隷従の叫び人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | 人間椅子 | 微睡(まどろみ)の中に 人生は過ぎる 幻燈のように 刻限に追われ 安寧を求め 目が覚めぬままに 僕は 奴隷なんかじゃない 僕は 自由を叫びたい 番号は振られ 選別がされる 畜生のように 限界が生まれ 坦懐は消える 隷従のままに 僕は 奴隷なんかじゃない 僕は 自由を叫びたい この世に生まれて 何をつかむのか 他人の生涯 それとも己れか 思い出浸る時間はない 輪廻を出るには 何をすればいい 刹那の慰み それとも試練か 虚構に救う道などない 牢獄の中で 人生は閉じる 幻想のままに 僕は 奴隷なんかじゃない 僕は 自由を叫びたい |
悪魔祈祷書人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 俺に力をおくれ そう悪魔みたいな 別に誰かを騙す いやそんなのじゃない 嘘つく舌を 抜いてやりたい 俺の魂なんか そうくれてやるから アブラカダブラ 悪魔祈祷書 俺に印をおくれ そう獣みたいな のべつ淫らに耽る いやそいつは御免 盗っ人たちを 喰らってやりたい 俺の良心なんぞ そう只でやるから アブラカダブラ 悪魔祈祷書 悪魔が来たりて 祝福したもう 悪魔がこぞりて 福音のたもう 俺に翼をおくれ そう魔物みたいな 空を気ままに翔る いやそれなら無用 企みごとを 暴いてやりたい 俺の幸福なんて そう欲しいだけやる アブラカダブラ 悪魔祈祷書 |
眠り男人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 見世物小屋が やって来る 今日は楽しい 酉の市 だるま女に 蛇女 トリに出でしは 黄泉の使者 幕が 上がる 夜が 叫ぶ さあ 起きろ 棺を開けて 動け 呪いを吐いて 踊れ 血潮を浴び そして 眠れ 鎖国時代の 忘れ物 無知と野蛮の 夢を見る 物の怪どもに 狐憑き 畏怖をまとった 伝導師 蓋が 開く 闇が 笑う さあ 起きろ 棺を開けて 動け 呪いを吐いて 踊れ 血潮を浴び そして 眠れ おためごかしの 四つ辻に 猟奇の風が 吹き荒ぶ 夢が 歩く 空が 裂ける さあ 起きろ 棺を開けて 動け 呪いを吐いて 踊れ 血潮を浴び そして 眠れ さあ 起きろ さあ 動け さあ 踊れ そして 眠れ |
鏡地獄人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | 人間椅子 | 合わせ鏡に続く 白い横顔愛でる 男ひとり 広い世間を恐れ そっと背中を向ける 男ひとり 合鍵のない城をこさえ 機械仕掛けの影と暮らす 夢の世界を 映しやまない 万華鏡 鏡の中から 今も聞こえる 呪い声 鏡の中から 今もしている 呻き声 「地獄!」 恋の苦楽を厭(いと)い 硬い人形撫でる 男ひとり 窓すらもない砦こもり 独り善がりの意匠凝らす 夢の続きを 描きやまない 顕微鏡 鏡の中から 今も聞こえる 呪い声 鏡の中から 今もしている 呻き声 「地獄!」 鏡の中から 今も聞こえる 呪い声 鏡の中から 今もしている 呻き声 「地獄!」 「地獄!」 「地獄!」 |
衛星になった男人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | さあ 近付いた オールトの雲 ああ 呼んでいる 光の子供の調べ 出ようと思うんだ 広い世界へと まやかしのない エルドラドへと 人のためは 僕のためさ 空の果てへ いざ行かん 行こうと思うんだ 大きい宇宙へと 争いのない ユートピアへと 人の夢は 僕の夢さ 星の彼方 いざ行かん 君が悲しむ時は 僕も虚空で泣くよ 涙に濡れる星座 それが僕さ 君が喜ぶ時は 僕も夜空を舞うよ 歌い踊る彗星 それが僕さ 発とうと思うんだ 遠い銀河へと 憎しみのない ニルヴァーナへと 人の願いは 僕の願いさ 時を越えて いざ行かん |
表徴の帝国人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | 人間椅子 | 達磨さんが転んだ 面壁九年どっこいしょ 仏法僧が鳴いちっち 三宝唱えあをによし 鎮守の杜の紫陽花(あじさい)は 夕べの雨とてんてまり 春夏秋冬 天然美(うるわ)し ここは 日の本 ここは 日の国 ここは 日の本 ここは 日の国 鹿威(ししおど)しが滑った 諸行は無常とんからり 利休さんが茶(さ)のさっさ 一期は一会うつせみの 蛙飛びこむ水の音 昔も今もいとをかし 幽玄俳諧 侘び寂び芳(かんば)し ここは 日の本 ここは 日の国 ここは 日の本 ここは 日の国 表徴の帝国 表徴の帝国 観音様が笑った 善男善女こちゃこちゃえ 袖振り合うも前世の 縁(えにし)と思えさざれいし 彼岸が来ればのし紙に 三つ指ついてあきづしま 謙譲婉曲 礼節尊し ここは 日の本 ここは 日の国 ここは 日の本 ここは 日の国 ここは 日の本 ここは 日の国 ここは 日の本 ここは 日の国 |
沸騰する宇宙人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 宇宙が回転する 新しい時代へ エホバの画策した 偉大なる円陣 大地は屹立する 天からの号令で 全地は覚醒する 生命の意味 ソドムとゴモラの 安らかにあれ 肉体(からだ)も名誉も 持てないがゆえ (オープン) 扉が開く (セサミ) チャクラが開く (オープン) 無限へ開く (セサミ) 涅槃へ開く 宇宙 次元が開闢(かいびゃく)する 素晴らしい地平へ 時間の碇泊する 永えなる浄土 思念は横溢(おういつ)する 恒星を尻目に 秘密は開陳する 存在の意義 ヘヴンとヘルから 諸人が来る アポカリプスを 果たさんとして (オープン) 扉が開く (セサミ) チャクラが開く (オープン) 無限へ開く (セサミ) 涅槃へ開く 宇宙 ああ 大空よ 我が 故郷よ ああ 星空よ 我が 兄弟よ 銀河が疾走する 懐かしい知性へ エーテルの充満する 全能の脈動 苦悩は散逸する 迷信の彼方に 光は招来する 創造の意図 ドグマとダルマが 抱擁をなす 仮想もリアルも 等しいがため (オープン) 扉が開く (セサミ) チャクラが開く (オープン) 無限へ開く (セサミ) 涅槃へ開く オープン セサミ (オープン) 扉が開く (セサミ) チャクラが開く (オープン) 無限へ開く (セサミ) 涅槃へ開く 宇宙 |
夜明け前人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 夜の時代に 私たちは生まれた 牢につながれ 外の景色知らずに 人に 心あるのは愛のため 人に 形あるのは夢のため 暗さに耐え抜け耐え抜け 寒さに耐え抜け耐え抜け 朝は近い 時が満ちる 愛が満ちる 時が開く 夢が開く 夜明け前 夜の世界が 私たちを苛(さいな)む 岩屋閉じ込め 朝の光さえぎる 人に 笑顔あるのは誰のため 人に 涙あるのは人のため 辛さに負けるな負けるな 弱さに負けるな負けるな 朝は近い 時が満ちる 愛が満ちる 時が開く 夢が開く 夜明け前 燃えろ 燃えろ 日の光 燃えろ 燃えろ 赤々と 燃えろ 燃えろ 日の光 轟々(ごうごう)と 照らせ 照らせ 夜の闇 照らせ 照らせ 燦然(さんぜん)と 照らせ 照らせ 夜の闇 煌々(こうこう)と 朝の気配が 私たちに囁く 長い眠りを 覚める時が来たのだ 人に 希望あるのは明日のため 人に 正義あるのは皆のため 恐怖に打ち勝て打ち勝て 不安に打ち勝て打ち勝て 朝は近い 時が満ちる 愛が満ちる 時が開く 夢が開く 夜明け前 明けない闇夜はない 覚めない悪夢はない 解けない魔法はない もうすぐ夜が明ける |
