作詞家をはじめ、音楽プロデューサー、ミュージシャン、詩人、などなど【作詞】を行う“言葉の達人”たちが独自の作詞論・作詞術を語るこのコーナー。歌詞愛好家のあなたも、プロの作詞家を目指すあなたも、是非ご堪能あれ! 今回は、ボカロPとして「エゴロック」「テレキャスタービーボーイ」など多数のヒット曲を生み出し、シンガーソングライター、ロックバンド“Aooo”のギタリスト、
楽曲提供など多方面で活動している「すりぃ」さんをゲストにお迎え…!
作詞論

シンガーソングライターとしては、自分自身の内面や社会への向き合い方。ボカロPとしては、第三者目線での風刺とユーモアのバランス。Aoooとしては、バンドの”今”を描く。楽曲提供の際は、作品やアーティストの意図を汲むだけではなく、与えられたテーマを自分のスコップで深掘りしていく。それぞれスタンスは違うのですが、共通して一番大切にしているのは語感やリズムの気持ちよさです。

自分なりのキャッチーさや中毒性というのはメロディだけではなく、言葉のハマり具合も大きく関係しているので、まずは何度も聴いてもらえるような仕掛けとして、口に出した時の心地よさを重視して、歌詞の全体像をかたどっていくイメージ。その枠に対して、塗り絵をするように伝えたいことを落とし込んでいきます。

先にガイドライン的にある母音や子音、音の拍数の縛りに対して、ただただ言葉をハメ込んでいくだけでなく。抽象的な面白さや解釈の幅を持たせるために、言葉の大喜利的なことをして言い換えていくことも意識しています。ただ、最近は言い換えをぐるぐる続けていると、シンプルな言葉に戻ってきたり、伝わりやすさも大事にしたりするようになってきました。
[ すりぃさんに伺いました ]
  • Q1. 歌詞を書くことになった、最初のきっかけを教えてください。

    高校生の時に『けいおん!』というアニメにハマってギターを始め、地元の友達とバンドを組んだのがきっかけで作詞作曲をするようになりました。

  • Q2. 歌詞を書く時には、どんなところからインスピレーションを得ることが多いですか?

    音楽からはマキシマムザホルモンや畑亜貴さん、ボカロ(広くてスミマセン)からはかなり影響受けました。ルールのなさというか、「歌詞ってこんなに自由でいいんだ」という表現の幅を広げてくれて。硬くなった頭をぐにゃぐにゃにしてくれるおもしろさがあって、行き詰まった時は参考にさせてもらっています。

    小説や日常会話、SNSからも知らなかった言葉や自分の視野の狭さを気付かせてくれた言葉はメモしていて、自分なりの辞書のようにあとから読み返しています。

  • Q3. 普段、どのように歌詞を構成していきますか?

    順番的にはサビや歌い出しの部分から書きます。作詞論でも書いたのですが、語感やリズムでかたどって、伝えたいことで色付けていくイメージです。語感やリズムはメロディを考えている鼻歌の段階でなんとなくできることが多いです。

  • Q4. お気に入りの仕事道具や、作詞の際に必要な環境、場所などがあれば教えてください。

    同じ環境に留まらないようにはしています。リズム感を重視している場合は、リラックスしている時や動いている時の方が出やすく、テーマに沿った想いを反映させたい場合は、パソコンの前で心情を整理しながら一つずつ取り出していく感覚です。

  • Q5. ご自身が手掛けた歌詞に関して、今だから言える裏話、エピソードはありますか?

    色んな肩書きがあるので、それぞれの立場から出させてもらいます。

    シンガーソングライターとして書いた「ギルティ」はSNSの誹謗中傷や私刑ばかりが目につく現状に嫌気がさして作った曲なのですが、歌詞を書く際にドストエフスキーの『罪と罰』や最近アニメ化もされた『タコピーの原罪』から着想を得ました。

    ボカロの曲で「ノルア・ドルア・エー」という曲があって、これは夢野久作さんの小説『ドグラ・マグラ』を読んでよくわからない感情になり書いたのですが、今歌詞を読み返してもよくわからないです。

    僕がギターと作詞作曲を担当しているバンド・Aoooの「サラダボウル」。この曲はAoooを象徴するような曲にしたいなと思い書きました。メンバー各々がソロでも活動しており、そんな4人が集まってできたこのバンドのイメージがサラダボウルでした。一つ一つの色や形が鮮やかで、混ざり合ったとしてもその違いを残したまま共存し合うように。

    中でも<樹海からオレンジの海までSwimming Swimming中>という歌詞があるのですが、樹海は泳げないし、オレンジの海なんてないし、進行形の”ing”の後に同じ意味の”中”なんて普通合わせないと思います。ですが、歌詞も含め自由で衝動的で遊び心がある僕らの姿を受け取ってほしいという気持ちで書きました。

    提供曲の「アイワナムチュー」は新宿の歌舞伎町を練り歩きながら作った曲で、ギターソロの後に<愛されたいけど愛したいね やっぱりどーにか愛されたいよ>って歌詞があるのですが、これはAKB48の佐藤亜美菜さんのキャッチフレーズを引用させてもらいました。

  • Q6. 自分が思う「良い歌詞」とは?

