作詞家をはじめ、音楽プロデューサー、ミュージシャン、詩人、などなど【作詞】を行う“言葉の達人”たちが独自の作詞論・作詞術を語るこのコーナー。歌詞愛好家のあなたも、プロの作詞家を目指すあなたも、是非ご堪能あれ! 今回は、シンガーソングライター・小説家として活動し、今年デビュー45周年を迎える「さだまさし」さんをゲストにお迎え…!
さだまさし
代表作
精霊流し
無縁坂
雨やどり
関白宣言
案山子
秋桜」など

作詞論
出来るだけ「聞いて美しい」言葉を探す努力を
メロディと言葉がひとつになって「歌」になりますから「聞く」ことを前提にイントネーションも含めた言葉選びをします。出来るだけ「聞いて美しい」言葉を探す努力をします。短い歌の中に体温や心の働きが込められると尚更良いです。
[ さだまさしさんに伺いました ]
  • Q1. 歌詞を書くことになった、最初のきっかけを教えてください。

    音楽は3歳から学んでいたから、曲作りはあまり苦労しなかったですが、詞は難しいですね。元々曲を作っても詞を書いてくれる人が居ないから仕方なく自分で書き始めたのですが、グレープ時代に歌っていて自分の詞に飽きるので相棒の吉田に相談したら、覚えにくい詞なら飽きないんじゃねえか?と言われ、初めて書いた覚えにくい詞が「精霊流し」でした。まさかの「作詞賞」などいただいたので責任感じて今までやってきた感じですね。 詞を書くのが一番大変です。

  • Q2. 歌詞を書く時には、どんなところからインスピレーションを得ることが多いですか?

    映画はなかなか観る機会が無いのですが、読書・会話・体験などで見聞を広めています。解らないことがあると調べなければ気が済まない性格なので、しつこく本を探し、読んで追いかけます。場合によっては一冊の本を読み切るのに別の本が5冊必要なこともあります。ただ、言葉選びは出来るだけ自分の心から出てくる言葉を選びます。心を動かされる言葉をそのまま引用することは避けています。インスピレーション、というなら、これはやはり神様が下さるものでしょう。自分では如何ともしがたいことです。アンテナを高く掲げて神様からのヒントを待つ感じですね。

  • Q3. 普段、どのように歌詞を構成していきますか?

    まずテーマが大切です。一体何を伝えたいのかというテーマが無いのに歌を作っても意味が無い。とりあえず何でも良いから歌を作ろうとすると、どうでも良いような歌を「でっち上げる」ことになり、歌っていても高まって行きません。「メッセージ」の無い歌は僕には必要ありません。先ずはテーマ決め、それを表現するための音探し。「笑いのある歌」や「真正面から生真面目に伝える歌」など、様々な表現方法がありますが、テーマがしっかりしていて、音さえ見つかれば言葉は自然に出てきます。テーマを思いついてすぐ出来るもの(雨やどり、関白宣言など)もありますが、出てこないときは無理に押し出さず、じっと待つか、その時は諦めるかで、テーマによっては7年(つゆのあとさき)とか10年(防人の詩)とか15年掛かったもの(風に立つライオン)もあります。

  • Q4. お気に入りの仕事道具や、作詞の際に必要な環境、場所などがあれば教えてください。

    場所も時間も道具もこだわりはありません。飛行機や新幹線の移動中、また、仲間と呑んでいても歌詞やメロディが浮かぶことがあります。そういうときには頭の中にメモるだけで、何かに書き留めることはしません。後で思い出せないものは「きっとつまらないもの」と思うことにしています。

  • Q5. ご自身が手掛けた歌詞に関して、今だから言える裏話、エピソードはありますか?

    僕は古典文学作品を下敷きに歌を作ることがあります。万葉集は特に出来るだけ読み返すようにしています。それから奇妙な辞書などを発見すると必ず読みます。若い頃にとても可愛がっていただいた山本健吉先生の歳時記は自分の季節感を養う上でも、曲作りの際の季節の言葉の確認にも大変お世話になります。先生が亡くなって30年経ちますが、いまでもご本の中から叱られたり教わったりと、大切な師です。

  • Q6. 自分が思う「良い歌詞」とは?

