レミさんはなかなか「良い」と言わない魔物。

亀本 僕にとってはレミさんが<魔物>ですよ。

松尾 …ねぇ、なんなの本当に。

亀本 ほらほら!そうやってすぐ怒るし!

―― 具体的にレミさんのどんなところが<魔物>なのでしょうか(笑)。

亀本 いっぱいあるんだよなぁ。でもまず…言い方が難しいですけど…レミさんはなかなか「良い」と言わない魔物。自分たちが作るものに対しても、世の中にあるものに対してもそう。僕はわりと、キラリと光る部分が一つでもあれば「良い!最高!」って言うんです。だけど、たとえば光の要素が100項目あるとしたら、レミさんは100項目がすべて光ってないとダメなんです。だから98項目だったら「2%光ってない。ダメ。」って言うんです(笑)。

松尾 …(笑)。

亀本 怖いよね!僕は100項目のうち、1項目でも光っていたら「あいつらめっちゃ輝いてる!」って言うのに!だって、世の中にある音楽のほとんどは1%も光ってないわけですよ。それなら1%光っているやつは、それを100%にする可能性はあるから「素晴らしい!」って言いたくなるじゃないですか。でもレミさんは最初から100%光ってなかったら「光ってない!」ってなっちゃうんだよね。

松尾 いや、それは亀がプロデューサーっていうか、ちょっとこう…バンドを育成させる的な考え方があるからだと思うんだよ。

亀本 育成!? そんな上から目線じゃないよ~!僕「あいつらは伸びるぞ!」なんて言ったことないでしょ!育成って!

松尾 ちょっと亀、ホントうるさすぎる!喋らせて(笑)。裏方目線で見られるってこと。だけど、わたしにそういうのは必要ないと思っているんですよ。他のバンドの未来予想だとかは。ただの一人の音楽リスナーであり、ロックファンであり、周りのことなんて考えなくていいじゃんって。それを考えるのはこの人(亀本)がやってくれるから。二人して世間を見ていたら、特徴あるバンド、特徴ある音楽にならない。

―― レミさんは聴いたままの評価を、亀本さんは伸びしろを含めての評価をされているということですね!

photo_05です。

亀本 あと、自分たちで作っている最中も、僕が「これ今、良い感じで出来てきているから、完成形は理想どおりに持っていけそうだなぁ」って思っていると、レミさんはあとから「あれ今、全然良くない感じなんだけど大丈夫かなぁ…本当に良いかなぁ…」とか言うんですよ。でも、MIXとか終わって完成したものを聴いてもらうと「うん、よかった!」とか言って。だから僕は最初から良いって言ってるじゃん!みたいな(笑)。

松尾 良いと認めるまでのハードルがめちゃくちゃ高いんです(笑)。でもね、逆に「普通に好き」くらいの曲はたくさんありますよ。幅は広いの。だけど「本当に好き」っていうのは上の上。その私にとっての「普通に好き」レベルが、普通の人にとっては「本当に好き」なんだと思う。まぁ…自覚はあるな。たとえばバンドだとしても、アートワーク良し、ビジュアル良し、サウンド良し、歌詞良し、ボーカル良し、メロディー良し、ってすべて揃ったのが好き。

亀本 項目が多いよぉ!だって、もしもそのほとんどを満たしていたとしても、メンバーの着ているシャツのボタンをレミさんが「好きじゃない!」って思ったら、それでもう「本当に好き」にはならないんだもんね?

松尾 …まあねぇ。

亀本 やっぱり魔物だよ!

―― では、そんなレミさんにとって100項目を満たしている邦楽アーティストっていらっしゃいますか?

