想い初めさえしなければ

想い初めさえしなければ 紫草の姿して
深く浅くや濃く薄く もの思いなどせぬものを

あの人は今旅枕 いずれの土地か草枕
あの手枕を懐かしみ 一人空しき袖枕

片割れ月に胸ふと濡らし 花舞い散れば頬また濡らす
春は過ぎ夏闌(た)けて 秋は暮れ冬来るを
草木の色に知るばかり

まるでこの身は花筏 浮かれこがれて何処へ行(ゆ)く
あるいは夜の鳴門舟 逢えずこがれてうち沈む

風吹くと見て花が散る 花散ると見て風が吹く
恋に燃えれば涙落ち 涙落として恋に燃え

庭の夏草茂らば茂れ 訪れ人の無い家だもの
田子の浦波立たぬ 日はあれどあの人を
想う高波止む日無し

はるか昔も今の世も 絶えないものは曲者か
恋という名の曲者に 夜も眠れず取り憑かれ

恋しい人は旅枕 いずれの土地か草枕
あの手枕を懐かしみ 一人空しき袖枕
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