時間からの影人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 星雲の静寂【しじま】には 無慈悲な神が御座【おは】すとか 黄金の玉座にて 銀河の夢を聞こし召す 悍【おぞ】ましい尊顔は 悪辣【あくらつ】に滾【たぎ】る 異次元の狭間【はざま】から 詰屈【きっくつ】な歌を嘯【うそぶ】けば 狂おしい旋律が 十方を冒す 現世【うつしよ】は夢 神々の夢 永劫の帳【とばり】から 未来と過去を認【したた】める 忌まわしい法則で 冥界を統【す】べる 現世は夢 神々の夢 現人【うつせみ】は影 神々の影 |
泥の雨人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 僕の家に 黒い雨が降るよ 窓を叩き 黄泉の使者が来るよ 神様の摂理を外れ 物質が誠を語る 終わりの世界 狂気の時代 降りつみ やまない 泥の雨 遠い空に きのこ雲が湧くよ 父や母の むせび泣きがするよ 黄金に権威を与え 人間に首輪を付ける 奴隷の世界 闇夜の時代 降りつみ やまない 泥の雨 しとしと しとしと 天国の光を忘れ 純白を血潮に染める 悪魔の世界 地獄の時代 降りつみ やまない 泥の雨 |
太陽の没落人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 太陽は今 己れの炎に喘ぐ 巨大な器 余るほど熟れた果実 貧しき者へ 悲しむ者へ 洞窟潜む者へと 階(きざはし)を 下らん 空の太陽が 落ちるように 彼もひとり 落ちてくるだろう 太陽を背に 雲海見下ろす男 焼けつく叡智 肌焦がす恵み浴びて 賢しらたちへ 憐れむ人へ 幕屋で眠る驢馬(ろば)へと 松明を かざさん 空の太陽が 落ちるように 彼もひとり 落ちてゆくだろう 千尋(せんじん)の谷 急峻な崖 牙むく獣 のたうつ大地 嘲りの声 蔑む眼(まなこ) 罵る唾(つばき) 頬打つ礫(つぶて) 太陽の没落 栄光の没落 太陽の没落 天上の没落 太陽の没落 栄光の没落 太陽の没落 天上の没落 太陽の目は 道化師にも似て暗い 善と悪との 彼岸を見てきたゆえに 痴れ者なのか 物乞いなのか 咎人(とがにん)こそは 我が輩(ともがら)と 笑わん 空の太陽が 沈むように 彼もひとり 下りてゆくだろう 車輪の輪は 止まりはしない 紅蓮の火は 消されはしない 車輪の輪は 止まりはしない 紅蓮の火は 消されはしない 没落する 没落する 没落する 没落する |
ヤマさん人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | ヤマさんはヤマさん あとは知らない 女に学問 なにも知らない たいそう働き たいそう笑った ひとりで暮らして ひとりで泣いた 苦しまなくていいよ 素朴に生きることなんて 誰にもできない 今はただ おやすみ ヤマさん あばよ ヤマさん あばよ ヤマさんはヤマさん ひとつの宝石 幼子みたいな きれいな心 騙すぐらいなら 騙されよう 馬鹿にするなら 馬鹿にされよう 悲しまなくていいよ 傷つけず生きることなんて 君しかできない さあゆっくり おねむり ヤマさん あばよ ヤマさん あばよ しんしんとした部屋 一日の夢を見る 溺れていた仔猫 捨てられていた仔犬 とめどもない涙 助けられるだろうか 明日は 何も言わなくていいよ 嘘つかず生きた人なんて 君ぐらいだろう もう時間だ さようなら ヤマさん あばよ ヤマさん あばよ ヤマさん あばよ ヤマさん あばよ |
神経症 I LOVE YOU人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | 人間椅子 | 不眠症の街に 帽子が飛べば 愛を確かめたいと 受話器が叫ぶ かかかかか勝手な女は ななななな泣きじゃくるばかり 拒食症の君は ベッドの上で 黴の生えた詩集を 眺めて暮らす ままままま待ってくれ僕は だだだだだダダイストなんかじゃない だけどBaby トラウマの夢は やせた胸も つがいの鯨にするというね 神経症 I Love You 壊れたリビドー 神経症 I Need You 倒錯の恋 ててててて手首の傷は ぼぼぼぼぼ僕のせいなんかじゃない だけどBaby パラノイアの朝は 星の王子が 黒犬またがりやって来るよ 神経症 I Love You 壊れたリビドー 神経症 I Need You 倒錯の恋 |
リジイア人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | 人間椅子 | 地上に花咲いた 何より美しい 溢(こぼ)れる微笑みは 天使の調べ 夜空に瞬いた 星より懐かしい 夢から訪れた 光の子供 リジイア リジイア リジイア すべてを 持ち得る人よ 悲しみ 苦しみ 優しさ そして喜び 水面(みなも)に描かれた 月より麗しい 気高い眼差しの 永遠の恋人 リジイア リジイア リジイア すべてを 持ち得る人よ 悲しみ 苦しみ 優しさ そして喜び 誰のものでもない あなたはあなたの 生命を生きるのだから 誰のものでもない あなたはあなたの 心を生きるのだから |
浪漫派宣言人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 夜が 更ける 木立が ざわめく 闇が 咽(むせ)ぶ 栄光を 偲んで 古代ギリシャにローマの哲人 徳のあった時代 朝が 嘆く 乾燥の 大地を ソクラテスのように プラトンのように 真実を語るのだ ともに ルネッサンスを始めよう 思い出すんだ 気高いものを 心の奥から 見つけ出すんだ 貴いものを 世界の果てから ロマンティックに行こうぜ 愛が ぞめく 後ろ髪 引くよに 恋が 歌う 安穏の さえずり サムライだったら肚をくくって 振り返りはしない 森が 囃す 若武者の 門出を 剣豪のように 豪傑のように 勇気試すのだ 行かば ヒロイズムが待ってる 思い出すんだ 気高いものを 心の奥から 見つけ出すんだ 貴いものを 世界の果てから ロマンティックに行こうぜ ベートーヴェンのように ワーグナーのように 感動抱くのだ もはや ペシミズムも ニヒリズムも メランコリーも終わった 思い出すんだ 気高いものを 心の奥から 見つけ出すんだ 貴いものを 世界の果てから ロマンティックに行こうぜ 思い出すんだ 気高いものを 見つけ出すんだ 貴いものを ロマンティックに行くのさ |
