作詞家をはじめ、音楽プロデューサー、ミュージシャン、詩人、などなど【作詞】を行う“言葉の達人”たちが独自の作詞論・作詞術を語るこのコーナー。歌詞愛好家のあなたも、プロの作詞家を目指すあなたも、是非ご堪能あれ! 今回は、「ロミオとシンデレラ」や「歌に形はないけれど」などVOCALOID楽曲の発表を続ける傍ら、数多くのアーティストへの楽曲提供、サウンドプロデュースなどを手掛けている「doriko」さんをゲストにお迎え…!
作詞論

作詞は伝えたい言葉を伸び縮みさせることだと思っています。
作詞をしながら何度も、これが小説なら過不足なく伝えられるのにと歯痒く感じてきました。
言葉をのせられるメロディーの音数は大体決まっていて、それに合わせて言葉を減らしたり、追加したり、テーマを崩さない範囲でしていきます。難しい分、そこに作詞の面白さが詰まっているのかなと自分は思っています。
[ dorikoさんに伺いました ]
  • Q1. 歌詞を書くことになった、最初のきっかけを教えてください。

    高校生の時です。正直に言うと、最初は「作曲」のほうが目的で、「作詞」はそれについてきた「おまけ」みたいなものでした。当時、趣味で友人とコピーバンドをする傍ら、打ち込みを使って初めて作曲をしたのですが、その曲につけた歌詞が初めての作詞でした。テーマもなく、聞きかじったそれっぽい言葉を並べただけのもので、けっこう恥ずかしい出来でした。それを聞いた人が多分10人もいないことがまだ救いです。

    公開する前提で作詞を始めるのは、2007年にVOCALOIDの楽曲を動画で公開し始めてからです。最初は遊びとして、わりとふざけた作品を作っていたのですが、思いの外反響があり、徐々に詞も曲も考えて作るようになり今に至ります。

  • Q2. 歌詞を書く時には、どんなところからインスピレーションを得ることが多いですか?

    あらゆる作品や、出来事から着想を得ています。ただ、依頼をいただいて作るものと、自分が好きに作るものでは、考え方がちょっと違います。

    依頼をいただいて作る場合は、その「情景」をとにかく意識します。例えば、夏の曲だったら、夏の風景、夏の夜空、の写真をとにかく沢山見ます。なんなら部屋に貼ります。その風景の中に自分が没入して「いる」気持ちになることができれば、何か言葉が出てくると思うんです。

    もちろん、現実の体験が生かされることもあって、つい最近だと実際に「夜の灯りに集まる虫が、翌朝そこで死んでいる姿」を見たことが、「ライトトラップ」というタイトルをつけた曲に繋がっています。

    自分が好きに作っていい作品なら、自分の内から出る言葉が全てだと思います。どこかで感じた、理不尽さだったり、叶えられなかったことだったり、そういうマイナスな感情を、「こうだったらよかった」とプラスなものに変えて作詞することが多いですね。

  • Q3. 普段、どのように歌詞を構成していきますか?

    サビからが多いです。まずは、その曲のテーマと繋がる言葉・フレーズを書き出して、それを繋いだり、削ったりしていきます。音を優先するか、意味を優先するかは曲次第ですが、アップテンポであるほど音優先、バラードであるほど意味優先の言葉のはめ方をしていきます。

    ただ、どんな曲でも、どうしてもサビは音を優先してしまうことが多く、分かりやすく伝えたいメッセージみたいなものは、入れられないことがあります。自分の場合、結局Bメロあたりに一番言いたかったことがくることもありますね。

  • Q4. お気に入りの仕事道具や、作詞の際に必要な環境、場所などがあれば教えてください。

    作詞をする時は自室が一番いいです。コーヒーを脇に置いて、壁に寄りかかりながら、ノートパソコンを膝の上。たぶんこれまでの9割はこのスタイルで作っています。メロディーに詞をのせる時は、実際に声に出してみないと響きの良し悪しが分かりにくいので、声を気兼ねなく出せるところが自分には必須です。

  • Q5. ご自身が手掛けた歌詞に関して、今だから言える裏話、エピソードはありますか?

