金木犀

衣替えには早すぎた学生服を自転車の籠へ投げ入れた
別子の山から見下ろした燧灘は穏やかだった 穏やかだったよ
今ふっと思い出した
あのころこの手の中には
なんにも無かった
なんにも無かった
失うものはなんにも無かった
あったのは期待と不安だけ

昼下がりの陽炎には金木犀が揺れていた
僕の手には全てが掴めるようなつもりでいた
守るものは
なんにも無かった
なんにも無かった
失うものはなんにも無かった
海の向こうに石を投げては遠い世界を夢見ていたな
踏みしめていた土の事など気にもしなかった
あったのは期待と不安だけ
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