靴だって
私も一緒に 笑うから あの時よりも 少しだけ 強くなって
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27、28歳くらいまで、ずっと歌詞に無理矢理感があった。

―― 幼少の頃よりJ-POPに触れてきたとのことですが、誰かの音楽に痺れた、いちばん最初の記憶というと?

小学生の頃、8センチシングルを買って聴いた、UAさんの「情熱」という曲ですね。当時は、普通のJPOPをいろいろ聴いていたんですけど、そのなかでも忘れられない歌で。今でも大好きですし、フェスのリハーサルなどでカバーで歌わせてもらったりしているくらいです。

―― Emiさんは歌詞をとても大切にされているアーティストですので、その当時も歌詞面でグッと来るところがあったのでしょうか。

いや、実は30代手前まで、歌詞をちゃんと意識することってなかったんですよ。もっと言えば幼い頃は、音楽にもそんなに興味がある人間ではありませんでした。だからUAさんの「情熱」も、当時あまり聴いたことがないようなビートが印象的で、音だけで聴いていた感じで。自分が歌を始めてからも、最初はかなりふわふわした歌詞でシンガーソングライターをやっていましたね。歌詞を大切にするようになったのは、20代後半でHIPHOPに出逢ってからなので、それまでは全然…。

―― その「ふわふわした歌詞」の頃は、どんなことを歌っていたのですか?

なんだっけなぁ…。曲名が「僕の明かり」だったことは覚えています(笑)。私は20歳で幼稚園の先生になったんですけど、やっぱり音楽をやりたくて、21歳のときに先生を辞めようとしたんですね。たった1年で。でも周りからはもちろん「何を言っているんだ!」と言われて。でも自分としては「資格があるから、復帰しようと思えばできる。それなら今は若いうちにできることをやりたい!」と思って。たしか、そんな時期の感情を歌詞にしました。みんな反対して、誰も照らしてくれないけど、自分には希望があるんだ…みたいな。意地を張っていたときの思いを書きましたね。

―― そこからHIPHOPに出逢って、徐々に現在のNakamuraEmiの音楽スタイルが確立されていくわけですが、歌詞のどんなところが変わりましたか?

photo_01です。

本当の意味で“リアル”を書くようになったことですね。RHYMESTERさんをはじめ、いろんなHIPHOPに出逢って「こんなにリアルを歌っていいんだ。こんなに自分の言いたいことがあるひとたちがいるんだ。私もそうなりたい!」と思ったんです。そこからまず、仕事を頑張るようになりました。それから、仕事をするなかで生じるうまくいかない人間関係とか、悩みをノートに書くようになって。それが自然と歌詞になっていくようになって。やっと自分100%のリアルな音楽を作れるようになったんです。

―― 先ほど教えていただいた「僕の明かり」も、Emiさんの実体験や感情であったかと思うのですが、今のEmiさんが歌う“リアル”とはかなり濃度が違ったのでしょうか。

うーん。なんか…今思えば寄せ集めの言葉だったなって。当時、自分にはとくに趣味も特技もなくて。そんなときに、たまたま短大の文化祭のちょっとしたバンドで歌を褒められたことが嬉しかったんですよね。だから「初めて何かで自分が褒められた!これを続けていけば、私でも何か築けるのかも!」という軽い気持ちでスタートさせてしまって。そこから27、28歳くらいまで、ずっと歌詞に無理矢理感があった気がしますね。自分が褒められた音楽をうまくやっていくための言葉というか。でもその軽い音楽が20代後半になって、誰にも認められなくなったとき、自分の歌を「気持ち悪い」って言われるようになったんですよ。

―― 気持ち悪い…?

当時、音楽スタジオでバイトをしていて、HIPHOPをやっているミュージシャンをはじめ、いろんな方々に可愛がってもらっていたんですね。でも私の歌を聴いてもらったときに「歌は上手い感じだけど、なんか歌詞が気持ち悪いよね」って言われて。そのときは「え!?」って思ったし、ショックだったし、意味がわかりませんでした。そこから「気持ち悪いってなんなんだろう」と悩むようになっていきましたね。

―― その原因は何だったのですか?

HIPHOPを聴き始めて気づいたのは、まず「愛している」とか「好き」とか「愛」とか、そういう言葉の意味をまだよくわかっていないのに、簡単に使っていた気持ち悪さ。そして等身大じゃない大きなことを歌おうとしていた気持ち悪さですね。自分の歌なのに、自分じゃなかったんです。それに気づいてからは、どんどん自分自身の葛藤と向き合うようになっていって、年を重ねれば重ねるほど、その悩みの幅も広くなっている気がします。そうすると、やっぱり歌えることの幅も広くなっていくんですよね。

―― 今は、ご自身の中にどのような葛藤や問題がありますか?

音楽だけを頼りにせず生きていくには、どうすればいいんだろうということかなぁ…。私は今年で38歳になるんですけど、女性としても切り替わる時期というか。身体とか気持ちとかいろんな面に変化が訪れて「あ、本当に年を重ねてきたんだ」と改めて感じていまして(笑)。それと同時に「音楽があってよかった」って心から思うようになったんですね。すっごく楽しいし、何より真摯に向き合える。でも逆に言えば、音楽しかないかもしれないからこそ、音楽がものすごく大きな支えだからこそ、この先ずっと音楽だけに加担していったら、自分が壊れちゃいそうだなって。だから、音楽を長く続けていくためにも、音楽だけに頼りすぎない生き方を考えているところですね。

―― なるほど…。ただ、Emiさんの楽曲を聴くと、大人になればなるほど悩みの種類も幅も増えていくけれど、そのぶん深みが増して、生きるのが面白くなっていきそうだなと思えます。

嬉しいです!本当にそうなんですよね。もちろん身体はあちこち痛くなってくるんですけど(笑)。でも私の周りにも、40代以降ですごく楽しそうな男性女性がたくさんいるし、年を重ねたからこそ、良い意味でバッと潔く諦めがついて、より自分らしく生きていけたりするし。もう変に背伸びしなくても、年相応の自分でいられるというか。だから私も、年を重ねることの楽しさを味わえる大人で在りたいなと、思っています。

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