悪徳の栄え人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | 人間椅子 | 悪の華など おひとついかが どぎつい色の 食虫花です 婦女子も惑う 爛れた匂い 働くなかれ 青年ならば 退屈こそを 愛しなさい 頽廃だけを 目指しなさい ほらほら広がる みるみる広がる 果てなく広がる きりなく広がる 悪徳の栄え 毒の水など いっぱいいかが 天上色の アブサントです 絵描き好みの 鼻つく薫り 足は千鳥に 心は千代に 正直者を 蔑みなさい のらくら者に 憧れなさい ほらほら広がる みるみる広がる 果てなく広がる きりなく広がる 悪徳の栄え 欲望の森を抜けて どうぞ 禁断の果実園へ 享楽の夜を越えて どうぞ 背徳の御神殿へ ふしだらな歌を歌い どうぞ 自堕落な舞踏会へ 冒涜の言葉吐いて どうぞ 悪徳の感謝祭へ 道徳などは 厭いなさい 道楽ならば 励みなさい ほらほら広がる みるみる広がる 果てなく広がる きりなく広がる 悪徳の栄え 悪徳が忍び寄る 悪徳が迫り来る 悪徳が爪を磨ぐ 悪徳がほくそ笑む |
マダム・エドワルダ人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 飾り窓から 涅槃が見える 虚無と脂粉の 曼陀羅絵巻 ベッドを脱けて 扉を開けて 車に乗って 夜露を抱いて 下着になって 淫らになって 突っ疾れ 絶望を おぉ マダム・エドワルダ おぉ か弱き人よ おぉ マダム・エドワルダ おぉ か細き腕に 愛を抱け 月の砂漠に 後光が灯る 聖と俗との 金襴緞子 コートを脱いで 帽子を取って ワインを開けて 愛撫に酔って 裸になって 子供になって 駆け抜けろ 喧騒を おぉ マダム・エドワルダ おぉ 寂しき人よ おぉ マダム・エドワルダ おぉ 乱れた髪で 夢に落ちろ 空を行く雲は 好きに変わるのよ 蝶になり 花になり 雨になり 風になり 空を飛ぶ鳥は 好きに行けるのよ 海を越え 山を越え 夜を越え 時を越え ルージュを引いて 睫毛を巻いて 鏡に立って ポーズを取って 綺麗になって 女神になって 飛んで行け 暗闇を おぉ マダム・エドワルダ おぉ 悲しき人よ おぉ マダム・エドワルダ おぉ 可憐な指に 明日を掴め |
屋根裏の散歩者人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | 人間椅子 | 生きてるふりに 疲れた男 死ぬことそれも いっそう怖い 退屈だけが 人生だよと 屋根裏部屋に 帷(とばり)を下ろす 愛する資格も 愛される素質も 恋する勇気も 厭(いと)われる覚悟も 何にも持たない 異邦人 夜の街を ただ流離(さすら)い 夢の中を ただ彷徨(さまよ)う たったひとり ひとり 生き抜くことを 恐れる男 猟奇な趣味で 書棚は埋まり 倦怠だけが 膨らむままに 小さな部屋の 扉を開ける 笑みする情緒も 涙する心も 捧げる矜持も 報われる才気も 一つも持てない ろくでなし 夜の街を ただ流離(さすら)い 夢の中を ただ彷徨(さまよ)う たったひとり ひとり 木枯らしに 肩すぼめ 口笛吹く 後ろ姿 足跡も 残さずに 夜の闇に 消えて行くよ 生き行くことを 忘れた男 路傍の草を むしってばかり 世界への狂気と 自然への呪いと 社会への嫌悪と 善意への皮肉と それしか持てない 局外者 夜の街を ただ流離(さすら)い 夢の中を ただ彷徨(さまよ)う たったひとり ひとり |
グスコーブドリ人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | 人間椅子 | イーハトーヴが 彼の故郷 はるか遠くの ちっちゃな星座 光を越えて 輪廻を抜けて 人の形で 地上に降りた さようここは地球 オーイオーイオーイ ブドリは泣いた オーイオーイオーイ 貧しい人に オーイオーイオーイ ブドリは泣いた オーイオーイオーイ 惨めな人に イーハトーヴは 思念の世界 三次元では 辿り着けない みんなが一人 一人がみんな 言葉の前に すべてが分かる そしてここは地球 オーイオーイオーイ ブドリは泣いた オーイオーイオーイ 貧しい人に オーイオーイオーイ ブドリは泣いた オーイオー さてもここは地球 オーイオーイオーイ ブドリは泣いた オーイオーイオーイ 貧しい人に オーイオーイオーイ ブドリは泣いた オーイオー オーイオーイオーイ ブドリは泣いた |
愚者の楽園人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 何も持たないことって きっと素敵なことさ 家や車や財産 たぶん愛もそうだろう 金の亡者たちなら ここにうじゃうじゃいるぜ いつも損しちゃないかと 人を呪ってばかり 持てば持った分だけ カルマだけが増える そうさ 騙し合い 憎み合い まるで地獄じゃないか 愚者の楽園は きっと来る 貧者の花園は やがて来る ハレルヤ すべて捨てちまえれば もっと楽しいはずさ 夢を見ている赤子 眠る老人のように 針の目処をらくだが 通り抜けるっていうぜ 欲に眩んでいたら それも見えないだろが 欲しい欲しいでくたばり 輪廻一つ増える そうさ 逃げられず どこも行けず まるで奴隷じゃないか 愚者の楽園は きっと来る 貧者の花園は やがて来る ハレルヤ 心だけが知っている 心だけが覚えている 永遠へと至る道 苦しみのない 日の沈まない ニルヴァーナ 愚者の楽園は きっと来る 貧者の花園は やがて来る ハレルヤ ハレルヤ |
春の匂いは涅槃の薫り人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 春雷が僕を呼ぶよ 冬が過ぎ春は来やる 明け方に凍えるよに 苦しみは朝の徴(しるし) 春雨が舞を舞うよ 大空の広い舞台 野や山を祝福して 僕たちは生まれ変わる 晴れ上がった宙を飛ぶ のどやかなひばり 涙さえ誘うよな 懐かしい匂い 春の匂いは涅槃の薫り 夢の続きを運んで来るよ 愛の便りを届けに来るよ 嗚呼 春風が唄歌うよ どこまでも希望乗せて 山彦もうっとりして 口ずさむ永遠のハーモニー 澄み渡った空よぎる 流れ星ひとつ 時間さえ止まるよな かぐわしい薫り 春の匂いは涅槃の薫り 夢の続きを運んで来るよ 愛の便りを届けに来るよ 嗚呼 幽か 幽か 幽かに りゅうりゅう りゅうりゅうりゅうりゅう 春の声 刹那は 永遠 そっと 静か 静か 静かに りゅうりゅう りゅうりゅうりゅうりゅう 春の声 春の唄 春の匂いは涅槃の薫り 夢の続きを運んで来るよ 愛の便りを届けに来るよ 嗚呼 春の匂いは涅槃の薫り 夢の続きを運んで来るよ 愛の便りを届けに来るよ 嗚呼 |
今昔聖人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 今は昔の荒れ野で 聖は泣いている 聴く人もない祈りを ひたすら誦(よ)んでいる 暗闇で眠り続ける皆様方よ 光明を怖がらないで目を開くのじゃ 進め 進め 雄牛のように進め 進め 進め 血反吐はいても進め 闇の向こうで神は待つ 無明の風が吹く度 聖はやって来る 誰でも行ける菩提を ひねもす説いている 苦しみを見ないふりする皆々様よ 安らぎは試練からしか学べないのじゃ 笑え 笑え 雄獅子のように笑え 笑え 笑え 打たれようとも笑え どこに行こうと神はいる 暗夜の果てから 朝日が昇る 荒野をあまねく 仏が照らす 運命に任せたままの皆様たちよ 幸福は誰も運んで来はしないのじゃ 走れ 走れ 駿馬(しゅんめ)のように走れ 走れ 走れ 道がなくとも走れ 神も仏も胸のうち 進め 進め 進め 進め |
