「ねえ、もう一度だけ」もう無しにしよう?そういう運命を取ろう。

「ただいま」またここに帰って来て、
少し違ってやっぱり変わらないさよならを何度も。

「あたしね、もし猫を飼ったら、もう会わないかも」

離れられないのに離れないといけない恋人たちがいる。
思い出にしないために忘れないといけない恋がある。

(Vo.はっとり「恋人ごっこ」セルフライナーノーツ)


 2020年4月1日に“マカロニえんぴつ”が2ndフルアルバム『hope』をリリース。今日のうたコラムでは、今作の収録曲であり、2月7日からデジタル先行配信されている新曲「恋人ごっこ」をご紹介いたします。まず印象的なのは、冒頭で引用したセルフライナーノーツに綴られている「あたしね、もし猫を飼ったら、もう会わないかも」というセリフ。

 この言葉は、歌のなかに登場するわけではありませんが、「あたし」にとって<僕>との関係がどんなものなのかは伝わってきます。何かしらの理由さえあれば、会う必要がなくなるかもしれない程度のもの。今、行き場のない寂しさや時間をただ埋めているだけのもの。とはいえ、何かしらの理由がないと離れられないもの。そんな恋をしている二人の、<僕>目線の感情が描かれているのが「恋人ごっこ」なのです。

「ねえ、もう一度だけ」
を何回もやろう、そういう運命をしよう
愛を伝えそびれた
でもたしかに恋をしていた
恋をしていた
恋人ごっこ」/マカロニえんぴつ


 もし神様が決めた運命のとおりに生きていたら、もし続ける意志がなければ、簡単になくなってしまうであろう、この恋。主人公の<僕>はそれがわかっているからこそ、たとえ別れそうになっても何回も「ねえ、もう一度だけ」を繰り返し、自ら<そういう運命をしよう>と“決められた運命のままじゃない、運命”を作り出そうとしております。

 きっと<愛を伝えそびれた>のは、自信がなかったから。相手は「もし猫を飼ったら、もう会わないかも」ぐらいの感覚で自分と一緒にいるから。だけど、記憶をなぞってみれば<たしかに恋をしていた>二人がいる。その事実は「もう一度だけ」やり直してみれば、今度こそうまくいくかもしれないという希望にもなり、自分自身に<たしかに恋をしていた 恋をしていた>と言い聞かせ、離れられなくなる執着にもなるのでしょう。

缶コーヒーで乾杯
シーツは湿って どうにもならない二人だ
言う通りにするから、
恋人ごっこでいいから
今だけ笑っていてほしい

余計な荷物に気付くのは
歩き疲れた坂道だ
忘れていいのはいつからで
忘れたいのはいつまでだ?

「ねえ、もう一度だけ」
を何回もやろう、そういう運命でいよう
愛を伝えそびれた
でもたしかな恋をしていた
恋をしていた


 そして、歌詞はこのように続いていくのですが、この恋はまさに<缶コーヒー>みたいなものだったのかもしれません。お気に入りのコーヒー豆のように、いつも家にあるわけではない。飲みたくなったときだけ、手っ取り早く買えて、ほろ苦さと甘さを味わえる。飲み終えたら捨てて終わり。そんな<どうにもならない>恋です。

 おそらく最初は<僕>も<どうにもならない二人>であることをわかっていたし、それゆえに<恋人ごっこでいいから 今だけ笑っていてほしい>と、手っ取り早い幸せを求めていたのではないでしょうか。しかし<僕>は“恋人ごっこがいい”わけではありません。本当は別に求めるものがありながらも、可能性を失いたくないから<恋人ごっこでいい>と、本心を抑えてきたんですよね。

 その本心こそが、気づいてしまった<余計な荷物>なのだと思います。気づかないふりをしていれば<恋人ごっこ>のまま、いつまでも<どうにもならない二人>のまま、笑い合っていられたはず。だけどもう<僕>は、そんな坂道は<歩き疲れた>のです。「ねえ、もう一度だけ」を続けて“少し違ってやっぱり変わらないさよなら”を繰り返すのは、嫌なのです。

「ねえ、もう一度だけ」
もう無しにしよう?そういう運命を取ろう
愛を伝え損ねた
またこんな恋をしてみたい
恋をしてみたい

裸や、撫で肩や、キスや乾かない髪

もう一度あなたと居られるのなら
きっともっともっとちゃんと
ちゃんと愛を伝える
もう二度とあなたを失くせないから
言葉を棄てる 少しずつ諦める
あまりに脆い今日を抱き締めて手放す

ただいま さよなら
たった今 さよなら


 本当に求めていたのは<恋人ごっこ>じゃなく、恋じゃなく愛のなかで、ずっと一緒にいることでした。ただし、それは叶わない願いで、このままだとズルズルとダメになって、思い出になってゆくだけ…。だから歌の終盤、ついに<僕>は<「ねえ、もう一度だけ」 もう無しにしよう?そういう運命を取ろう>という道を自ら選びます。
 
 <もう二度とあなたを失くせない>のは、何度も「ねえ、もう一度だけ」と繰り返してきた<恋人ごっこ>に終止符を打つから。何度も「さよなら」に「ただいま」と告げては、また抱き合ってしまった日々を終えるから。これが最後の「さよなら」です。たった今、本当の意味の「さよなら」を告げたのです。
 
 ツラくても痛くても、この恋を手放す運命を取った主人公。でも同時に<またこんな恋をしてみたい>とこの恋の存在を肯定し、未来の希望を忘れずにおります。愛にはなれなかったけれど、自分が変われるぐらいに<たしかな恋をしていた>ことがわかりますね。今、先が見えない不安定な恋をしているあなた。是非、マカロニえんぴつ「恋人ごっこ」を聴いてみてください。いつかはその運命の選択が報われる日が来ますように…!

◆紹介曲「恋人ごっこ
作詞:はっとり
作曲:はっとり