明け方の街ではいつも、あなたのことを考えています。

 2018年9月12日に“きのこ帝国”がニューアルバム『タイム・ラプス』をリリースしました。タイトルの意味は【コマ撮り】です。人生のいろんな時間を切り取った楽曲が詰まっている今作。今日のうたコラムでは、その中から<夢みる頃>と<夢みる頃>を過ぎた“今”が描かれている「夢みる頃を過ぎても」をご紹介いたします。

明け方の街ではいつも
あなたのことを考えています
夢みる頃を過ぎても
幾度となく戯けて見せて
ねえ
「夢みる頃を過ぎても」/きのこ帝国

 主人公が<明け方の街ではいつも あなたのことを考えて>いるのは、夜明けの街にかつての二人の記憶が刻まれているから。恋人なのか友達なのか、一緒に夢をみて、朝まではしゃいでいた、眩しいあの頃。でも、歌詞からは<夢みる頃を過ぎて>大人になって、もう同じ景色を見てはいないであろう現実が伝わって来るのです。

蝶になれない蛹もいるってさ
待ちわびてた旅立ちの日に
その羽が開かないと気づくとき
どんな気持ちで空を見ていたの

明け方の街ではいつも
あなたのことを考えています
夢みる頃を過ぎても
屈託なく笑って見せて
ねえ
「夢みる頃を過ぎても」/きのこ帝国

 主人公が今、どんな日々を送っているのかはわかりません。ただ<あなた>の方は<蝶になれない蛹>だったようです。残念ながら<待ちわびてた旅立ちの日に その羽が開かないと>気づいた蛹。そして主人公は、希望に溢れ<屈託なく笑って>いた頃の<あなた>を知っているからこそ、自分事のように悔しくて、どうにもならないもどかしさを抱いているのでしょう。

 また、今も<明け方の街>を見つめている主人公は、もしかしたらまだ<夢みる頃を過ぎて>ないのかもしれません。旅立ちの日を待ちわびている蛹。もしくは羽が開き空を飛んでいる蝶。だからこそ夢を失う不安があるのです。自分も羽が開かなかったら。いつか羽をダメになったら。そんな想いも<どんな気持ちで空を見ていたの>というフレーズに滲んでいるように思えます。

 一方<蝶になれない蛹>だった<あなた>は、残酷な現実を受け入れて、新しい人生を進んでいかなければなりません。もちろん<その羽が開かないと気づくとき>は苦しかったはず。だけど次第に、自分の羽にもう期待しなくて良くなった“安堵”や、無理だと諦めることで次の選択ができる“解放感”も生まれていったのではないでしょうか。

あなたの横顔は歳をとるし
あげた花も枯れてしまうだろう
息継ぎが上手くなってきたから
苦しさは思い出せなくなるだろう

行くあても知らない僕らは
途方に暮れていた
空を見るあなたの瞳は
光って揺れていた
「夢みる頃を過ぎても」/きのこ帝国

 そうやって夢を手放して<息継ぎが上手くなってきたから 苦しさは>思い出さなくなって<あなたの横顔は>歳をとり、大人になっていった。きっとそれは主人公にとって、寂しいことでもあるのです。ゆえに“苦しさは思い出さなく”なるではなく<思い出せなくなる>という表現をしているのです。もう<行くあても知らない僕ら>ではない。光って揺れていた<空を見るあなたの瞳>も思い出の中にあるだけ…。

変わりゆく街並みをそっと
あの頃の夜に塗り替えてみても
変わらない物などないと
気付いてしまった気付きたくなかった
ねえ

明日に落ちてく
大人になってく
夢から覚めて
「夢みる頃を過ぎても」/きのこ帝国

 たとえ<夢みる頃を過ぎても>あの頃のように<幾度となく戯けて><屈託なく笑って>いてほしい。でも<変わらない物などない>ことが寂しい。気付きたくなかった。でも<夢から覚めて>大人になっていくことを否定したくない。どんな未来でも希望的であってほしい。そんな言葉でうまく表しきれない、いろんな気持ちが<ねえ>という一言に込められている気がしますね。

 明日に落ちてく、大人になってく、夢から覚めて。こうして幕を閉じてゆく歌。今のあなたはこの「夢みる頃を過ぎても」をどんな気持ちで聴きますか…? 夢みる頃にも、夢みる頃を過ぎても、誰かを思い浮かべながら、自分の心を重ねながら、聴いてみてください。今より歳を重ねて聴くとまた、捉え方が変わってくる1曲だと思います…!

◆紹介曲「夢みる頃を過ぎても」
作詞:佐藤千亜妃
作曲:佐藤千亜妃

◆ニューアルバム『タイム・ラプス』
2018年9月12日発売
初回限定盤 UPCH-29305-6 ¥3,500(+tax)
通常盤 UPCH-20494 ¥2,800(+tax)

<収録曲>
01.WHY
02.&
03.ラプス
04.Thanatos
05.傘
06.ヒーローにはなれないけど
07.金木犀の夜
08.中央線
09.Humming
10.LIKE OUR LIFE
11.タイトロープ
12.カノン
13.夢みる頃を過ぎても