超自然現象人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 悪の権化が地球を狙っているよ はるか昔の預言も叫んでいるよ 逃げないで 捨てないで 歓びを 神様を 信じれば あなたにも 来る 来る ミラクルパワー 偽の神話が世界を覆っているよ やせた羊が泥水すすっているよ 泣かないで 言わないで 諦めを 神様に 祈るなら みんなにも 来る 来る ミラクルパワー 闇の呪いが地上に掛かっているよ 口づけしても誰もが眠っているよ はかないで つかないで ため息を 神様に 願うなら すぐにでも 来る 来る ミラクルパワー |
あなたの知らない世界人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | 人間椅子 | 世界を闇が 包むとしたら 始まりの前の 終わりのしるし 戦のラッパが響くとて 希望の灯火(ともしび)絶やすまじ 数多の災い起こるとも 誇りを忘るることなかれ 自分に 帰れ 心に 戻れ あなたの知らない世界へ 光に輝く世界へ あなたの知らない地平へ 光に輝く地平へ 世界を罪が 覆うとしたら 病の癒える 仄(ほの)かな兆し 悪事のきりなく続くとて 許しの気構えなくすまじ 偽善の仮面の割るるとも 屍鞭打つことなかれ 胸襟(きょうきん)開けろ 心を 開け あなたの知らない世界へ 光に輝く世界へ あなたの知らない地平へ 光に輝く地平へ 古い書物の伝える 約束された王国 心描いた思念が すぐに形で現わる 地上に 花咲く 天国 広い宇宙を旅する 恒星たちの計画 病める人貧しい人 もはや影すら見えない 彼方に 仄めく 天国 世界の時が 止まるとしたら 次元の扉 開いた知らせ 火輪の巨大になったとて この世の終わりと嘆くまじ ラジオの電波の黙すとも 略奪凌辱するなかれ カルマが 返る 報いが 戻る あなたの知らない世界へ 光に輝く世界へ あなたの知らない地平へ 光に輝く地平へ 虚言の嵐が吹こうとも ゆめゆめ流さることなかれ 自分に 帰れ 豪奢な蓄え消ゆるとも みだりに命を捨つなかれ 心に 戻れ |
黒百合日記人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 真っ暗闇に座り 日記を付けています 真っ逆様に落ちた 狂おしい恋の罠 たった独りで僕は 愛の嵐に呑まれ 待っても来ない日々に あなたを恨みました 花びら千切って 祈るのが恋 押し花こさえて 託すのが夢 黒百合の花言葉 恋しゅうて 呪います 黒百合の日記帳 苦しゅうて 綴ります 享楽だけの恋は どなたにもございます そんな火遊びをして 人は老いるのでしょう どんな慰みよりも 真心を欲すのは きっと空【うつ】けなのだと 己れを呪いました 星屑数えて 願うのが恋 星座を描いて 宿すのが夢 黒百合の花言葉 恋しゅうて 呪います 黒百合の日記帳 苦しゅうて 綴ります 一輪の花こそ美しい 一片【ひとひら】の夢こそ美しい 永遠の愛こそ美しい 明日を思って 記すのが恋 涙を零【こぼ】して 刻むのが夢 黒百合の花言葉 恋しゅうて 呪います 黒百合の日記帳 苦しゅうて 綴ります |
異端者の悲しみ人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 流離いの魂が 街中に溢れている 諦めの家路就き 今日の日を嘆いている 僕は誰だ がんじがらめ 我が身体入れられて ここは何処(どこ)だ 誰も彼も 恨み辛み罵って 本当の世界は何処(いずこ) 懐かしい世界は何処 かつていた世界は何処 異端者の悲しみよ 慟哭の歌声が 星空に掛かっている 困窮を抱き抱え 絶望に悶えている 僕は誰だ 我見我執 朝な夕な縛られて ここは何処だ 右往左往 明日の糧に迫られて 本当の世界は何処(いずこ) 懐かしい世界は何処 かつていた世界は何処 異端者の悲しみよ ああ 永遠に揺らぐ ああ 光の海 ああ 遠く越えて ああ 僕はやって来た ああ 何もかもが ああ たった一つ ああ 君と僕の ああ 麗しい故郷 暗闇にうずくまり 悔恨に打ち震え 彷徨える精神が 夏の夜に凍えている 屈託の影を踏み 獣道歩いている 僕は誰だ ひとりぼっち 骨と皮を背負込(しょいこ)んで ここは何処だ 輪廻カルマ 悲鳴怒号木霊して 本当の世界は何処(いずこ) 懐かしい世界は何処 かつていた世界は何処 異端者の悲しみよ 泣くがいい 異端者よ 叫ぶがいい 異端者よ |
結婚狂想曲人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | 人間椅子 | 神様を見かけたなら これだけは聞いたがいい つきまして私のダーリンはどこに 神様に会いたいなら 神殿に行くがいいが さしあたりそこにもいるかどうか 天にまします我らが父よ 新郎とご新婦の 馴れ初めいうにはまだまだ早い 花婿と花嫁の 永遠の愛はなかなか遠い 神様がいるかなんて 哲学も知っちゃいない とりあえず私のダーリンはどこに 神様がいるとしたら 先様の心の中 ありがたく私はダーリンと呼ぼう 地にもまします我らが父よ |
迷信人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | 人間椅子 | あなたは何を信じる 悪魔かそれとも神か 老獪な司祭は今日も 黴臭い呪(まじな)いをする 明日が無数のイメージならば 昨日はこぼれ落つ砂粒だろう おお 旧い世が終わる おお 新しい夜が明ける あなたは誰を信じる 学者かそれとも友か ビッグバンに進化論でも 苦悩の答えは出ない 未来が無限の可能性なら 過去は彷徨える亡霊だろう おお 旧い世が終わる おお 新しい夜が明ける 迷信 それは怖れ 迷信 それは病 迷信 それは墓場 迷信 それは闇夜 こっちの水は甘いぞ 同じ明日にしてやるぞ 迷信 それは怖れ 迷信 それは病 迷信 それは墓場 迷信 それは闇夜 こっちの水は甘いぞ 眠ったままにしてやるぞ 迷信 それは怖れ 迷信 それは病 迷信 それは墓場 迷信 それは闇夜 時代がその度の選択肢なら 世界はありったけ作れるだろう おお 旧い世が終わる おお 暗い灯が消える おお 旧い世が終わる おお 新しい夜が明ける |
新調きゅらきゅきゅ節人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 男子たるもの 生まれたからにゃ (きゅっきゅきゅーきゅっきゅきゅー) きっと本懐 遂げなきゃならぬ (きゅっきゅきゅーきゅっきゅきゅー) たんと苦労の 荊【いばら】の道じゃ (きゅっきゅきゅーきゅっきゅきゅー) ぶんがちゃっちゃぶんがちゃっちゃ ぶんがちゃっちゃぶんがちゃっちゃ ぶんがちゃっちゃぶんがちゃっちゃ 大人【たいじん】たるもの 短気は損気 (きゅっきゅきゅーきゅっきゅきゅー) でんと構えて 心で泣いて (きゅっきゅきゅーきゅっきゅきゅー) うんと笑えば 明日も晴れる (きゅっきゅきゅーきゅっきゅきゅー) ぶんがちゃっちゃぶんがちゃっちゃ ぶんがちゃっちゃぶんがちゃっちゃ ぶんがちゃっちゃぶんがちゃっちゃ 恋路たるもの 長居は無用 (きゅっきゅきゅーきゅっきゅきゅー) ちょいと押したら 今度は引いて (きゅっきゅきゅーきゅっきゅきゅー) ぱっと散っても 花なら咲くよ (きゅっきゅきゅーきゅっきゅきゅー) ぶんがちゃっちゃぶんがちゃっちゃ ぶんがちゃっちゃぶんがちゃっちゃ ぶんがちゃっちゃぶんがちゃっちゃ |
