誰かが君の名を適当に呼んでた、僕が呼んだ方が君に近い気がするよ。

 2019年5月29日に“平井堅”が配信シングル「いてもたっても」をリリースしました。この曲は、映画『町田くんの世界』主題歌。平井堅が脚本を読み、主人公・町田くんの見ている世界に音をつけられたらという気持ちで書き下ろした楽曲です。そんな主人公・町田くんは、運動も勉強もできないけれど、たったひとつの才能を持っております。

 その才能とは【すべてのひとを分け隔てなく愛する】こと。しかし【ひとが大好き】な優しさ溢れる彼が、あるきっかけで【ひとが大嫌い】な女の子に出会ったことにより、初めて【わからない感情】と向き合うことに…。そして、恋を知り、自分自身を知り、彼はまわりのすべてのひとを巻き込みながら、驚天動地の物語を動かしてゆくのです。

いつもはストンと眠りに落ちるのに
心臓のコトバが気になって眠れない

君も知らないね君の耳たぶが
時々ほら僕に笑いかけて困ります

誰かが君の名を適当に呼んでた
僕が呼んだ方が君に近い気がするよ

僕もまだ知らないこの揺れる気持ちが
時々ほら僕を追い越して困ります
「いてもたっても」/平井堅


 そんな町田くんや、初めての恋に落ちたすべての方の想いを描くのが、平井堅「いてもたっても」です。実はこの曲、歌詞のなかに一度も【好き】というワードは綴られておりません。なぜなら<僕>はおそらく、胸の内にある“何か”が【好き】という感情だということも<まだ知らない>から。でも“初恋”ゆえの変化は次々と実感せざるを得ないのです。
 
 まず<君>がいるときもいないときも<君>への【好き】は、四六時中<僕>の日常のそばにあるようです。ひとりで眠るときも、その<耳たぶ>を見つめているときも、どこかで<誰かが君の名を>呼ぶ光景を目にしたときも、もう<僕>は当たり前のようにいつも<君>が【好き】なのでしょう。つまり<僕>の日常は<君>まみれ状態。

 すると<僕>自身にも【好き】の副作用が表れます。これまでの“感性”がグッと広がり、大きく変容したのです。だから<心臓のコトバが気になって眠れな>かったり、<君の耳たぶ>が時々<僕に笑いかけて>いるように感じたり、さらには<君の名>の呼び方にさえ敏感になり、初めて“嫉妬”という感情の芽が揺れたり。新しい<僕>の心の扉が何枚も何枚も開いている様子が伝わってきますね。

いつももっとここに あともうちょっとここに
いて欲しくてコトバを 探す 探す 探す
「いてもたっても」/平井堅


 いつも相手が気になる、目で追ってしまう、妄想が広がる、嫉妬が芽生える、もっとここにいて欲しいと想う。それらの症状を起こす原因は、紛れもなく【好き】という感情です。だけど<僕>にはまだその原因がわかりません。それでもとにかく<君>のそばにいたい。それゆえに、うまく声にならない<心臓のコトバ>をなんとか“翻訳”して伝えようとしているのが、この歌の<僕>なのではないでしょうか。

君が「またね」と言うたびに
君が「ごめん」と言うたびに
だっていてもたってもいられずに
なんでか泣きそうになる

君が瞬きするたびに 君がくしゃみをするたびに
ただ聞き流してた恋の歌 なんでか口ずさむ

誰も教えてくれないし 本当は誰も知らないし
だっていてもたってもいられない 今だけ下さい

会えば会うほど足りなくなっていく
会えば会うほどわからなくなっていく
もうこれは僕じゃない
「いてもたっても」/平井堅

 そして“翻訳”した<心臓のコトバ>が溢れ出すのがサビフレーズ。なんで<泣きそうになる>のか。なんで<ただ聞き流してた恋の歌>を<口ずさむ>のか。それは【好き】だから。そう多くの方がわかるでしょう。でも恋をするとどうしてそんな状態になってしまうのか、そんなときはどうしたらいいのか、そもそもなぜ恋をするのか、それは<本当は誰も知らない>のかもしれません。
 
 誰しも当たり前に恋をしているように思えますが、実は<もうこれは僕じゃない>と大きな“変化”を何度も繰り返しながら、常に新しい自分を作り上げているのでしょう。恋とは。好きとは。改めてそんなことを考えさせてくれる、平井堅「いてもたっても」を是非、あなたの恋心も重ねながらご堪能ください…!

◆紹介曲「いてもたっても
2019年5月29日配信
作詞:平井堅
作曲:平井堅