黒猫

暗い 暗い恩讐(おんしゅう)の道の果て
じっと 虚空見つめる双つの眼
黒い 黒い頁は開かれて
闇に さかしまの詩(うた) 木霊(こだま)する
影へ肢体(からだ)をすり寄せて
追いて来るのかどこまでも───黒猫!

深い 深い忘却のドロ沼に
重く 憂鬱の滓(おり)は淀みゆき
長い 長い悔恨の時経(ふ)れば
夜は 悪夢の濁醪(どぶろく) 醸(かも)すとか
嘘の膠(にかわ)で貼り付いた
笑い仮面の虚しさよ
罪の血糊の味しめて
咽(むせ)び泣くのかいつまでも───黒猫!

旋毛(つむじ)曲がりの稲妻が
脳天目掛け轟かば
笑い仮面の真っ二つ
呪詛の血が沸き肉踊る
修羅の剣山生けるのは
忘れじの君鬼薊(おにあざみ)
四五九町歩(じごくちょうぶ)の土塀には
処女の簪(かんざし)眠るとか

春の弥生の空に
気の触れ桜がひらひら
春のうららの風に
涅槃の薫(かお)りがそよそよ

老女の乳を啄(ついば)みし
赤子を真似た獄卒が
猫足立ちに囁ける
不協和音の数え唄
ひとつ人には悪業を
ふたつ不幸は愛(め)でるもの
みっつ淫らは美徳なり
よっつ世迷(よま)いの言葉吐け

春の弥生の空に
気の触れ桜がひらひら
春のうららの風に
涅槃の薫(かお)りがそよそよ

暗く 暗く魂の紡ぎ出す
果てぬ 無為と頽廃の万華鏡
黒く 黒く逆毛立つ獣よ
何処か 懐かしく響く汝の名───黒猫!
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