私はもう圧倒的に失恋を描くことが多いです。

―― ここからはニューアルバム『shiny land』についてお伺いしていきます。まずアルバムを通してのテーマは何か決められましたか?

今回はテーマを決めないというのを、テーマにしましたね(笑)。前作のアルバム『放課後ジャーニー』は、高校生活で感じたことシリーズみたいな感じだったんです。でも今回はそういう縛りもなく、いろんな曲をかき集めてできた一枚なので、いい意味でコンセプトがなくて。だから一曲一曲違うアレンジャーさんにお願いして、タイトルの『shiny land』には“それぞれの曲が個々に輝けるように”という想いを込めました。

―― アルバムの入口となる「radio」は、イントロがなく歌声で幕を開け、さらに冒頭の<いつか私の歌を 聴かなくなる日が来ると思うの>というフレーズから掴まれます。

まさに<いつか私の歌を 聴かなくなる日が来ると思うの>という前置きがあってから、始まるアルバムって深いなと思って、この曲を1曲目に決めました。私は、自分の歌が聴かれなくなるということを結構ポジティブに捉えていて。先生が生徒に「もう自分が注意せんくていいんやな」と嬉しく思うみたいな感覚。卒業というか。それって素敵なことやと思うんですよ。あと、このアルバムも“今のあなた”に寄り添うものであって、いつかまた聴いたときには全く違う感じ方をするかもしれないよってメッセージを、最初に伝えておくことを大事にしたかったんですよね。

―― 有望さんはラジオのレギュラーを担当されていることもあり“ラジオ”は思い入れの強い存在ではないでしょうか。

そうですね。今の時代って、好きな曲だけを購入できちゃうし、自分の意図しないところで曲が耳に入る機会がすごく減ってきたと思うんですよ。でもそんななかでラジオは、新しい音楽に出逢わせてくれるし、久しぶりにかつての気持ちを思い出すきっかけをくれる素敵な存在だなと思います。

―― ご自身も、何かラジオにまつわるエピソードってありますか?

月一で関西のラジオ番組をやらせていただいているんですけど、あるとき私が小学生のときに流行った歌がリクエストされたことがあるんですね。それで私は自分が小学生の頃の記憶を思い出したんですけど、投稿してくれたひとはもっと大人の方だったから、きっとまた別の時代を思い出していて。番組のリスナーさんたちもそれぞれいろんな想いでその曲を聴いているわけじゃないですか。

そういう現象が街のなかでポツポツと起こっていると思うとすごく面白いなぁって。そこから<この街のあちこちで響いた ワンフレーズが また光って弾けた>というフレーズが生まれました。この歌のキーフレーズですね。そして実は「radio」がアルバムのいちばん最後にできた曲で、そのキーフレーズのイメージが『shiny land』というアルバムタイトルにも繋がっているんです。

―― 2曲目の「あっけない」はポップな曲調ですが、歌詞には切ない失恋が描かれていますね。これはどのように生まれた楽曲ですか?

ラブソングを作るときには、いろいろなパターンがあるんですけど、この曲の場合は実際、友達が彼氏と別れた次の日に「あっけないな」って言っていたことがきっかけなんです。私はその「あっけない」という言葉がずっと忘れられなくて。その子の実体験がすべて歌詞になっているわけではないんですけど、うまく「あっけない」というワードが話の核になるような曲になるようにストーリーを組み立てて書きました。

―― 「あっけない」というタイトルもパワーワードですし、この歌はキラーフレーズが詰まっていると思いました。とくに<2人で落ちた恋を 今1人で登るだけさ>というフレーズが印象的で。

嬉しいです!私もアルバムのなかでこの曲の歌詞がいちばん好きで、その<2人で落ちた恋を 今1人で登るだけさ>というフレーズは悩みに悩み抜いて完成させたんですよ。最初は<今>のところが<また>だったんです。でもそれだとちょっと伝えたいイメージが違うなと思って。この二文字だけでもかなり時間をかけて探索して、こだわって作った歌詞なんです。

―― <わたしを好きでいる魔法に かかったフリをしてくれて>というフレーズも素敵ですね。有望さんなら、相手のそういう優しい嘘に気づいた場合どうすると思いますか?

photo_01です。

うーん…。多分、別れを告げたほうがいいんやろうけど、できひんと思います(笑)。なんか…この曲は、私の実体験ではないけれど、自分も共感できる部分が滲み出たらいいなぁと思って。だから<わたしを好きでいる魔法に かかったフリをしてくれて>いるのも全部わかっていながら、それでも<あいこでお別れしよう>とかちょっと負けたくない気持ち、強がってしまう気持ち、弱さみたいなものが伝わるように表現してみました。

―― ちなみに、ラブソングを書くときにはどんな時期を切り取ることが多いですか?

私はもう圧倒的に失恋を描くことが多いです。片想いや両想いのときって、思い出よりもこれからのワクワクとか未来のことを表現することが多いと思うんですね。でも私は性格的に、ひとにもモノにも何か思い出ができてしまうとすごく愛着が湧いてしまうタイプで。失恋ソングってその気持ちの塊じゃないですか。だから多分、得意なんだと思います。このアルバムでも結構<君>がいないことが多いですね(笑)。

―― また1曲目「radio」では、一人称が<私>でしたが、2曲目の「あっけない」では<わたし>と表記されております。人称にもこだわりがありますか?

そうなんですよ。結構、歌詞を文字で見たときの視覚的な印象で、漢字かひらがなかとかを決めることが多くて。最初は「radio」もひらがなで<わたし>だったんですけど、遠目で見たときに<私>のほうがスッと言葉が入ってくるなと思って変えたんです。そうやって最終的に使い分けることが多いですね。

あと<僕>で書くことも多いんですけど、描く気持ちが“女の子っぽい”曲ほど、あえて<僕>って書いて、対象を広げるようにすることもありますね。ただ、これまでハッキリと男の子目線での曲って書いたことがないので、一度は中性的な<僕>ではない歌詞も書いてみたいと思っています。

―― 有望さんの曲では<あなた>は登場しませんね。

はい、まだ私のなかで<あなた>というワードは大人なイメージがあるので。いずれは使いたいんですけど、まだやなって思っています。だから<あなた>はこの先のために取っておいている感じですね(笑)。

―― 3曲目「LION」は、なぜ“ライオン”がタイトルなのでしょうか。

この歌は、TVアニメ『ランウェイで笑って』のオープニングテーマになっていて、物語は身長の低い女の子がパリコレを目指すというモデルさんのお話で。もちろんランウェイが舞台になっているんですね。で、ランウェイって別名“キャットウォーク”って言うんですけど、主人公の千雪はものすごく強い意志を持った女の子なので、キャットウォークのキャットはキャットでも“ライオン”だなと思ってこのタイトルにしました。ちょうど今は受験期でもあるので、受験生から「この曲を聴いています」というメッセージをもらうこともあって、すごく嬉しいですね。

―― <ヒールの音より響く鼓動>といったフレーズからは臨場感が伝わってきます。

ここの一行は、できたときすごくテンションが上がったフレーズでもあるんです。私はメロディーと言葉を一緒に生み出すことが多いので、同じメロディーを繰り返すときには、韻を踏みたくなるんですよ。だから<ヒールの音より響く鼓動>って、意味を伝えながらも、韻を踏むことにめっちゃこだわりました。サビの<わたしを笑い飛ばした陰を>も<わたし>と<笑い>をリンクさせたり。実はそういう仕掛けがいろいろあって、楽しみながら書いた1曲でもあります。

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