    自分になかった視点に気付かせてくれる歌詞や、年を重ねるごとに捉え方が変わっていくような歌詞はいいなって思います。あとは傷ついた時に、その人にとってのかさぶたのような役割を持つ歌詞は素敵だなと。

  • Q7. 「やられた!」と思わされた1曲を教えてください。

    野狐禅の「カモメ」という曲の2サビにある<遺書を書いていたつもりがラブレターみたいになってしまって丁寧に折りたたんで君に渡した>この歌詞は本当に美しいと思いました。

    僕たちは自分の本当の想いを綴るということが難しい生き物です。思い描いていた通りにならない人生も、案外全て吐き出してみると捉え方次第で少しは居てもいいなと思える世界にもなる。

    この曲を聴いて、僕もどこかの誰かにとって救いになるような詩を書きたいなと思わせてくれた一曲。

  • Q8. 歌詞を書く際、よく使う言葉、
         または、使わないように意識している言葉はありますか?

    オノマトペはキャッチーで口ずさみやすく、僕がよく使うコミカルな印象の音との相性がいいので意図的に入れたりします。あとは”チュウチュウ”、”ダメダメよ”、”孤独独得”などリフレインさせることでオノマトペ的な効果を演出させることも多いです。

  • Q9. 言葉を届けるために、アーティスト、クリエイターに求められる資質とは?

    何かを受け取った時、情報として保管するだけではなく自分なりに咀嚼してどんな形でもいいので吐き出してみることが大事。

    例えばですが、自然豊かな場所に行ったとき、「なんか気分がいいね」だけで処理せず、「なぜ気分がいいと感じるのか」、「なんとなくそう思っただけで本当は刷り込まれているだけでは」と、立ち止まって精査する時間を作ってみる。膨大なビックデータではなく、偏った経験と自分だけの違和感が己のフィルターを通り、生み出される歪な答えが人々を惹きつけるんじゃないかなと思います。

    もちろん、そうして出た答えが普遍的な答えだったとしても、その過程を経ることで、発信する言葉の説得力が増すので僕も日々するようにしています。

  • Q10. 歌詞を書きたいと思っている人へのアドバイスをお願いします。

    自分のことをめちゃくちゃポンコツやと思っています。公共料金の支払い用紙を開けて読んだ上でそのまま捨てちゃうくらい読解力がないし、引越しを何回もしているのに毎回前日になって片付け始めるくらい計画性がないし、お酒の飲み過ぎなんて何一つ良くないとわかっているのに気付くと朝まで飲んでしまっているくらい学習能力がない。ですが、ありがたい事にこのような記事を書かせていただいたりもしています。だから大丈夫、あなたもきっと書けます。

歌 手
すりぃ
タイトル
Mr.ヒーロー
子どもの頃からヒーローという存在に憧れていたので、僕もいつか誰かにとってのヒーローになりたいという想いで書きました。僕のヒーローの定義は、空を飛べる力でも絶体絶命のピンチを乗り越える超能力でもなく、ただ単純に誰かから必要とされる、それだけだと思っています。誰かがうずくまっている時に肩を組んで話を聞くだけでも、その人にとっては立派なヒーロー。僕も音楽で、言葉でそんな存在になれればいいなと夢見ながら活動を続けています。ラスサビに<案外生きていけるなあ>とリフレインする箇所があり、これは別で作っていた曲の歌詞なのですが「Mr.ヒーロー」を作っていく過程で、「この曲に合うな」と思い、くっつけました。この曲をライブで歌うときは赤いマントをつけている気持ちで歌います。
2018年3月3日にボカロPとして活動を開始。「エゴロック」「テレキャスタービーボーイ」など再生数1億回を超える曲を多数生み出す。活動当初より楽曲・詞のセンスが高く評価され、Ado「レディメイド」、ano「絶対小悪魔コーデ」など、数多く楽曲を提供。

2023年以降、ネットクリエイターの枠を飛び越え、大型音楽フェス出演や、全国ツアーの開催など、ひとりのシンガーソングライターとしてシーンから注目を集める。前年にリリースした自身の楽曲「中毒性のチュウ」のミュージックビデオが、2024年に入り「日清カレーメシ」のCMに抜擢される一方、自ら執筆した長編「テレキャスタービーボーイ」がノベライズ化されるなど、様々なシーンで才能を発揮。

昨今はロックバンド・Aoooのギタリストとしても活動する一方、ソロとしても海外公演を実施するなど活動のペースを加速。2025年10月から、全国7カ所を巡る2年ぶりのワンマンライブツアー「すりぃ ONE-MAN LIVE TOUR 2025 “火鳥”」を開催する。

INFORMATION


3ヵ月連続配信リリース第1弾
Aooo
Yankeee

作詞・作曲:すりぃ
2025年7月16日配信
『Yankeee』ミュージックビデオ


3ヵ月連続配信リリース第2弾
Aooo
Geek』

作詞:石野理子
作曲:やまもとひかる
2025年8月20日配信



すりぃ
超ピース

作詞・作曲:すりぃ
2025年2月2日配信
『超ピース』ミュージックビデオ
すりぃ ONE-MAN LIVETOUR 2025 「火鳥」
チケット情報はコチラ
・10/31(金) 愛知・名古屋ダイアモンドホール 開場17:30/開演18:30
・11/21(金) 北海道・近松札幌 開場18:30/開演19:00
・12/5(金) 大阪・なんばHatch 開場17:30/開演18:30
・12/7(日) 岡山・YEBISU YA PRO 開場17:15/開演18:00
・12/9(火) 福岡・BEAT STATION 開場18:15/開演19:00
・12/13(土) 石川・金沢AZ 開場17:30/開演18:00
・12/16(火) 東京・EX THEATER ROPPONGI 開場18:00/開演19:00