    短くて季節感があり、心の働きや人としての心情が聞こえ、感動さえ伝わるものです。俳人、石橋秀野の絶唱『蝉時雨児は担走車に追ひつけず』など凄いですね。なんとこれは自分が吐血してストレッチャーで運ばれる最中に書かれたもので、母に追いすがる幼い娘の不安や表情や蝉時雨の音まで聞こえてきます。これが遺作になりました。俳句は最高の文学だ、と言う言葉に同意します。

  • Q7. 「やられた!」と思わされた1曲を教えてください。

    津軽海峡・冬景色」/石川さゆり

    出だしの「上野発の夜行列車おりた時から青森駅は雪の中」という風景描写がとにかく素晴らしい。そのあとの「北へ帰る人の群れは誰も無口で海鳴りだけをきいている」には雪国に住む人々の心や姿が目に見え、海鳴りが聞こえ、寒さまで伝わるようです。素晴らしい作品です。

  • Q8. 歌詞を書く際、よく使う言葉、
         または、使わないように意識している言葉はありますか?

    敢えてそういうテーマを選ぶ時以外は、あまりにもネガティブな表現は避けます。見て綺麗な言葉と聞いて綺麗な言葉は違います。出来るだけ聞くことを前提に選びます。あとは出来るだけイントネーションを外さぬよう心がけています。

  • Q9. 言葉を届けるために、アーティスト、クリエイターに求められる資質とは?

    普段からの価値観や考え方、音楽や歌に限らず「創作作品」に対するその人の愛や心構えはいつか必ず人に伝わります。好きでやっていてもなかなか伝わらないことが多いですが「売れる」「儲ける」だけが目的であれば他の仕事に就いてくださるようお願いします。

  • Q10. 歌詞を書きたいと思っている人へのアドバイスをお願いします。

    言葉の大切さを学んでください。いろんな本を読んでください。沢山の人に会って話をしてください。旅行をしてください。人の心の痛みを感じるための「思い」や「志」を感じてください。自分の弱さを恥じないでください。自分の強さを疑ってください。10年後に通用するものを作って下さい。

歌 手
ナオト=マサシ・インティライミ
タイトル
パスワード シンドローム
ナオト・インティライミのイメージしたメロディに対して後から歌詞を乗せたもの。 彼とのやりとりがあって、メロディや歌詞も若干変えたが、ほぼイメージ通り。 現代の悩みの一つパスワードの混乱を笑い飛ばすテーマながら、 こだわりでちゃんとラブソングに出来たことかな?

本名、佐田雅志。長崎市出身。シンガーソングライター・小説家。
3歳8ヶ月でヴァイオリンを始め、ヴァイオリン修業のため小学校卒業と同時に上京し、1972年に高校時代の音楽仲間である吉田政美とグレープを結成。
翌年、ワーナーパイオニアから「雪の朝」でデビュー。2ndシングル「精霊流し」が大ヒット。第16回日本レコード大賞作詞賞を受賞する。



グレープ解散後、1976年にソロデビューした後も「雨やどり」「秋桜」「関白宣言」「北の国から」など数々の国民的ヒット作品を発表する。第21回日本レコード大賞金賞、同ベストアルバム賞他、数多くの音楽賞を受賞。
活動の中心であるコンサートの回数('76年以降)は2018年7月現在で4,300回を超えている。
2001年「精霊流し」で小説家としての活動を開始。
以後「解夏」「かすてぃら」「はかぼんさん」「ラストレター」「風に立つライオン」など10作品を発表。うち8作品が映像化。

また、NHK「今夜も生でさだまさし」のパーソナリティとしても人気を博している。
2015年8月、一般財団法人 風に立つライオン基金を設立(2017年7月公益財団として認定)。
様々な助成事業や被災地支援事業を行っている。
2018年5月より、45周年コンサートツアーを全国で開催する。
INFORMATION

ニューアルバム
「Reborn ~生まれたてのさだまさし~」
2018年7月4日発売
VICL-65021 ¥3,148(税別)

グレープ「雪の朝」でレコードデビューしてから今年10月25日で45周年を迎えるさだまさしの、 ビクター移籍第一弾アルバムは グレープから数えて通算「45」作目のオリジナル・アルバム。


著書:『酒の渚』(PHP研究所)
2018年3月10日刊
¥1,100(税別)
    <コンサート・イベント情報>
     さだまさし45周年記念コンサート
    「Reborn~生まれたてのさだまさし~」
               詳しくはコチラ