キッチン

「何も出来ないわよ」 と
ステンレスの湖に
君はレタスを浮かべた
僕はグラスを揃えた

冷蔵庫の明かり
こぼれた時なぜか
暖かそうに見えた

何気ない言葉が
心の中でふと
広がる時のように

恋はどこにも
台所にもあった

書きなぐりの 手紙を
残したまま行くけど
傷ついた鳥のように
行く先もあてもなくて

あの頃に育てて
そのままの小さな
ポットの中のベンジャミン

分かり合うふりして
心のワンルームで
暮らして行く日々なら

恋はいつしか
窮屈になるから

ドアに鍵をかけて
ポストに落としたら
もう君は戻る頃

僕はまだ街角
この鍵の温もり
追いかけてくれるなら

恋をも一度
暖めてみるから

思い出の合鍵に
手のひらの温もりを…
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