すべての人々の日常を変えてしまった未曽有のパンデミック騒動の渦中において、昨年 2020年7月、デビュー曲「碧い瞳のエリス」を皮切りに、毎週水曜日、5週連続リリースを敢行したソロシンガーが世界でただ一人存在する、金澤豊(かなざわゆたか)である。
彼及び彼の制作チームは、自粛や発売延期・中止、活動縮小等を一切選択せず、すべての制作過程にリモートシステムを導入し、「逆にリリースをし続ける。前に進む。」という果敢な姿勢にいち早くシフトした、フレキシブルでイレギュラーな存在だ。
その金澤豊が、2021年4月の毎週木曜日に、5週連続リリース、第二弾を敢行する。蓋を開けてみたら「80s」がテーマであった前連続リリース。
第二弾である今回は、しっかりとしたテーマが最初から掲げられている。“Digital Silk Road(デジタル・シルクロード)”と銘打たれた今シリーズのテーマは、ずばり、「Mind Travel~心旅行~」。
大小関わらず、「旅行」に行くことが現実世界では中々叶わない昨今、「金澤豊がコンダクターとなり、リスナーの皆さんを世界旅行にお連れしようじゃありませんか」という趣向である。しかもその旅程もしっかり決まっている様子。我々はまずローマに連れて行かれ、そこからアラビア→アフリカ→インド→ラテンの地を巡らされるそう。
そのローマをイメージして制作された楽曲が、金澤豊、5週連続リリース第二弾の序盤としてリリースされる今作、「24時間の神話」である。双子デュオ・VOICEのデビュー曲である「24時間の神話」は、1993年にリリースされたヒット曲。今作はそのカバーであるが、楽曲へのアプローチと解釈は大幅に、そして大胆に違っている。
【ローマのサンタンジェロ城に幽閉されている某姫は、城の庭師と禁断のプラトニック恋愛中。朧月のある晩、塔の窓辺の冷たい石に腰掛け、鉄格子越しにバチカンを眺めていたはずの姫は、朧だった空の雲が晴れ、月の光が明々と射した頃には既にもう城から忽然と姿を消していた。暁の頃、衛兵が城内をくまなく捜索したところ、地下の秘密の抜け道へと続く武器庫の石畳の廊下には、件の庭師「アレッサンドロ」のイニシャルが入った真鍮の剪定鋏が落ちていたという。。。】
金澤豊と、その母体である男子3人組ボーカルグループ“EnGene.(エンジン)”のプロデューサーであり作詞家であるshungo.が今作で制作チームに共有したテーマは、最終的には上記だったそうだが、それがよかったのか悪かったのかはさだかではないが、そのような壮大で若干異常なテーマをも網羅するこの楽曲の要の聴きどころはイントロですぐに登場する。
奇しくも、前回の連続リリースの最初の一曲目を飾った、安全地帯のカバー曲である「碧い瞳のエリス」でもピアノとアレンジ、そしてスーパーバイザーを務めた川口大輔が今シリーズの冒頭を飾る今楽曲「24時間の神話」にも救世主のように登場。川口大輔によって施された壮大で幻想的な弦で幕を開ける今楽曲は、そのイントロを耳にした者を瞬時に「心旅行」に否応なく連れ去るだけの魔法を秘めている。
名曲は何をしても名曲なのであろうが、川口大輔の弦を伴いつつ、この楽曲は驚くべきことに後半、EnGene.と金澤豊のホーム的ジャンルであるEDMに突入する。情報だけ聞くと、自然の摂理を無視した、まるで冒涜のアレンジかのように思われるかも知れないが、このテの楽曲の編曲では必殺のスキルを繰り出してくる大谷靖夫、そしてミックスの錬金術師・小林裕人の手を経て、この曲はものの見事に滑らかに、そして大いに高揚し、終着する。しかも次曲のイメージ国であるアラビアに既に到着しつつ、である。
百見は一聴にしかず。金澤豊と共にデジタル・シルクロードを巡るこの心旅行、楽しくスリリングなものになりそうだ。【あの日見た夢が 今でも心さまよう 24時間の神話と知っても】そうか。金澤豊とその制作チームは、緊急事態宣言がどこかで発令されるその度に、連続リリースを行っているのだ。誰かのほんの少しの勇気となり得るために。そして創造も想像も、いつだって、何処にだって繋がっていると立証するために。