    VOCALOID作品の代表曲に挙げた「ロミオとシンデレラ」は、志村貴子さんの『放浪息子』という漫画の作中で「ロミオとジュリエット」や「シンデレラ」の描写があって、そこから構想を得た記憶があります。作詞当時、大好きでよく読んでいたので。

  • Q6. 自分が思う「良い歌詞」とは?

    記憶に残り、みんなが楽しく口ずさめるフレーズも大事ですが、自分が特に大事にしているものは「共感」と「美しさ」かなと思っています。さらに言えば、決して多くない人でもいいから、誰かに「強く共感」してもらえる、刺さる詩を作りたいと思っています。歌詞全体でなくても、「この一節がすごく好き」みたいな部分があると、1つの曲をその後も長く好いてくれる気がしています。

    あと「美しさ」に関しては、変に難しい言葉を使うのではなく、言葉の順番だったり、韻の踏み方だったり、横文字のうまい混ぜ方だったり、正解があるものではないので難しいのですが、何か印象に残る文章だと思っています。

  • Q7. 「やられた!」と思わされた1曲を教えてください。

    曲のジャンルによって違うので悩みますが、今思いついたのはバラードで、ReoNaさんの「カナリア」という曲です。自分にとっては上記の共感と美しさに溢れた歌詞で、カナリアという言葉で印象的に始まるサビも大好きな曲です。歳をとるごとに忘れている気がする感覚を思いださせてくれる曲であり、上記の「自分には強く刺さる曲」です。

  • Q8. 歌詞を書く際、よく使う言葉、
         または、使わないように意識している言葉はありますか?

    つい使ってしまうのは「世界」と「夢」ですね。多用すると自分でも陳腐に感じるので、外せない時以外は使わないように心がけています。

    最初からずっと使わないようにしている言葉は「死」や攻撃的な言葉です。個人的な反省も踏まえ、誰かを傷つける描写は極力避けているつもりです。きつい言葉を使っている曲もありますが、それは自虐か、理不尽なことに対する反骨心としてだけ使っているつもりです。

  • Q9. 言葉を届けるために、アーティスト、クリエイターに求められる資質とは?

    「恥ずかしがらないこと」だと思います。誰もがいいと思う詩を書くのは難しいと思います。けれど、その歌詞をよく思ってくれる方がどこかにはいると信じて、発信していくしかないと思って自分も活動しています。

  • Q10. 歌詞を書きたいと思っている人へのアドバイスをお願いします。

    経験も知識もどんどん積めばいいと思います。もし納得がいく出来ではなくても、次はもっといいものを作ろうと思えるなら、作品を公開することはきっと次への糧になります。自分は正直、この気持ちだけで続けてきました。いい言葉、フレーズの種は、至る所にあふれているはずなので、普段からアンテナを立てながら生活すると、いいことがあるかもしれません。自分もそう思って一応頑張ってはいます。

歌 手
doriko feat. 初音ミク
タイトル
ロミオとシンデレラ
韻を踏むなど、音で遊んだ作詞をしたのはこの曲が初めてでした。語尾をただ揃えるだけだと、あまり響きが綺麗じゃなくて、フレーズ全体として語感を近づけて韻を踏んだらいい感じになり、作っていて楽しかったです。届けたいテーマも大事ですが、楽しさに振った作詞もいいものだなと気づかせてくれた曲でした。
2007年、ニコニコ動画にVOCALOIDを用いた楽曲投稿を始め、VOCALOID黎明期に数多くのヒット曲を生む。特に2009年の楽曲「ロミオとシンデレラ」は沢山の「歌ってみた」作品が投稿されただけでなく、その世界観を元にした小説や漫画、歌舞伎の舞台が生まれるなど大きな広がりを見せている。VOCALOID楽曲の発表を続ける傍ら、数多くのアーティストへの楽曲提供、サウンドプロデュースなどを手掛けている。

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