敵タナトスを想起せよ!

涙ぐんだような碧めた月が うとうと
している隙に忍び込んで来て 部屋を浄って
いる 何かが近づく気配がしている
壁や床板の密やかな息に 雨が吹き
なぐる とても不可思議な夜だった
時が羽撃いて辺りを顫わす
底知れず深い二月が漂い 眩瞑く弾ける
敵がいるんだ硝子のように 冷い
つめたく螺子曲がった針の 背後に
蟄れている とても不可思義な夜だった
暖い布団を温々くと纏う 私は冷い
何を怨うか 何を呪うか
硝子壜の底で喘ぎ苦しんで 冷静に
落ちる 可笑しくもないのに 笑い出し
たかった とても 不可思議な夜だった
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