大学生の頃、僕は一日中銃を撃ちまくっていた。

 2021年12月8日に“Hello Sleepwalkers”がニューアルバム『夢遊ノ果テヨリ』をリリースしました。2018年より活動を休止していた彼らが、デビュー10周年を迎えた今年10月5日に活動再開。今作にはHello Sleepwalkersらしいギターサウンドが散りばめられた楽曲だけでなく新たな一面を感じられるものや、シュンタロウ(Vo.)が参加しているクリエイティブプロジェクト・Yamato(.S)の楽曲「Fire」がリアレンジされて収録。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな“Hello Sleepwalkers”のシュンタロウ(Vo.)による歌詞エッセイをお届けいたします。綴っていただいたのは、今作の収録曲「電脳の海」のお話です。ゲームという広大な海に何度も潜り、何度も溺れ、そして帰ってきた彼。その海を知っている彼だからこそ、生み出せたこの曲。是非、歌詞と併せて、エッセイをお楽しみください。



 僕はゲームが好きだ。好きすぎて以前『LIFE is a GAME?』という曲を書いた。もしも人生がゲームだったら、というテーマで面白半分に書いた曲だ。そして今回、「電脳の海」というゲームを題材にした曲をアルバムに収録したので、その経緯を綴ろうと思う。
 
電脳の海へ行こうぜ 君のパパにもママにも内緒で
 
 という歌詞からこの曲は始まる。ゲーミングモニターの向こうは広大な海だ。僕はそこで何度も溺れ、そして何とか帰ってきた。
 
 大学生の頃、僕は一日中銃を撃ちまくっていた。顔や性別、国籍も知らないプレイヤー達と戦場に出た。都合の良いことに、電源を入れるとそこには常に誰かいた。朝も夜もお構いなしでのめり込み、一日=24時間というサイクルが破綻してしまった。
 
 僕の大学生活は首の皮一枚で繋がっている状態だった。危うく留年するところだったが、メジャーデビューが決まり、断腸の思いでゲーム機を手の届かない場所にしまった。恐らく人生で一番真面目だった大学4年生の僕は、必死に卒業論文を書いた。そして大切な人生の数%を浪費したことに気付き、「今後この沼にハマる訳にはいかない」と心に決め、無事卒業し上京したのだった。
 
 それから数年間は、音楽活動が忙しかったこともあり、安全かつ適度に遊んでいた。決してどっぷりと浸からないように、浅瀬でチャパチャパと水遊びをしていたくらいのものだった。
 
 2018年にHello Sleepwalkersが活動休止することになり、僕はまた海に飛び込んでいった。改めて飛び込んだ海は全く違う温度で、違う水質だった。単純に『楽しい』からというより、半分現実逃避だったのかもしれない。敵キャラクターに銃弾を撃ち込み、最後の一人になるまで倒し続ける。それが全てだった。そうすれば存在が承認されたし、心も満たされた。何より実生活の心配ごとや面倒ごとを考えなくて済んだ。そうして僕は数年間、足の届かない深さまで泳いでいった。
 
 活動再開を決めた頃には、数年が経った感覚すら無かった。気がつけば30代で、精神的には何一つ成長をしていない。鏡に映るのは髪も髭もボサボサで、アンデッドみたいな生物だった。
 
 それでも『僕』が『Hello Sleepwalkersのシュンタロウ』であることを取り留めてくれていたのは紛れもなく音楽とバンドメンバー、そして周りで支えてくれた人たちの存在だった。そうして僕はまた前を向き始めることができた。
 
 「電脳の海」(さらに言えばアルバム『夢遊ノ果テヨリ』の楽曲全て)は、その期間を経た僕にしか歌えなかっただろうし、このアルバムが復活一作目として相応しい作品だという自信もある。なのでゲームには感謝しているし、未だに好きなままだ(以前の様にはやっていないけれど)。
 
 この数年間に意味があったのか、価値があったのか、楽曲を聴いてくれた人に何か刺されば、それが答えだと思う。
 
 長い海水浴だった。ふやけた身体で、また地を踏みしめていこうと思う。

<Hello Sleepwalkers・シュンタロウ>

◆紹介曲「電脳の海
作詞:シュンタロウ
作曲:シュンタロウ

◆「夢遊ノ果テヨリ」
2021年12月8日発売

<収録曲>
M1.「SCAPEGOAT」
M2.「20世紀少年」
M3.「虚言症」
M4.「恋煩い」
M5.「電脳の海」
M6.「過去の色素」
M7.「Fire(HSW Version)」