テレビでニュースを見ているとき、単純に言うと悲しかった

ここからはニューアルバム『来し方行く末』についてお伺いしていきたいと思います。今作はどんなアルバムになりましたか?

高橋:ちょっとインディーズの頃みたいな作品ですね。また剥き出しちゃった、みたいな(笑)。曲を作っている段階ではパッケージ化が想像できないような歌詞ばっかりでしたもん。本当に今年は危機感を抱いていたということが大きくて。“これまで”を大切にした上で、じゃあ“これから”死ぬまで歌っていくなら、自分に何が必要なんだろうということをかなり意識しました。あと、2020年の東京オリンピックに関するニュースとかを見たりして「この世界はどうなっていくの?」という思いもありましたし。そういうことを全部含めて『来し方行く末』ってタイトルが一番しっくりきました。

1曲目の「Mr. Complex Man」から、自分や世間に対して攻撃的な歌詞だったので驚きました。まさに初期の“高橋優”楽曲に近い感じがしますね。何故、この曲をアルバムの入口にしたのでしょうか。

高橋:自己紹介のような曲になったなぁと思って。きっと今回のアルバムから高橋優の音楽を聴いてくださる方も多いと思うんですけど、去年の「明日はきっといい日になる」くらいから、それこそ“ほんわか”したシングルが続いていて、前向きな言葉が並んでいた気がするんです。でもやっぱりそうじゃない僕もいて、表裏一体だから『来し方行く末』では初っ端からどちらの自分も存分に表現したいなと。1曲目をこの曲にすることに迷いがなかったですね。

歌詞には<毎日報じられる 不祥事とスキャンダル 人のフリ見て我がフリ直しもせず>というフレーズが登場します。とくに2016年は、芸能ニュースをはじめいろんなスキャンダルが飛び交っていたじゃないですか。そういうものに対して、優さんご自身はどんな感情を抱いていましたか?

photo_01です。

高橋:ねぇ…。今年で言うと僕は…なんだろうなぁ…「お前バカやったなぁ」で良いことなのになぁというのが一番の気持ちですかね。うーん、人ってそんなに完璧じゃないから。それをみんなでたった一人を指差して、そんなに楽しい?どうなれば満足なの?という目で見ている部分がありました。その人が社会的に機能停止するまで追いやりたいと思っているのだとしたら、すごくスケールのデカイ集団イジメだと思ったりしながら。もちろんやっちゃいけないことをやった人が悪いのかもしれないけど、「格好悪いなぁ」って周りからちょっと叱られたり、ハッパをかけられるくらいでいいじゃんって。あと、それこそ<人のフリみて>じゃないですけど、自分もそういう芸能というところに片足を踏み入れている身として、おっかない世界だなぁとも感じましたね。

この曲にも登場するワードですが“SNS”というものの影響もかなり大きいですよね。

高橋:う〜ん、顔が見えなきゃ何でも言えちゃいますからね。震災とかが起こったときにはすごく便利なツールなのに。前回のアルバムで僕「WC」…トイレっていう曲を書いたんですけど、そこで“人の汚いところが丸見えになる場所”というような表現をしたんです。SNSにはそういう側面もあるし、やっぱりモノは使いようだなって。ただ、今回アルバムに収録した「BEAUTIFUL」という曲で歌おうとしているのは、その指を差している側も、指を差されている側も、出来るだけ“一人の人間として捉えたい”という思いなんですよね。

「BEAUTIFUL」はアルバムのラストに収録されている曲ですね。優さんのファンクラブ名『U are not alone』にも通じる<ただ一人じゃない そう一人じゃない>というフレーズも綴られていますし、このアルバムの全ての登場人物を肯定しているようでもあり、すごくグッときましたし、泣けました。

高橋:ホントですか!嬉しいです。なんか、テレビでニュースを見ているとき、単純に言うと悲しかったんです。芸能人と世間とか、そういう何かで括ったりするのって違うなぁというか。シンガーも、ライターも、レコード会社の人も、事務所の人も、ファンの人も、関係なくて、それぞれがただ“いち人間”として誰かと向き合ったら、簡単に「お前の人生は間違っている!」なんて責めたりしない気がするんですよ。うん…だから「BEAUTIFUL」で僕は、どんな人にも一対一の人間として曲を届けたいという思いを歌いたかったんです。

なるほど…。また、このアルバムでは「Mr. Complex Man」だけでなく、「君の背景」には<理想の恋人とは程遠い 鈍臭い僕>というフレーズがあったり、「Cockroach」では“嫌われ者のゴキブリ”として自分が描かれていたりします。優さんにとって【コンプレックス】というものは歌詞を書く上での一つのキーワードなのでしょうか。

