前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて“キラ☆歌”)を発掘しようというこのコーナー。今月は、レコード会社別に今月最も人気の楽曲を集めて、各社の傾向を調べてみた。
70年代はコロムビア、80年代はCBSソニーやEPICソニー、キャニオンレコード、90年代はビーイングやエイベックス、トイズファクトリー、そして00年代はデフスターやワーナーと、それぞれの時代で勢いのあるレコード会社は年々変わっている。筆者は音楽バカな為(汗)、他の業界のことはよく知らないが、トップのメーカーがこれだけめまぐるしく変わる業界も珍しいのではないだろうか。そんな不安定な(微笑)業界の好調なメーカーと、歌詞検索の人気はどう関係しているのか見たくなったので、今回のテーマを決めてみた。

第52回:レコード会社対抗人気曲TOP15 (2013年11月:2013年10月のデータより分析)
テーマ
順位
総合
順位
アクセス指数 楽曲名 アーティスト名 レーベル 発売日
1位 1 100 さよなら 西野カナ SME/SME Records 2013.10.23
2位 2 91.1 Lonely Hearts 加藤ミリヤ SME/Sony Music 2013.10.2
3位 3 86.5 愛し君へ GReeeeN ユニバーサル/Nayuta 2013.8.21
4位 4 85.5 恋音と雨空 AAA エイベックス/trax 2013.9.4
5位 5 73.9 潮騒のメモリー 天野春子
(小泉今日子)
ビクター/
Victor Records
2013.7.31
6位 7 54.2 RPG SEKAI NO OWARI トイズファクトリー 2013.5.1
7位 9 36.2 好きだよ。〜100回の後悔〜 ソナーポケット 徳間ジャパン 2011.1.26
8位 10 32.6 高嶺の花子さん back number ユニバーサル/シグマ 2013.6.26
9位 12 31.9 ごめんなさいのKissing You E-girls エイベックス
/rhythm zone
2013.10.2
10位 14 28.2 かげろう 斉藤和義 ビクター/Speedstar 2013.10.23
11位 16 27.8 P・A・R・A・D・O・X J-Storm 2013.10.23
12位 17 26.8 チルドレンレコード じん SME/ダイレクト 2012.8.15
13位 19 26.1 TAKOYAKI in my heart 関ジャニ∞ テイチク/Imperial 2013.10.16
14位 22 22.4 小さな恋のうた MONGOL800 HI-WAVE 2001.9.16
15位 29 19.3 奏(かなで) スキマスイッチ SME/Ariora 2004.3.10
※同一社内でもレーベルカラーが全く異なる場合は別扱いでカウントした。
また、既に移籍しているアーティストの移籍前の作品は対象外とした。

 まず1位、2位は、70年代以来、5ディケイドにわたって業界上位を占めるSMEグループの2レーベルから西野カナと加藤ミリヤがランクイン。特に、CBSソニー以来の本流とも言えるSony Musicの方は、今年でもLUHICA、剛力彩芽など新人ヒットを出しつつ、miwaや清水翔太、supercellなど歌詞検索上位常連も多い。乃木坂46やDISH//、渡辺麻友などイベントで稼ぐアイドルも強いが、こうして見ると歌詞のメッセージでも十二分に勝負していることが分かる。同社で11月末にデビューするkahoもこの波に乗れるか注目したい。また、SMEグループ内でやや元気がないのが15位のSME/Arioraレーベルで、同レーベルで上位なのは、この「奏」か小田和正の「たしかなこと」でどちらも10年ほど前の楽曲で、最新ヒットはしばらく見られていない。今秋、平井堅が同レーベルに移籍したことから、今後メッセージ色の強い最新ヒットが出てくるのか注目したい。

