どうして私はここを一文字ずつ変えたんだっけ?

―― ここからは新曲「ちっとも知らなかった」についてお伺いしていきます。この歌詞はどのように生まれたのでしょうか。

この曲は、アニメ『ラディアン』第2シリーズのエンディングテーマなので、原作の漫画を読んで、自分のリアルと通ずるところを探しました。そのなかでもとくに、主人公の少年・セトと、仲間のメリちゃんの関係が印象的で。メリちゃんは、二重人格の女の子なんですけど、セトだけは彼女のその両面があってこそのメリで、当たり前に受け入れてくれているのです。

それは最も自分の音楽活動とリンクするところでしたね。私もダメなところがたくさんあるけれど、それをチームの全く違う性格のみんなが「それも良いところだ」って認めてくれて、音楽に繋げてくれるから。きっとこの歌を聴いてくださる方も、会社だったり、学校だったり、いろんなひとに出逢うことで“ちっとも知らなかった”自分自身を知って、世界が広がっていくんだろうな、と思いながら書きました。

―― では、仲間のメリちゃん目線で書かれた歌だったんですね!

photo_01です。

実はそうなんですよ。歌では、アニメの主人公である少年ではなく、その姿を見ている側の女の子を主人公にしました。あと、この第2シリーズからは結構、女性の登場人物がどんどん出てくるんです。それを踏まえた上で、私がひとりの女性として描けることって何だろうという思いもあったんです。なので、メリちゃん目線で書いた曲であり、私から見たセトを<君>として書いた曲でもあり、私にとってのセトのような存在を思い浮かべながら書いた曲でもありますね。

―― ちなみにEmiさんご自身はどのような性格だと思いますか?

私はネガティブ100%な人間です(笑)。小さい頃は、強気で超自分勝手だったんですけど、中学生の頃にその性格が原因でクラス中のひとに嫌われたことがあって。それからは、何か嫌な出来事が起こると「あぁ…自分のせいなんじゃないか…」って思うクセがついて、周りに合わせるようになって、いろんなことをネガティブに捉えるようになっちゃいましたね。

あと、大きな枠で流れが良くなくなりそうなときも、それを回復しようとするよりは「あー、どんどんこうなっちゃうかも、ああなっちゃうかも」と悪い方向に考えてしまったり。とはいえ今、私は発信者なんだから、なるべく意見は言うようにしているし、変わりたい、変わらなきゃとは思っているんですけど、今でもそういうネガティブな部分が強いと思います。

―― でも、この曲の<獣みたいな私を 泥だらけの私を 強くなった 鋭くなった 勲章だって>という歌詞のように、マイナスだと思っていたことを、プラスに変えてもらえる瞬間も、やっぱりありますよね。

ありますあります。プロデューサー、エンジニア、バンドメンバー、みんな私のネガティブをプラスに変えてくれる存在です。この曲自体も“すごく自信あるけど…自信ない”みたいな気持ちで、デモを渡したんですね(笑)。でも「いや、これは素晴らしい」って。別に「あなたはすごいよ」とか「あなたのこの曲、良いよ」とか、特別な言葉で私を安心させるんじゃないんです。ただ、「この歌詞ならこの音が必要だ」とか「この歌詞ならこのリズムが必要だ」とか、いろんなものに展開して、ブワーッと広げてくれる。

多分、もしも私の歌詞に威力がなかったら、広げてもらうパワーも生まれないと思うんですけど、みんなが何も言わずに素晴らしい音源に仕上げてくれることがもう、答えなんですよね。私はその答えを受け止めて、いつも曲を作らせてもらっています。逆に、歌詞に力が足りない曲に対しては「うーん、これじゃアレンジが思い浮かばない」って正直に言ってくれるので、とても信頼できるチームで。だからこそ私も正直に楽しく音楽を続けられているんだなって感じますね。

―― このサビの部分、前半では<獣みたいな私を 泥だらけの私を>と歌っていますが、後半では<獣みたいな私も 泥だらけの私も 強くなった 鋭くなった 勲章だって>と、「を」が「も」に変わっていることで、もらった言葉が<私>自身の思考になりつつあるように感じられました。

すごい、気づいてもらえた。そうなんですよ。最近ライブで歌っていると、熱量が入りすぎて「を」と「に」と「も」がわからなくなっちゃうんです。でも改めて、どうして私はここを一文字ずつ変えたんだっけ? と考えてみると、前半は<君>から言われたからだけど、後半は自分自身がそう思えたことをちゃんと表現したかったからなんですよね。そんなところまで読み取ってもらえて、嬉しいです。

―― また、前半には<足手纏いなのを ひどい靴のせいにした>というフレーズがありますが、それがラストでは<笑いながら 君は言うだろう ひどい靴だって 私も一緒に 笑うから>と、前向きにひらけているのも素敵ですね。

そうそうそう。私はいつも歌詞先行で曲を作るんですけど、今回この歌詞を書いていくなかで<足手纏いなのを ひどい靴のせいにした>というワンフレーズができたとき、あ、この曲の核ができた!ってホッとしたんです。実はここが「ちっとも知らなかった」の中心なんです。そして最後には、かつて自分が<ひどい靴のせいにした>恥ずかしい出来事を、笑えるようになったことで、マイナスをプラスに変えることができました。この歌は<ひどい靴>という大事なキーワードが生まれたことで、完成したんだと思います。

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