ひろしま雨情

雨のドームに背を向けて
川の流れを見つめていた
市電の硝子(ガラス)におまえが映る
濡れた黒髪いとおしい
あゝすぐにもおまえを外套(フード)で
かばってやりたい
ひろしま 女のなみだ街

「うちに明日はいらんよ」と
無理に笑った泣きぼくろ
うるんだ瞳を避け切れず
運命(さだめ)を恨んだ宇品港(うじなこう)
あゝ今でもおまえ一人を
心にとめて
ひろしま 男のみれん街

一人デッキにたたずめば
街の灯りが遠くなる
これから二人は一人と一人
夜霧にかすんだ似島(にのしま)に
あゝ今さらおまえの優しい
笑顔を想う
ひろしま 二人の別れ街
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