「HYって実はこんなに遊べます」ってところも見せたいです。

―― お二人は、歌詞を生み出すときに主人公の年齢などは細かくイメージしてから書くのでしょうか。

仲宗根 う~ん、イメージってわけではないかな。私の場合は「NAO」のように、主人公や<あなた>のモデルとなる人が実際にいるから、超具体的です。実体験でも、実体験じゃなくても、この人に書いてあげたいと思った“この人”の年齢になりますね。

新里 僕の場合は、ひとつひとつの曲調によって年齢を変えているような気がする。たとえば、初々しい曲調だったら、中学生の頃の初恋の気持ちが似合うからそういう物語をイメージしたり。ポップで明るくて若い人に聴いてもらえそうな曲調だったら、20代くらいの記憶を思い出したり。大人っぽいサウンドだったら、今の年齢の自分の恋愛観を入れ込んだり。そうやって主人公が出来上がっていると思います。

―― ちなみに、HYさんのライブはどんな層のファンの方が多いですか?

仲宗根 まず自分たちと同じ30代くらいの年齢層が多いですね。結婚して、子どもを産んで、やっと最近は子どもが大きくなってきたから、「ホールでのライブなら行けます!」とか。そういう方がすごく多いと思います。あとは小学生で「聴いてます!」っていう第二期HY(笑)。

―― では、今回のセルフカバーベストには入らなかったものの、それぞれの“裏ベストワン”だと思うHY楽曲も教えてください。

新里 さっきイズが言ってくれた「すてきなキッカケ」ですかね。これは、ファンクラブ限定のベストアルバムのなかだけに入っている曲なんですけど、歌詞にいつも泣きそうになるフレーズがあるんですよ。それは<どんなにこんなに頑張っても そんなにもう歩けないよ 言い訳なんかしていたら いちばん自分で分かっているはず>というところ。当時のイズのことも自分のことも思い出すし、今の自分に当てはまる部分もあるし、きっと来てくれているお客さんのなかにも同じ気持ちの人がいるだろうなぁって思うし。だからこそ、大切に、気持ちを込めて歌う曲ですね。

仲宗根 私は「宝物」ですね。この歌は、初めて5人で歌詞を書いた曲で、すごく計算して作られていて。HYは最初にヒデと悠平が出会ったから、それを表現するためにAメロではまず、ヒデと悠平の音だけが入って、そのあとに俊、私、信介、と出会った順にどんどん音が入っていくんです。歌詞は、まず1番では「ホワイトビーチ」を作った“あの頃の自分たち”が描かれています。放課後は必ず悠平の家に行って、毎日毎日集まって、楽しくて時間が経つのも忘れて音楽をやって、それでも飽きない。そういうあの頃の自分たち。

それが2番になると“大人になった今の自分たち”の気持ちになります。そして「ずっとこの5人を大事にしてきたけれど、今は“みんな”という仲間も増えたよ」って「自分たちの夢と一緒にみんなも走っていきませんか?」って、ファンの人たちに伝えているんです。なんかこの歌を歌うたびに、昔の自分たちのことも思い出すし、あんなこともあった、こんなこともあった、その上で今もこの5人でいるんだ、ということの意味を感じますね。

新里 今のイズの話で思い出したんですけど、この前ファンクラブ限定のライブがあって、ラストの曲が「宝物」だったんですよ。だけど歌が始まる前、僕が耳の裏を怪我して出血してしまって。「ちょっとごめん、止血してくるから」って、一旦いなくなって、その間を4人がいろんな歌を歌いながら繋いでくれたんですよね。で、自分が戻ってきて、そこからの「宝物」だった。そうしたらファンのみんなが『今まで「宝物」は何度も聴いてきたけど、今日はこのメンバー愛、メンバーが繋がってきたストーリーを見ることが出来て、とくに感動しました』って言ってくれて。なんか、自分にとっても改めて大切な1曲になりました。5人がステージに立っている姿を観ながら聴いてほしいですね。

―― ご自身が歌詞を書くときに、よく使う言葉ってありますか?

新里 キーワードはありますね。僕は<風>かな。

仲宗根 あ~、じゃあ私は<あなた>ですね。やっぱり一人の人間のことをものすごく想いながら書くので、自然とそういう風になります。だけど、ヒデに歌わせる曲のときは<君>にするように意識しているかな。なんか、ヒデにバラードを書くときって、いつも不思議な感覚があって。こう…私ではないんだけど、ヒデでもない、中性的な主人公がいるんですよ。その主人公が歌っている。でも、自分がバラードを歌うときは、完全に自分寄りの女性が感情を持って歌います。

―― これから挑戦してみたい楽曲、書いてみたい歌詞はありますか?

新里 僕の曲ってわりとドラマチックなんですよ。ちゃんとストーリーを考えて、構成していくから。だけどそんなの壊して、ただ同じ言葉を連呼して、あとはそのグルーヴとリズムだけでノッてゆく、テクノ楽曲みたいなものに一回チャレンジしたいですね。絶対に難しいし、それが面白い曲になるかまったくわからないんですけど、踏み入れてみたいです。もっと音楽で遊べるようになりたい。そうすると、世界がもっと広がるんじゃないかなと思うんです。

仲宗根 私は、すごくテキトーな“子どものうた”とかかな(笑)。NHKの『みんなのうた』とか聴いていると、たまに「…はい?」って歌とかあるじゃないですか。良い意味で意味がない、中身がない。だけど子どもがなぜか口ずさむ、みたいな。ああいうのが良いんですよね。今ね「PPAP」の人(ピコ太郎)が歌っている「Can you see ? I'm SUSHI」っていう寿司の歌とか、マジで意味がわからないんですよ!でも、あれがテレビで流れるとうちの子も一緒に歌っているんですよねぇ。だから、大きなプロジェクトを担いだ曲じゃなくて「ラフに書いてみました!歌詞の意味はとくにないです~」くらいの歌を書きたい。これまでの私たちって、曲に1対1になりすぎ、真面目すぎな部分もあって。だからこそ、さっきヒデが言っていたように「HYって実はこんなに遊べます」ってところも見せたいです。そういう音楽も、やってみたいなと思いますね。

photo_01です。

―― ありがとうございました!最後に、歌ネットを見ている方にメッセージをお願いします。

仲宗根 私は、どんなに大人になっても、どんなに自分たちの音楽性が変わっていったとしても、バラードに関しては常に“一対一”ということを心がけて歌っていきたいと思っています。みなさんに聴いていただきたい1曲をイメージして書くのではなく、もう<あなた>のためだけに私が作りました、という曲をこれからも届けていきたいです。

新里 HYを18年間、続けられているのは、初心のあの気持ちを忘れずにいるからだと思います。そして忘れそうになったときに、思い出す努力をしてきたからだと思います。だから自分の歌詞にもそういうメッセージを込めていきたいです。大切な人がそばにいるからこそ、当たり前になり、そのありがたみを忘れがちになってしまう。でも思い出してごらん? 最初に出会った頃の喜びや感謝を。ステキなきっかけがそこで生まれたでしょう?って。みんながHYの曲を聴いたとき、そういう初心に帰ることができるような歌詞を届けて続けていきたいですね。


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