松葉杖の男

奴は突然現れる 全身黒に身を包み
松葉杖は軽やかに いつも ゆく道を踊る

奴は映画館へ通う やるせなさを身にまとい
闇に包まれ 座席に 深く その身を沈める

奴の振り仰ぐ夜空 漏れる溜息のゆくえ
そこは新開地の路地 やけくそをくるんだ街

車窓を飛び去る景色 重ねる 散らばった記憶
銀幕と希望が好きで 笑い顔がいい男

奴は突然現れる 全身黒に身を包み
松葉杖は軽やかに 宿す痛みを隠して

六十年弱の月日 片足にかけた重み
それは そのまま 喜び 怒り 哀しんだ轍

車窓を飛び去る景色 重ねる 散らばった記憶
銀幕と希望が好きで 笑い顔がいい男

風の便りだけど 奴は死んだという
風まかせの唄 松葉杖の男

黒ずくめのなりの 風がはらんだ唄
黒ずくめのなりの 松葉杖の男
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