 3位と8位にはユニバーサルミュージックの2レーベルがランクイン。GReeeeNとback numberも歌詞検索の上位常連で、彼らの旧作「キセキ」や「花束」もそれぞれロングヒット中。他にも、ナオト・インティライミ、ヒルクライム、C&Kなど歌詞が人気のアーティストが目白押し。00年代後半、青山テルマやキマグレンなど、着うた発のヒット曲を量産してきたあたりから、歌詞検索でもヒット感が増してきたように思うが、着うた文化が翳りを見せてからも、現在の動画サイトや歌詞サイトでのヒットは継続しており、それがアルバムヒットの継続に繋がっているようだ。昨春、ユニバーサルと合併したEMIミュージックは、それ以降で歌詞検索や音楽配信上でヒットしたのがなんと40年前の荒井由実「ひこうき雲」だけなので、今後EMIレーベルに合併効果が現れるのか期待したい。さらに、家入レオや今年の『あまちゃん』ブーム、サカナクションやクリープハイプのヒットなど、明らかに“持っている”メーカーとなったビクターは5位と10位にランクイン。やはり、そのメーカーの好調ぶりを裏付けるものとして、楽曲がきちんと支持されているということが分かる。

 一方、メーカー別売上としてはかなり上位なのに、このランキングではさほど目立たないのがエイベックスとキングだ。エイベックスは、LIVEチケット付きCD(それゆえ何度もそのツアーに行く人は何枚も同じCDを買うハメに(笑))やメンバーの数だけ何十種類と存在するミュージックカード(もはやCDではないが、CDチャートに算入されている(笑))など、購入人数を増やすことよりも購入金額を増やすことを優先しているのか、それが楽曲ヒットの少なさにもリンクしている。実際、同社の売上主軸はコンテンツ配信事業やライブエンタテイメント事業だし、楽曲ヒットに関する考えが他社とは大きく異なるのかもしれない(無論、それが悪いという意味ではないので念のため)。しかし、そんな中でもAAAの「恋音と雨空」は2ヶ月連続TOP5入りするなど、そのメッセージ性からダウンロードでロングヒットする楽曲も同社には存在している。また、キングについては、同社が強いのは、アイドルとアニメと演歌であって、いずれも歌詞がさほど支持されなくても、そのアーティストやアニメのパワーで乗り切れるアーティストが多いジャンルだ。言い換えれば、現代のCDヒットにはそういった要素の割合が高く、それゆえ“ヒット曲が見えづらい”時代になっているとも言えそうだ。

 以上のように、市場の好調ぶりと歌詞検索がシンクロしているメーカーがある一方で、むしろ全くシンクロせずに好調なメーカーまであることが分かる。今は、ビジュアルやダンスパフォーマンス、動画サイトの面白さ、MCやブログでの発言の面白さなど様々なブレイクのパターンがあるが、そこに楽曲の魅力が上乗せされれば、世代を超えて支持され、結果的にアーティストがより確実にステップアップできると思うのだ。その意味で、今後も人々が口ずさめる歌が増えて欲しいし、今後もそれを歌詞検索の分析から読み取っていきたい。




さよなら/西野カナ

Lonely Hearts/ 加藤ミリヤ

愛し君へ/ GReeeeN

 2013年10月16日発売の6thオリジナルアルバム『JUKE BOX』の1曲目に収録されたアップテンポのナンバー。ニコニコ動画でヒャダインとして人気を博してきた前山田健一の作詞・作曲らしく曲調がどんどん変わっていくスリリングなナンバーだがメンバー7人の特長を面白おかしく盛り込んでいて、それでいて「大阪!(大阪!)」の部分はメンバーとファンが掛け合うような構成になっているという、今後LIVEで盛り上がること必至のナンバー。この曲は、アルバム発売タイミングのプロモーションでも、TVで披露されたこととその斬新な歌詞から、検索数も急上昇している。
それにしても、09年の『PUZZLE』あたりからだろうか、彼らのアルバムは、シングル曲よりもアルバムオリジナル曲に面白いものが多い。本作でも、井上ジョーによるギターロック、SHIKATAによるEDM、Skoop On Somebodyによるアカペラコーラスで始まるナンバー、キマグレンISEKIによる爽快なナンバー、SEKAI NO OWAEIのメンバーによるしっとりバラード(これもシングルに負けない出来!)と、アーティスト達からの提供作も色とりどりだし、本作ではそこに錦戸亮や安田章大の書き下ろし曲もあってよりハートウォーミングな仕上がりになっている。通常のアーティストは、ベスト盤の後のオリジナル盤で売り上げを大きく下げるのだが、彼らの場合は、前年のベスト盤よりも売り上げを伸ばしている(オリコン調べで初動29.8万枚→32.3万枚に上昇!)ことも納得。アイドルと言えど、決して侮れない秀作だ。


ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。

 今月は、今年5月にメジャーデビューした男性シンガーソングライターで、自らの作品のイメージイラストまで手がける奇才・米津玄師に注目。彼は、1991年徳島県出身で、10代でバンドを結成し、ロックフェス『閃光ライオット』にも応募し、そのフェスのプロデューサーから注目されていたほどの逸材。その後、ボーカロイドを使ってハチ名義でニコニコ動画にオリジナル曲を投稿し、「マトリョシカ」などの人気曲で総再生回数2000万回を短期間で達成し、ネット界で大いに注目されるようになる。緻密かつ高速に突き進んでいく曲想は確かに当時から頭抜けていた。
さらに驚いたのは、12年に、現在の本名名義でデビューした1stアルバム『diorama』にて、自身の声で歌い始めたのだが、その声がドライとウェット、ホットとクールの塩梅が絶妙で、その声で緻密な楽曲を歌うと何とも言えぬ爽快感があることだ。特に、歌詞検索で現在も1位の「ゴーゴー幽霊船」発表時、そのユニークさは業界内でも大きな話題を呼んだ。そして、今年になって第1弾シングル「サンタマリア」のように、壮大かつ前向きな楽曲も手がけるようになり、よりスタンダードな名作を目指そうとしたように思える。その一方で、2ndシングル「MAD HEAD LINE」では、4分足らずに65行もの歌詞でハイテンションな愛を綴るというかつての高速路線をさらに進化させたようなナンバー。個人的には、「サンタマリア」路線を追究し、美メロのスローからミディアムな楽曲に大型タイアップ等にハマれば、ニコニコ動画やロックサウンドに疎い人にまで広がり本格的なヒットになるのではと大いに期待している。

順位 占有率 曲名 初収録作品
発売日
1 18.2% ゴーゴー幽霊船 1st AL『diorama』 2012.5.16
2 15.8% MAD HEAD LOVE 2nd Sg(両A面) 2013.10.23
3 14.8% vivi 1st AL『diorama』 2012.5.16
4 9.0% サンタマリア 1st Sg 2013.5.29
5 8.3% ポッピンアパシー 2nd Sg(両A面) 2013.10.23
6 4.0% 恋と病熱 1st AL『diorama』 2012.5.16
7 3.9% 鳥にでもなりたい 2nd Sg(両A面) 2013.10.23
8 3.5% 百鬼夜行 1st Sg c/w 2013.5.29
9 3.3% 駄菓子屋商売 1st AL『diorama』 2012.5.16
10 2.3% あめふり婦人 1st AL『diorama』 2012.5.16



つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic
11月6日に発売されるコンピレーションCD『X’mas LOVE SONGS〜冬の涙の処方箋』の企画・監修・解説をいたしました。テーマは、“失恋クリスマス”(笑)です。ドリカムの「もしも雪なら」、J-WALKの「何も言えなくて」EPOの「12月のエイプリル・フール」などクリスマス系の楽曲って、悲しいのにファンタジックなサウンドが多くて、暗くなりすぎない感じで救われる気がします。30代〜40代の方にお馴染みの楽曲が多く、ネコちゃんのジャケットやブックレットも面白いので、よろしければどうぞ♪(「いつかのメリー」「白い恋人達」「クリスマス・イブ」が収録されてないとかツッコミは止めてください(笑))