十三世紀の花嫁人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | ルルル 心に灯【ともしび】を ルルル 面に微笑みを ああ なぜに 人は 迷う ルルル 心に灯【ともしび】を ルルル 面に微笑みを ああ なぜに 人は 迷う 百万遍の 悔恨の涙 慟哭【どうこく】の果て 清浄の地平 誰もが無明で 誰もが光明 千万遍の 妄執の焔【ほむら】 恩讐の果て 寂滅の世界 全てが自由で 全てが豊饒【ほうじょう】 心に灯 面に微笑み 心に灯 面に微笑み |
桜爛漫人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 花咲く卯月【うづき】は 誰の気持ちもそぞろ 恋の予感に柳が揺れる 過ぎ行く季節を 惜しみほころぶ桜 もののあはれと袂が濡れる 時間は徒らだと 思いに耽る人よ 刹那に歓びを 感じ取ってくれ 悲しみは 何ではかればいいんだろ 幸せは 誰がはこんでくるんだろ はらはら散りぬる桜爛漫 星降る皐月【さつき】は 夢見心地におぼろ 凪いだ水面に羽虫がそよぐ 行き来る月日を 妙に彩る木立 野辺の千鳥もをかしと歌う 世間は偽りだと 煩い悩む人よ 心に美しさを 抱いていてくれ 悲しみは 何ではかればいいんだろ 幸せは 誰がはこんでくるんだろ はらはら散りぬる桜爛漫 今宵お花見するわいな 花としっぽりするわいな 今宵お月見するわいな 月とかっぽれするわいな 風吹く弥生は 街もしとどにおどろ 忍ぶ逢瀬が霞に煙る 立ち去る気配を そっと匂わす褥【しとね】 夢は幽玄辿れば消える この世は幻だと 悲嘆に暮れる人よ 生命【いのち】の永遠を 思い出してくれ 悲しみは 何ではかればいいんだろ 幸せは 誰がはこんでくるんだろ はらはら散りぬる桜爛漫 |
愛のニルヴァーナ人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 僕を愛して 骨まで愛して 熱い吐息で心 溶かすくらい 僕を抱いて 激しく抱いて 飢えた獣が獲物 食らうくらい 朝も 夜も 時間を忘れて 空に 鳥が 羽ばたくみたいに 薔薇を胸に 翼広げ 飛んでゆく 愛のニルヴァーナ 愛のニルヴァーナ 僕を愛して 死ぬまで愛して 果てぬ愛撫で体 焼けるくらい 僕を抱いて 優しく抱いて 胸で安らぐ赤子 あやすくらい 服も シャツも すべてを脱ぎ捨て 花に 蝶が 戯るみたいに 永遠を誓い 両手広げ 戻りゆく 愛のニルヴァーナ 愛のニルヴァーナ エロスはタナトス タナトスはエロス 僕を愛して 死ぬほど愛して 強いキッスで呼吸 止まるくらい 僕を抱いて 淫らに抱いて 夜の娼婦が手管 尽くすくらい 知恵も 見栄も 体裁投げ捨て 海に 川が 流れるみたいに 夢に溺れ 手と手つなぎ 落ちてゆく 愛のニルヴァーナ 愛のニルヴァーナ |
悪魔と接吻人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 真っ黒な薔薇で 俺を打(ぶ)ってくれ 滴る血潮で 息もつけぬほど 不埒な言葉を 傷に塗りたくり 昨日の俺とは 他人にしてくれ 夢から醒めない 明日が見えない 悪魔と接吻 アブサンの酔いで 俺を抱いてくれ 堕落の匂いで 目も眩むほどに 極彩色した 酒場で与太って いつもの俺など 消えたっていいさ 夢から醒めない 出口が見えない 悪魔と接吻 どしゃぶりの雨で 俺を泣いてくれ どぶ泥の水で 溺れちまうほど 鉤爪を磨いで 鎌首もたげて どこかの誰とも 知れなくしてくれ 夢から醒めない 明日は知れない 悪魔と接吻 |
雪女人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 地吹雪の舞い散る夜道 流離いの旅人一人 白銀の迷宮呑まれ 一時の庵を叩く 寒気が 冷気が 怖気が 孤独が 不安が 恐怖が 魂の叫びに呼ばれ 音もなく扉が開く 雪のように冷たい心 冬のように閉ざした心 誰も溶かせはしない 雪女 しんしんと降り積む雪が 人は皆一人と語る かじかんだ手先でなぞる 過ぎ去った恋路の記憶 睦言 接吻 抱擁 苦悩が 悔悟が 懺悔が 凍てついた微笑と吐息 ゆっくりと囲炉裏が消える 雪のように冷たい心 冬のように閉ざした心 誰も溶かせはしない 雪女 白い 白い 雪が 積もる 寒い 寒い 夜が 更ける こんこんと止まない雪は 煩悩も氷らすだろう とめどない火宅の人に 安らぎを持たらす女 吹雪が 嵐が 雪崩が 青春 情熱 失望 恐ろしい美貌の顔で 声立てず唇奪う 雪のように冷たい心 冬のように閉ざした心 誰も溶かせはしない 雪女 |
塔の中の男人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 風が吹きつける 荒れ果てた古城 鉄柵の窓に 人影が揺らぐ 旅人が告げる 彼は詩人だった 神と闘って ここにいるのだと 塔の中の男 忘られし人よ 塔の中の男 早過ぎた人よ 光の子どもよ 春の訪(おとな)いも 立ち止まるところ 薄明の霧が 重く垂れ込める 牧人は語る 彼は偉大だった 神に敗れ去り ここに来たのだと 塔の中の男 忘られし人よ 塔の中の男 早過ぎた人よ 無垢なる童(わらべ)よ 鉄の窓 開け放ち 憧憬の涙をこぼす 愛に満ちた 楽園の遠い記憶 むく鳥は歌う 青空 飛び魚は駆ける 海原 しゃくなげは眠る そよ風 カモシカは踊る 山かげ 夢に微睡(まどろ)んでいる 愛を育んでいる ユートピア 乳呑み子は微笑む 太陽 少年は学ぶ 月光 英雄は挑む 雷鳴 手弱女(たおやめ)は額ずく 流星 夢に微睡(まどろ)んでいる 愛を育んでいる ユートピア 時の移ろいに 見捨てられた城 ひび割れた窓に 蝋燭が灯る 人は聞くだろう 彼は誰なのか 神も祈らずに ここにいるのかと 塔の中の男 忘られし人よ 塔の中の男 早過ぎた人よ 至誠の僕(しもべ)よ 光の子どもよ 愁いを抱きしめて 世界を待っている 慈愛を抱きしめて 世界を讃えている 今も |
胡蝶蘭人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 朝靄(あさもや)と語り 夕立と歌う 健やかにただ咲いた 愛しい花よ 静けさを愛し 偽りは知らず 喜びにただ満ちる つましい花よ たなびく白い雲は あなたの腕(かいな) そよ吹く東風は あなたの調べ すべてがあなた ああ わたしの形が亡びようと ああ あなたの心は咲きつづく 永遠(とわ)に 木洩れ日とはしゃぎ 陽炎(かげろう)と睦む 麗(うら)らかにただ開く 優しい花よ 微笑みを抱いて 疑いは持たず 清らかにただ眠る さかしい花よ 流れる空の星は あなたの涙 たゆたう揚羽蝶は あなたの夢見 すべてがあなた ああ わたしの形が亡びようと ああ あなたの心は咲きつづく 永遠に はためく青い木々は あなたの明日 羽ばたく巣立ち鳥は あなたの希望 生きとし生けるものは あなたの言葉 すべてがあなた ああ わたしの形が亡びようと ああ あなたの心は咲きつづく ああ わたしの体が消え去ろうと ああ あなたの言葉は生きつづく 永遠に 胡蝶蘭 |
