ヒッキーの歌詞はとても「詩的」で、僕の歌詞は「私的」だ。

 2024年2月28日に“帝国喫茶”が3枚目のEP『ハロー・グッドバイ - EP』を配信リリース! 今作には配信シングル曲「東京駅」を含む4曲を収録。“出逢いから別れまで 生まれてから死ぬまで”というテーマを掲げ、杉浦祐輝(Gt.&Vo.)、疋田耀(Ba.)、杉崎拓斗(Dr.)の3人が作詞作曲を担当。またジャケットアートワークは過去作に引き続きアクリ(G)が制作。作品タイトルを花束を持った女性の絵で表現しております。
 
 さて、今日のうたではそんな“帝国喫茶”の杉浦祐輝(Gt.&Vo.)による歌詞エッセイを3回に分けてお届け! 今回は第2弾。第1弾では自身にとっての歌詞という存在について綴っていただきましたが、第2弾はメンバー・疋田耀(Ba.)の綴る歌詞についてのお話です。自身の歌詞と異なるところ、そして通じているところは…。



 前回チラッと触れましたが、帝国喫茶はメンバーのうちの3人がソングライターのバンドです。今回はBa.疋田(ヒッキー)の歌詞について話していきたいと思います。
 
 大学生になってからバンドを組みたくてメンバーを探していた。今後とても長い時間一緒にいるかもしれないメンバーなので、ずいぶん慎重になっていたのか、3回生になってやっと声をかけた。でもヒッキーとはほとんど話したことがなかった。どんな人かは知らなかった。でも、この人だ。ということは分かった。昔から人のことをよく観察するクセがあったので、そこは信じて疑わなかった。こればっかりは縁としか言いようがない。その時はヒッキーが曲を描けるということも知らなかった。バンドを始めるときに自然な流れで、それぞれが曲を描いてくることになった。
 
 バンド名を決めた日にヒッキーは「夜に叶えて」のデモを持ってきてくれた。みんなでイヤホンを回しながら順番に聴いた。帰り道にヒッキーをバンドに誘った理由が分かったような気がした。
 
 今となっては、逆にヒッキーには僕のような曲は描けないのだと思うけど、その時はヒッキーの描く曲も歌詞も、自分には絶対に描けないもので、きっと自分が描く曲よりも多くの人に届くと思った。歌いたいという願いが叶えば特に自分で曲を描くことにこだわりがなかったから、この人の曲を歌って届けることがこのバンドで自分がやるべきことなんだなと思った。
 
 なぜなら、前回話したように僕の描く曲は、身の回りのこと、接している人に対して生まれる気持ちを曲にしている。それに対してヒッキーの描く曲は、もっと視野が広い。例えば、時間のことで言うと「今」のことを書くとき、過去と未来の間にあるものとして「今」を描く。「さよならより遠いどこかへ」では、出会ってから別れまでがひとつのテーマとして描かれている。ヒッキーにとっては誰かと「はじめまして」と会ったときにその人との別れの瞬間「今までありがとうさようなら」までが浮かんでいる。だから、同じ「はじめまして」でもその意味は異なる。
 
 「光」を描くときには同時に「影」までが見えている。僕が光を描くとしたら、素直に「光」だけを描くけど、ヒッキーは同じ「光」を描くために「影」まで描く。だから、自分には見えないものが見えている人、真逆の人という感覚がずっとある。自分には見えていないものが見える、広いところまで感じるから、より広いところまで、多くの人にとって必要になるものを作っているんじゃないか。と思ったから、少し大袈裟だけど、この人の曲を届けるために、責任を持って歌わなければいけないなと、バンドを始めた時はよく考えていた。
 
 今となっては、真逆だけど根っこにあるものは同じなんだと感じている。ヒッキーの描いてきた曲で、わからないなと思うことはほとんどない。最終的に描く「光」は同じだから。この3~4年の間に数多くの曲が生まれてきた。その中で何度も、ヒッキーの描いてきた曲に対して、ちょうど今同じようなことを考えていた、ということがあった。ときには同じ単語が同じタイミングでそれぞれの曲で使われていた、ということもあった。
 
 「ラブソング」という曲の歌詞で<形ない愛を形作るため歌があった>というフレーズがある。それはまさに前回書いた、大切なものを想って生まれる気持ちを歌にするということ。見えている視野の広さは違うけど、根っこにあるものは同じで、どちらがいいということはなく、僕は僕の曲を作ればいいんだと思うように変わっていった。
 
 僕は歌うための言葉として歌詞がある。ヒッキーも僕が歌うことを考えて作ってくれていることがほとんどだけど、それでも音楽が先にある。僕は歌うために音楽があるのに対して、ヒッキーは音楽を作るということが先にある。だからヒッキーの曲を歌うときは、その曲を表現するために歌っている。僕には見えない部分もなるべく読み取って、なるべく溢さないように歌いたいと思っている。
 
 歌詞に関して言えば、ヒッキーの歌詞はとても「詩的」で、僕の歌詞は「私的」だ。やっぱりないものに憧れるので、ここもヒッキーの方が優れているなと当初は思っていた。
 
 おそらくメンバーのうち3人が曲を描くバンドは、あまり多くないと思う。それでもこの形だからできること、良かったなと思うことがたくさんある。僕はバンドを組むまでサッカーをしていた。バンドはチームという点ではサッカーに近い側面がある。会社でも何でもそうだと思うけど、一人だけが強いチームは結果的に脆いなということを、バンドを組む前に感じていた。圧倒的なストライカーに頼り切ったチームでは、その人の調子に左右されるし、長く続けるのは難しいと思った。だからそれぞれがそれぞれに輝く、そんなドリームチームを作りたかった。
 
 Gt.のアクリは3人が描いてきた曲のジャケットを描く。そうやってそれぞれがものづくりをする場所を持っていることがこのバンドの面白いところ。バンドをやるからにはそういうものにしたかった。自分の描いた曲だけを歌っていると、どんどん自分に偏ってしまっていたなと思う。それもまた素晴らしいことだと思う。でも、二人の描いてきた曲を歌うとき、自分では言葉にできなかった気持ちや、見落としていたことに気づく瞬間がある。それはひとりで描いていると味わえないことだと思う。
 
 よく、「自分の曲では自分の気持ちを歌っているのに、メンバーの描いた曲を歌えるのはどうしてですか」と聞かれる。それはきっと表現の仕方や表面にあるものは違うけど、ずっと深いところに同じものがあるからだと思う。それがヒッキーとバンドをやりたいたいと思った理由だとも思う。だから二人の曲で分からないことはないし、歌える。自分では描けないことだと思うことはあるけど、それによって自分の中に眠っている感情が呼び起こされたり、気づけなかった自分に気づけたりする。
 
大事なひとを想って歌うことしかできないけど、だからこそメンバーのことも誰よりも近くで見て誰よりも理解して、ふたりの作る曲を誰よりもうまく歌える。それぞれの描いてきたことを僕が歌うことで帝国喫茶の音楽ができている。

<帝国喫茶・杉浦祐輝>



◆EP『ハロー・グッドバイ - EP』
2024年2月28日発売
 
<収録曲>
01. さよならより遠いどこかへ
02. 東京駅
03. ハル
04. ロードショー