記憶について②

 2023年12月6日に“クジラ夜の街”がメジャー1stフル・アルバム『月で読む絵本』をリリースしました。今作に収録されるのは全14曲。1stシングル「踊ろう命ある限り」やテレビアニメ『闇芝居 十一期』エンディングテーマ「マスカレードパレード」、最新作「裏終電・敵前逃亡同盟」といった既発曲のほか、「輝夜姫」をはじめとした新曲も収録されております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな“クジラ夜の街”の宮崎一晴による歌詞エッセイを3週連続でお届け! 今回は第2弾です。綴っていただいたのは、第1弾に続き今作の収録曲「Memory」にまつわるお話。自身にとって癒しだった「思い出」が痛みへと変わっていることに気づき、さらに曲を書き終えたとき、新たにたどり着いた想いは…。ぜひ歌詞と併せて、エッセイを受け取ってください。


癒しだったものがいつの間にか痛みへと変わり、途方に暮れておりました。
幾つもの「楽しい記憶」に阻まれて現在、何をするにも手がつかない。
思い出補正の暴走は、過去を極端に美化し、結果足りないものばかり目につくようになります。
 
ただ、ただなぜだか
「こんなことならいっそ友達とかいなければ」とか
「あの人とも付き合わなければ」とか
「もともと孤独だったなら」とか
そういう考えには、一切至らないんですよ。
 
たらればの話はするだけ無駄だとわかっているから?
もちろんそれもあるでしょうが。
 
干渉したくないんです。過去に。記憶に。
それを痛みと知って尚
変わらず俺を苦しめていてほしいと思うんです。
写真フォルダを見返す行為は、その多くを憂鬱で占めますが、ほんの少しの安堵を与えてくれるのもまた事実なのです。
ピースマークを掲げ満ち足りた顔をした自分に、劣等感を覚えつつも、どこかで救われている自分もいた。憂いこそすれ、怒りや憎しみを覚えることはなかった。
 
思い出に殺されそうになってわかったのです。
俺は、思い出に生かされていたのだと。
 
憶測なんですが。
この先、生きれば生きるほど、辛い。
荷物は重たくなる一方。
肩に跡がついて、骨が軋む音を立てたとて
一時的に降ろすことすら許されません。記憶は、自動的に降り積もっていきますから。
「昔は良かったなあ」なんて言葉は、口に出してみると柔らかですが、実際は深刻で。
もしかしたらもう人生のピークはとうに過ぎていて、残りの人生は消化試合かもしれません。
これまで経過した日々を塗り替えるような栄光には、お目にかかれないかもしれません。
そしてそのまま、死んでいくかもしれない。
 
さみしいですね。
なんだかとてもさみしいですよ。
でも言えませんね。俺は言えないですよ。さみしいなんておおっぴらには言えないですよ。だって言葉にしたら余計空虚じゃないですか。
だからせめて。
「さみしくない」って言いたくない。
それくらいは言えるようになりたい。
 
それがクジラ夜の街の新曲「Memory」です。
 
なんのために生きるか?
「思い出を作るために生きている」と答えましたが、曲を書き終えた今は少し違います。
「思い出を越えるために生きる」のです。
結果越えられなくっても。
その思念を持って「現在」という時間に挑むこと。
それが大事なんだって、思うのです。
 
今日も、2017以前の自分は、なんにも知らずに笑顔のままです。
 
<クジラ夜の街・宮崎一晴>



◆紹介曲「Memory
作詞:宮崎一晴
作曲:宮崎一晴

◆メジャー1stフル・アルバム『月で読む絵本』
2023年12月6日発売
配信リンク:https://qujilayolu.lnk.to/iseethemoonlight

<収録曲>
1.欠落 (Prelude)
2.輝夜姫
3.華金勇者
4.BOOGIE MAN RADIO
5.裏終電・敵前逃亡同盟
6.マスカレードパレード
7.ロマン天動説
8.分岐 (Interlude)
9.RUNAWAY
10.踊ろう命ある限り
11.ショコラ
12.海馬を泳いで
13.Memory
14.Time Over (Postlude)