黒猫人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 暗い 暗い恩讐(おんしゅう)の道の果て じっと 虚空見つめる双つの眼 黒い 黒い頁は開かれて 闇に さかしまの詩(うた) 木霊(こだま)する 影へ肢体(からだ)をすり寄せて 追いて来るのかどこまでも───黒猫! 深い 深い忘却のドロ沼に 重く 憂鬱の滓(おり)は淀みゆき 長い 長い悔恨の時経(ふ)れば 夜は 悪夢の濁醪(どぶろく) 醸(かも)すとか 嘘の膠(にかわ)で貼り付いた 笑い仮面の虚しさよ 罪の血糊の味しめて 咽(むせ)び泣くのかいつまでも───黒猫! 旋毛(つむじ)曲がりの稲妻が 脳天目掛け轟かば 笑い仮面の真っ二つ 呪詛の血が沸き肉踊る 修羅の剣山生けるのは 忘れじの君鬼薊(おにあざみ) 四五九町歩(じごくちょうぶ)の土塀には 処女の簪(かんざし)眠るとか 春の弥生の空に 気の触れ桜がひらひら 春のうららの風に 涅槃の薫(かお)りがそよそよ 老女の乳を啄(ついば)みし 赤子を真似た獄卒が 猫足立ちに囁ける 不協和音の数え唄 ひとつ人には悪業を ふたつ不幸は愛(め)でるもの みっつ淫らは美徳なり よっつ世迷(よま)いの言葉吐け 春の弥生の空に 気の触れ桜がひらひら 春のうららの風に 涅槃の薫(かお)りがそよそよ 暗く 暗く魂の紡ぎ出す 果てぬ 無為と頽廃の万華鏡 黒く 黒く逆毛立つ獣よ 何処か 懐かしく響く汝の名───黒猫! |
幽霊列車人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 汽車は走る 霧の町を 浮世の山の トンネル抜けて ほろほろ鳥が 汽笛を鳴らす 悲しさの意味 教えてくれる町へ 汽車は走る 黄泉の国へ 三途の川の 懸け橋越えて 河原の鬼が 切符をもぎる 愛を失くした 人の眠れる国へ 幽霊列車がもうすぐ 誰そ彼の駅に着くから 懐かしの人を尋ねに行(ゆ)こうよ 幽霊列車がもうじき 彼は誰の駅を発つから 忘れじの人を捜しに行こうよ 汽車は走る 夢の中を いっぱい貨車に 思い出詰めて 宵待ち草が 発車を告げる 過去と未来の 葛(つづら)折りなす場所へ 幽霊列車がもうすぐ 誰そ彼の駅に着くから 懐かしの人を尋ねに行(ゆ)こうよ 幽霊列車がもうじき 彼は誰の駅を発つから 忘れじの人を捜しに行こうよ |
赤と黒ナカジマノブ(人間椅子) | ナカジマノブ(人間椅子) | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 幾億千もの 神々の睦言(むつごと) 雷鳴と潮(うしお)が 永えの愛を語る 僕という形は たまゆらの蜉蝣(かげろう) 君という奇跡は 八月の燃える太陽 真紅の薔薇(ばら)は 情熱の花 湧き上がる生きる喜び それよりも芳(かぐわ)しい なによりも麗しい あなたの笑顔 涙 心 赤と黒が 混じるように 君と僕が 一つになる 赤と黒が 溶けるように 君と僕が 一つになる 永遠の君 孤独の鎧(よろい)と 憂鬱の兜(かぶと) 手負いの戦士は 純潔の胸で眠る 僕という事象は 自然のみなしご 君という天使が 揺籠(ゆりかご)に星を吊るす 漆黒の海は 沈黙の色 謎めいて時と微睡(まどろ)む それよりも厳かな なによりもたおやかな あなたの瞳 吐息 仕草 赤と黒が 混じるように 君と僕が 一つになる 赤と黒が 溶けるように 君と僕が 一つになる 永遠の君 愛のない風景は きっと灰色 愛こそが彩る 清く 深く 赤と黒が 混じるように 君と僕が 一つになる 赤と黒が 溶けるように 君と僕が 一つになる 永遠の君 君の笑顔 涙 心 すべて 君の瞳 吐息 仕草 すべて 永遠の君 |
相剋の家人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 慚愧の数だけ涙を零せば 呵責の鎖が切れるというのか 刹那の庵を股旅歩けば 菩提の地平が見えるというのか 青春とは不仕合わせの驕り 諦念とは高利貸しの夜逃げ 楡の花が咲いたよ 中絶の夜 絶食の月 童貞の道 相剋の家 自涜の汚泥にその日を窶せば 憤怒の仮面が笑うというのか 懶惰の墓標に誰かを刻めば 紅蓮の車輪が止まるというのか 情熱とはチンドン屋の悟り 追憶とは破傷風の家出 茱萸の実ひとつ弾けた 獄中の友 中傷の秋 月経の春 相剋の家 あぁ 淡い光 茜のさす森の中 あぁ 貴方の声 我が懐かしの埴生の宿 あぁ 甘い記憶 寄せては返す夢の中 あぁ 数多の恋 我忘れじの慟哭の歌 相剋の家 帰りたい帰りたくない 帰ろかな帰るのよそうかな お前は逃げてるお前は逃げてる お前は逃げてるお前は逃げてる |
どっとはらい人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | 人間椅子 | 空は青いな書き割りの 夕べに蛙の雨が降る 破れかぶれの地平線 結膜炎が覗き込む 捻子(ねじ)の壊れた時計台 虚無を刻んでチイパッパ 瘧(おこり)の狛犬ひり出した でんでん太鼓蓄音機 墓掘り人夫の餞別は 屠(ほふ)る吾(あ)が子の三杯酢 君麗しの死刑台 滴る血潮高砂や 狐の嫁入り通り魔の 錆びた刃が香ばしい どっとはらい どっとはらい 正気の沙汰はおしまい どっとはらい どっとはらい 狂気の沙汰の始まり 端午の節句の沖合で バタフライなぞするピアノ 溺れてみたのはいつの日か あれは去年の謝肉祭 楡(にれ)の木陰で処女が泣く 恨みざらまし番頭さん 黄昏偲ぶ一輪車 きりもみしては交尾する 鹿鳴館の天辺で 酌婦のアジる阿呆陀羅経 猫の尿(いばり)の檜風呂 浮かぶスメグマ有り難や 上の姉様身を投げし セーヌの畔(ほとり)に小判湧く どっとはらい どっとはらい 正気の沙汰はおしまい どっとはらい どっとはらい 狂気の沙汰の始まり 曇天つんざく朱印船 沈む夕陽の浅ましさ 朧月夜は生き別れ きのこ雲だよおっかさん 巡る因果の平方根 唐竹割りのかぐや姫 おぼこ娘もお歯黒の 髷の島田が恐ろしい どっとはらい どっとはらい 正気の沙汰はおしまい どっとはらい どっとはらい 狂気の沙汰の始まり どっとはらい どっとはらい 正気の沙汰はおしまい どっとはらい どっとはらい 狂気の沙汰の始まり どっとはらい |
愛の法則人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 黄昏の街に佇んだ 自然と涙が溢れ出た 今日という日には もう再び出遭えない 行き交う人の微笑みは 寂しさをたたえ美しい 家路の先には 愛も孤独もあるだろう 恋に 恋に 恋に落ちたら 泣き濡れる 世界が 泣き濡れる いっそ恋など知らねば 悲しくないものを 初恋の色は淡きもの 重ねる毎(ごと)に深きもの やがては緋色の 熱き血潮がほとばしる 恋人たちの語らいは 色褪せもせずに新しい 嬰児(みどりご)のように 身も心も捧ぐから 一目 一目 一目会いたくて 彷徨う 夜風と 彷徨う いっそあなたを知らねば 切なくないものを 実らぬものが恋なのか 実らないから恋なのか 嵐が 吹き荒れる 心に 吹き荒れる いっそひとりのままなら 苦しくないものを 愛の嵐が 吹き荒れる 愛の嵐が 吹き荒ぶ 愛の炎が 燃え上がる 愛の炎が 燃え盛る 恋に 恋に 恋に落ちたら |
此岸御詠歌人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 果たしてここはどこなのか 果たしてそこはどこなのか どこでもあり どこでもない ここにもあり そこにもある あぁ あぁ あぁ あぁ あぁ あぁ あぁ あぁ あぁ あぁ あぁ あぁ Om |