高橋:うん、今回はとくにそうですね。ここ最近、自分の内面以上に活動がわりと爽やかめだったような気がして(笑)。まぁ悪いことじゃないし、ありがたいことなんですけど、みんなが思っているほど僕は全然立派じゃないし、たいしたことない人間なんだって気持ちが強いんですよ。それをアナウンスしてもしょうがないんですけど、やっぱりどこか居心地が良くなくて。誰にも譲れない自分のキライなところとか、コンプレックスなんて毎日のように感じるので、それをこのアルバムでは正直に表現してみました。

そんな中で、関ジャニ∞さんへの提供曲をセルフカバーされた「象」という楽曲は、このアルバムの中で聴くと数々の【コンプレックス】に対するアンサーソングのようにも感じられました。

高橋:あ〜たしかに。“コンプレックスがあるからこそ、踏み出せる勇気”をテーマに描きたくて。象って、本当はめちゃくちゃ強いらしいんです。でも歌詞で描いている<サーカスの象>なんて、人間の言うことを聞いて、あんないい子ちゃんに玉に乗っているじゃないですか。しかも簡単にちぎれるロープで繋がれているんですって。それでも象が暴れないのは、小さいとき人間に「お前にこれをちぎる力はない」って信じさせられて、そのままデカくなるからだって話があるんです。それって一種の思い込みの恐ろしさというか…。僕自身、小さい頃からわりと「あなたはテレビに出るようなタイプの人間じゃない」とか「こういう土地からは有名な人が出ない」とか、誰かの決めつけで人生のレールが敷かれてしまっているような感覚があったんです。でも本気を出せばどんな人だって、ひとつの壁を破壊して新しい世界を見ることができるんじゃないかなって。そういう誰にでも励ませるような言葉を、自分なりに歌で伝えたかったんですよね。

そして、4曲目に収録されている「明日はきっといい日になる」は、歌ネットに掲載されている高橋優さんの楽曲で最も歌詞アクセス数が多い楽曲です。やはりこの曲に対する反響はご自身でも感じましたか?

高橋:感じましたねぇ。【社交的キャンペーン】とかやって、知らない人が多いご飯会にバーンって現れるじゃないですか、僕が。それで「どうも〜高橋優です〜」って挨拶すると、「あ、明日はきっといい日になる人だ!」とか言ってもらえるんです(笑)。そういうのがありがたいなぁって。ちょっと前まで「福笑い」で「東京メトロの歌の人」だったけど、それが新しくこの曲になったのは嬉しいことだと思いますね。

優さんは以前、歌ネットのインタビューで「自分が歌うと“この世界はこんなにも素晴らしくて最高でみんな幸せになれるんだよ。今はクソだけど…”ってどうしても書いてしまう」とおっしゃっていましたが、逆にその“クソ”な部分を隠さず描いてくれるからこそ、ポジティブなフレーズも信頼できるのかもしれないですね。

高橋:僕は360°すべてが綺麗な景色というより、むしろ周りがほとんど真っ暗闇だからこそ、ひとつの光が輝いて見えることを美しいなぁと思うんです。そういう意味だと「明日はきっといい日になる」はその光を明日に置いて、今日を描いているというか。だから初めて監督させてもらったこの曲のMVも、かなり悲しい映像になっています。サラリーマンの人が書類を満員電車でぶちまけちゃったり、会社で怒られたり。女子高生が学校でいじめられている姿を描いたり。それこそ前に自分が言った言葉のように「今はクソだけど」って…いや“クソ”なんて汚い言葉は言っちゃいけないけど(笑)、でもホントそういう日があっても「明日こそは!」って思いで書いたんですよね。

私もこの曲には何度も励まされました。<明日はきっといい日になる いい日になる いい日になるでしょう>って、なんだかおまじないのようにも感じましたし。

高橋:今“おまじない”って言われてすごくしっくりきました。これを書いたときって、世界的にテロとかが増えていた時期だったんですよ。日本人が拘束されて…とか。そういうのが多く報じられていたときに「未来って、どうなっちゃうんだろう」って不安に駆られて。でもなんか言霊じゃないけど、「明日もどうせ…」ってことをいっぱい口に出しちゃうと、それを必死こいて信じることと同じになっちゃうと思ったんですよね。夢も「叶わない」と思った人にはその信じたとおりの未来が待っている気がするので。だったらせめて、この歌を誰かが口ずさんで、口先だけでも「いい日になる!いい日になる!」って言うことで、それがちょっとした変化になるかもしれないなぁ、その人にとってのいい日がもっと想像しやすくなるきっかけになったら良いなぁという思いで、何度も何度も繰り返して歌うサビにしたんです。本当にみんなにとっておまじないみたいな曲になってくれていたら嬉しいですね。



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