片おしどり

彼女は夏の間 湖のほとりで
家族と共に過ごす事になってた
危な気に走る 孫達を目で追って
水辺に過ぎゆく一日を愛してた

働くだけの日々を 過ごしてふと気付けば
もう自分で歩けない程年老いてしまった
人は 子供達の為に生きて来たというけれど
それは違うわただあなたに
ほめてもらいたくて夢中で生きただけ

愛する人々に 恵まれた幸福を
彼女は少し恥ずかしい気がしてた
先の戦さで死んだ 愛する人の事を
いつしかしぼんだ掌であたため乍ら

時折目を閉ざして その人に呼びかける
あなただけいつもいつもあの日のまま若いなんて
ずるいわ 私ばかりこんなおばあちゃんになってしまったわ
だからもう恥ずかしくて
ほめてほしくてもあなたに会えないじゃないの

今日もまた湖の 向こうに陽が沈む
さざ波がいつか金色に変ってる
シルエットになった おしどりがただ一羽
静かに水面を泳いでいった
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