命売ります人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 命の歌を聴かせておくれ 哀れな俺の鎮魂歌(レクイエム) 仮面を被り茶番を演じ 明日をも知れぬ世捨て人 世界に愛が満ちてるならば オイラを助けて 何故(なにゆえ)生まれて何故死に逝く 何故愛して何故争う 「命売ります」 バラババンバ バラババンバ バラババンバ バラババンバ バラババンバ バラババンバ 命の意味を教えておくれ 惨めな俺の弔いに 霞を喰らい死骸を抱いて 白けた顔の異邦人 この世に夢がまだあるならば オイラを救って 何故(なにゆえ)生まれて何故死に逝く 何故愛して何故争う 「命売ります」 バラババンバ バラババンバ バラババンバ バラババンバ バラババンバ バラババンバ 命の重さは 羽根より軽いか 山より重いか 命の灯りは 夜より暗いか 火より明るいか 天使の声で歌っておくれ 愚かな俺の餞(はなむけ)に 虚言を吐いて恰好をつけて 無頼の果ての放浪者(バガボンド) 地上を神が創ったならば オイラを諭して 何故生まれて何故死に逝く 何故愛して何故争う 「命売ります」 |
杜子春人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | お父さん 黄泉路の国でお達者でしょうか お母さん その後お体変わらずいますか 杜子春は辛いのです この世が暗いのです すべてがあべこべです 嘘が真(まこと) 真が嘘 杜子春 杜子春 杜子春 呼ばう心の声が 杜子春 杜子春 杜子春 諭す心の声が 道は己で選べと お父さん 常世の国は住みよいでしょうか お母さん 季節折々ご自愛ください 杜子春は怖いのです 病が止まぬのです 災いが消えぬのです 生きるも地獄 死ぬるも地獄 杜子春 杜子春 杜子春 呼ばう心の声が 杜子春 杜子春 杜子春 諭す心の声が 道は己で進めと 空を舞う 鳥たちの 健やかさ 野を駆ける 獣らの 朗らかさ なぜに 我々は迷うのでしょう お父さん いずれそちらに伺いますので お母さん お顔拝めずお許しください 杜子春は寒いのです 世界が冬なのです 争いが絶えぬのです 顔は菩薩 腹は阿修羅 杜子春 杜子春 杜子春 呼ばう心の声が 杜子春 杜子春 杜子春 諭す心の声が 道は己で掴(つか)めと |
無限の住人 武闘編人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 懊(おう) 懊 懊 懊 懊 懊 懊 懊 斬(ざん)ッ 金坐金坐金坐斬(ざざざん)ッ 蛮(ばん)ッ 罵罵蛮(ばばばん)ッ 斬って斬って斬っても 刀剣(つるぎ)薙刀 断(だん)ッ 打打断(だだだん)ッ 岩(がん)ッ 峨峨岩(がががん)ッ 屠って屠って屠っても 刺客剣士剣客 いつまで闘う 己が罪の果つまで どこまで血を見る 人の恨み消ゆまで 愛を抱きしめて 背を震わせて 今日も刃抜く それが 無限の住人 懊(おう) 懊 懊 懊 懊 懊 懊 懊 惨(ざん)ッ 挫挫惨(ざざざん)ッ 挽(ばん)ッ 馬馬挽(ばばばん)ッ 突いて突いて突いても 血潮血反吐血飛沫(ちしぶき) 弾(だん)ッ 陀陀弾(だだだん)ッ 頑(がん)ッ 牙牙頑(がががん)ッ 払って払って払っても 骸(むくろ)髑髏(どくろ)屍(しかばね) いつまで争う 己が業を絶つまで どこまで身を切る 人の無念晴るまで 愛を胸に秘め 肩をそびやかし 明日も刃抜く それが 無限の住人 手足をもがれても 胴体ちぎれても 阿修羅が誘う 戦いの火蓋 鏨(ざん)ッ 嵯嵯鏨(ざざざん)ッ 卍(ばん)ッ 魔魔卍(ばばばん)ッ 刺して刺して刺しても 遺恨怨嗟怨念 壇(だん)ッ 堕堕壇(だだだん)ッ 巌(がん)ッ 瓦瓦巌(がががん)ッ 倒して倒して倒しても 嗚咽悲鳴絶叫 いつまで諍(いさか)う 己が命あるまで どこまで見送る 人に涙あるまで 愛を噛みしめて 時を踏みしめて 月に刃抜く それが 無限の住人 懊(おう) 懊 懊 懊 懊 懊 懊 懊 懊 |
虚無の声人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 地下室を出てみよう 世の中を見てみよう まっさらに 信じられないけど 僕たちの世界は幻 色即是空(しきそくぜくう) 色付きの眼鏡で 逆様に覗いたモザイク 空即是色(くうそくぜしき) 隙間だらけに浮かぶ 空 欠伸しながら寄せる 海 そして気付く 虚無のゆえに 愛おしい 世界が終わる この世が消える 虚空に響く 虚無の声 恋人の腕(かいな)の 温もりは一夜(ひとよ)の浮橋 色不異空(しきふいくう) ありふれた月日が 灰色の景色で遠のく 空不異色(くうふいしき) 砂塵まみれに霞む 街 月の光に滲む 夜 やがて分かる 空(くう)のゆえに 美しい 世界が終わる この世が消える 虚空に響く 虚無の声 色即是空 空即是色 生きるために生きる 僕たちは無常の嬰児(みどりご) 五蘊皆空(ごうんかいくう) 苦しみも涙も 過ぎ行く雨風と托生 諸法空相(しょほうくうそう) すべて 愛おしい 世界が終わる この世が消える 虚空に響く 虚無の声 |
恐怖の大王人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 黙示録の時代 ラッパが鳴り響く 世界のおしまいが 近付いた 眠れる荒神が 時の静寂破り 馬頭星雲から 目を覚ます 宇宙の仕組みに 逆らうものども 神代の時代に 還してやるのぞ 生命の意味を悟るのじゃ 心の奥を覗くのじゃ 生命に明かり灯すのじゃ 心に光戻すのじゃ 恐怖の大王 永遠に幸あれ 恐怖の大王 永遠に栄えあれ ダニエル エゼキエル ノストラダムスまで 預言された時が やって来た 荒ぶる凶星が 闇の呪縛解き 北斗七星から まろび出す 浮世の栄華に 驕れるものども 原初の地平に 戻してやるのぞ 怒りの杖を下すのじゃ 涙の雨を降らすのじゃ 怒りの慈悲で叩くのじゃ 涙の愛で包むのじゃ 恐怖の大王 永遠に幸あれ 恐怖の大王 永遠に栄えあれ 衆生を救うため この世を正すため 恐怖の大王[おおきみ]は 訪れる 猛々しい貌[かお]で 試練を伴って オリオンの果てから 現れる 自然の理[ことわり] 抗うものども 太古の常世に 直してやるのぞ 地上に楽土造るのじゃ 仏の国を建てるのじゃ 地上に夢を結ぶのじゃ 仏の花を咲かすのじゃ 恐怖の大王 永遠に幸あれ 恐怖の大王 永遠に栄えあれ |
深淵人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 天をつんざき稲妻が降ってくる 眠ったままの魂を醒ますため 光の腕は心臓をわし掴み 容赦などせず滝壺(たきつぼ)へ投げ入れる 落ちてゆく落ちてゆく 戦慄へ 降りてゆく降りてゆく 戦慄へ 落ちてゆく落ちてゆく 深淵へ 降りてゆく降りてゆく 深淵へ 苦悩と名乗る御使いが待っている お前はいつも孤独のみ友とした 悩んだ深さ苦しみの重さだけ 底の知れない断崖を覗けよう 落ちてゆく落ちてゆく 戦慄へ 降りてゆく降りてゆく 戦慄へ 落ちてゆく落ちてゆく 深淵へ 降りてゆく降りてゆく 深淵へ 真っ暗闇を 手探りまさぐり こわごわ進む 曲がりくねり 洞穴(ほらあな)そこらに 木霊が返る なんて静かな世界だ なんて大きな世界だ 岩の壁の あちこちそちこち 偉大な教え 大回廊 果てなく連なる 古代の叡智 なんて美しい景色だ なんて懐かしい景色だ あゝ 私が 生きているのは 喜びのため あゝ 私が 喜びあるのは 苦しさのゆえに あゝ 私が 生きているのは 喜びのため あゝ 私が 喜びあるのは 苦しさのゆえ あゝ 私が 泣いているのは 幸せのため あゝ 私が 幸せにあるのは 苦しみのゆえに 空の青さは生命を愛でている 世界はけして解体をしてはない 喜び咽(むせ)ぶ官能が続くまで 私はさらに苦しみを求めよう 落ちてゆく落ちてゆく 戦慄へ 降りてゆく降りてゆく 戦慄へ 落ちてゆく落ちてゆく 深淵へ 降りてゆく降りてゆく 深淵へ |
阿呆陀羅経人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 炎がメラメラ 心はカラカラ 頭はグラグラ 体はフラフラ 六根清浄(ろっこんしょうじょう)針の山 修羅の道行く一人旅 にっちもさっちもいかない 煩悩 愛とはトキメキ 然してオウノウ 咲いてはシュウネン 散ってはオンネン 五蘊皆空(ごうんかいくう)秋の空 鳩摩(くま)の羅什(らじゅう)も泣いちっち あっちもそっちもこっちも 煩悩 羯諦(ぎゃてい) 羯諦 羯諦 羯諦 羯諦 羯諦 羯諦 羯諦 羯諦 羯諦 羯諦 羯諦 桜がヒラヒラ 命がハラハラ 今宵もツレヅレ 思いはウタカタ 涅槃寂静(ねはんじゃくじょう)除夜の鐘 五百羅漢の笛太鼓 いつまでたっても消えない 煩悩 |
人面瘡人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 吉原もいつしか小夜(さよ)ふけて 戦慄の笛竹むせび泣く 菖蒲(あやめ)太夫に岡惚れ徒(あだ)情け ××〔こつじき〕男(を)の子(こ)の無念の調べかな 不忍の池には身投げせし 男の子の生首笑うとか 魂魄残りて菖蒲の恨めしや 女陰(みほと)の爛(ただ)れてあの世と舌を出す だらだらどろどろ血みどろ人面瘡 だらだらどろどろ血みどろ人面瘡 横浜の波止場はぬばたまの 黒船が闇夜に消え失せる 洋妾(ラシャメン)お駒の首吊る床の間は メリケン憎しと散りぬる女郎花(おみなえし) だらだらどろどろ血みどろ人面瘡 だらだらどろどろ血みどろ人面瘡 愛して 憎んで 恨んだ果てに 呪って 叫んで 狂って生える 七色の人面瘡 闇に咲く人面瘡 口から 鼻から 血膿を吐いて 乳から 臍(へそ)から 笑って生える 七色の人面瘡 闇に咲く人面瘡 七色の人面瘡 闇に咲く人面瘡 |
品川心中人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | 人間椅子 | 飯盛(めしもり)の宿品川の 朝は衣々(きぬぎぬ) 山は富士 ええこちゃエー ええこちゃエー お染太夫の巻き紙の 添います主(ぬし)とあらかしこ 有り難や 有り難や 年季(ねん)が明けたらご新造に 夫婦善哉 デデレコデン 芝の本屋の金蔵は 身上軽けりゃ身も軽い ええこちゃエー ええこちゃエー 沖つ白波見目に皺(しわ) 回る金子(きんす)もお茶を挽く 往生や 往生や 生きて浮き名が立つじゃなし おその六三か ナンマイダ 春の海に小舟がぷかり 人は生まるる時はひとり 手に手 取り合うならばふたり さあ 海へ 海へ 参りまほう 西の空に奴凧(やっこ)がふわり 人は死にゆく時もひとり 目と目 互いに瞑(つぶ)るふたり さあ 海へ 海へ 入りまほう 目出度目出度の白無垢は 死出の旅路の左前 堪忍や 堪忍や 世帯持ちたやあの世でも 蓮の台(うてな)で トテリンシャン |
宇宙からの色人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | 人間椅子 | 悍(おぞ)ましいほどの時空を閲(けみ)し 宇宙の果てから 忌まわしいまでの気配に満ちて 暗愚は訪(おとな)う 輪廻を抜けて 次元を越えて 恐怖を撒き散らす フォトンベルト乗って 地球を搦(から)め取る アセンション嘯(うそぶ)き 堕落を仄(ほの)めかす チャネリング装い 禁忌を 唆(そそのか)す テレパシー囁き 宇宙からの色 黄泉からの色 狂おしいほどの光芒放ち 破壊を嗜(たしな)む 呪わしいまでの冷気を湛(たた)え 血肉を貪る 倫理の外で 狂気の淵で 科学を嘲嗤う ワームホール潜り 希望を打ちのめす ダークマターすす啜り 病を蔓延(はびこ)らす オールトの雲から 死霊を呼び寄せる カイパーベルトから 宇宙からの色 黄泉からの色 形なき 代物 名前なき 化け物 黄泉 闇 黄泉 闇 姿なき 禍(わざわい) 救いなき 存在 黄泉 闇 黄泉 闇 邪悪を解き放つ ホロスコープ廻し 虚空を知ろし食(め)す スペクトル操り 銀河を弄(もてあそ)ぶ タキオンの海から 悪夢を差し招く ゲヘナの彼方から 宇宙からの色 黄泉からの色 宇宙からの色 闇からの色 宇宙からの色 黄泉からの色 |
なまはげ人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | 人間椅子 | 最果ての土地に 粉雪が舞えば 因習の村は 祝祭の季節 伝説の時を 幾年(いくとせ)も越えて 戒めのために 客人(まれびと)は来たる 山より重い 人の罪 海より深い 人の業 なまげものは いねが 泣いでるわらしは いねが ざんばらの髪と わらしべの羽織 赤色(せきしょく)の顔に 憤怒だけが灯る 迷妄で惑う 輩(ともがら)を憂い 発願(ほつがん)の元に 鬼神(おにがみ)となれる 夜より暗い 人の性(さが) 火よりも熱い 人の欲 なまげものは いねが 泣いでるわらしは いねが 厳しさ それが愛じゃ 激しさ それが慈悲じゃ 手心 それが毒じゃ なまげものは いねが 泣いでるわらしは いねが なまげものは いねが 泣いでるわらしは いねが なまげものは いねが 泣いでるわらしは いねが |
天国に結ぶ恋人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | | 君の和毛(にこげ)を壜に詰めて いつか空家の床下に埋めてみたい 君の写真にお香は焚かれ 日がな一日僕はうたた寝をしよう 愛から死への論理によって 恋の幻想は独占される 天国に結び 恋は花開く 天国に結び 恋は花開く 君の乳房のxxxxx して 愛の詩集の表紙を飾ってみたい 靴に満たした月経の血を 指にすくって頁の挿絵をなぞる 染色体の科学によって 肉の時間は凍結される 天国に結び 恋は花開く 天国に結び 恋は花開く 天国に結び 恋は花開く 天国に結び 恋は花開く 天国に結び 恋は花開く 天国に結び 恋は花開く |
無情のスキャット人間椅子 | 人間椅子 | 和嶋慎治 | 和嶋慎治 | 人間椅子 | この世に天使がいるものなら 私の頬にも恵みをくれ 報わることない労苦背負い 日陰に佇むこの私に 天翔る日は来るだろか 陽の目を見る日あるだろか 天使様 シャバダバ‥‥ どこかに女神が潜むのなら 私の額(ぬか)にも微笑をくれ 勝利のワインの味も知らず 恋すら実らぬこの私に 美酒に酔う日は来るだろか 愛を抱く日あるだろか 女神様 シャバダバ‥‥ 空に数多星が光る 誰も彼も星の御許(みもと) 千の願い胸に膨らませ ルルル‥‥ いずこか仏が御座(おは)すのなら 私の元にもお慈悲をくれ めぼしい物など何も持たず 侘びしく 寂しく しくじりばかりのこの私に 満ち足りる日は来るだろか 夢の叶う日あるだろか 仏様 シャバダバ‥‥ 私の命に光を 私の明日に光を すべての命に光を すべての明日に光を |