松尾 いますよ!ゆらゆら帝国。見た目カッコいい。音楽も良い。サウンドもめちゃくちゃマニアックだけれど、ちゃんとポップな歌詞を書いている。アングラに寄り過ぎると、それはただの趣味になってしまうので。あとは…フリッパーズ・ギターとか。当時の渋谷系はデザインも超こだわっているし、音もいろんなロックとかワールドミュージックから取ってきているから、引き出しが多くて楽しいんですよね。

―― 最近のバンドシーンはいかがでしょう。

亀本 それは難しいでしょう!レミさんからして100%って。あと好きなジャンルもあるだろうし。たとえば○○(某バンド)とか、あのジャンルで言えば100点だと思うよ。ビジュアルもカッコいいし。

松尾 ああ!あのジャンルで言ったらね!たしかに○○はすごい。本当にすごいと思う。すごいと思うけど…全然好きじゃない(笑)。だからそういうバンドはまず私の採点枠に入りませんね。

―― なるほど(笑)。

松尾 あとね正直、最近の日本で本物のロックをやっているバンドってなかなか…。なんかなぁ、服とかもなぁ、着せられてる感あるしなぁ…。ジャケットもプロっぽすぎるしなぁ…。

亀本 めんどくせぇ(笑)。

松尾 そう、好みがめちゃくちゃ偏っているから、すっごいめんどくさい人間だと思う。多分、スタッフとかデザイナーからしても(笑)。だけどそこにこだわらないとダメで、だからこそ「あれやろう!これもやろう!」って気持ちが生まれるんですよ。歌詞面でも棘のある言葉や棘のある思想を磨き上げていきたいし。自分たちが本物のロックを届けられる存在になりたいんです。

―― レミさんが歌詞を書くときに、よく使う言葉や使わないように気をつけている言葉ってありますか?

松尾 まず、歌の主人公の性別をすごく考えるんですけど、どちらでも捉えられる<僕>っていう言葉をよく使うようにしています。まぁ男の子が使うものだけど、女の子が使っても違和感がないし、中性的なので。そういう表現をしたいなと思っています。

亀本 たしかに<僕>って歌うとやんわりした感じになるもんね。それはすごく良いと思う。

松尾 逆に<俺>とかは使ったことない。自分のものにできないので。自分のものにできない言葉は使わない。っていう感じかな。でも結構、使いたい言葉でも大人の事情的な禁止用語とかもあるんですよ。というのも、この前<マリュワナ(=マリファナのこと)>って使ったらダメだって言われて…。

亀本 ダメだよ(笑)!

松尾 あと<ジプシー>とかもNGらしくて。なんか、そういう言葉を使わないとロック文化を象徴できないのになぁ…とか思いながら。

photo_06です。

亀本 いやぁ、そういう危険なものとか違法なものをわざわざ口にする必要はないじゃない。

松尾 でもね!たとえば50年代から60年代にアメリカで生まれたビート文化というものが、のちに引き継がれてヒッピー文化になっていくわけですけど、そこに絶対に必要なキーワードとかがあるんですよ!で、そういう歌を歌いたいなと思った時に、当時は<マリファナ>じゃなくて<マリュワナ>と言われていたので、その言葉を使いたかったんですけど、ダメで。仕方ないんでそれを<グラスの葉っぱ>って言い方にしたんですよ。

―― それはアリなんですか?

松尾 そうらしいんですよ。あんまりみんなにわからないから。だから、そういう文化を象徴するNGワードは言い換えて、遊び心で歌詞に入れられたら楽しいなって思います。

亀本 そういうの結構やるよね~。

松尾 うん。基本的には簡単な言葉で歌詞を作っているから、そこにわかる人はわかる言葉を入れることによって、より物語が引き立つようにしたい。そういうバランスを取りながら曲を作っていきたいですね。

―― ありがとうございました。では最後に歌ネットを見ている方に、メッセージをお願いします。

亀本 レミさん、代表で!

松尾 はい。GLIM SPANKYは、国籍も年齢も性別も関係なく“全人類”に届くロックをやっています。でも、やっぱり日本語で書いている歌詞なので、日本の人が読んだときに胸を打つものを書きたいです。ある文化を象徴するキーワードだったり、いろんなおもしろフレーズというものを散りばめているので、そういうものにニヤリとできる人は、その世界観を楽しんでください。わからない人も、ワードを検索するときっと歌詞をより味わえたり、知識が広がったりすると思います。メロディーがあって、歌詞が乗る。どっちもあるから歌になるのは大前提なんですけど、詩として読んだとしても楽しめるようなものを作っていきますので、是非、細かいところにも注目して歌詞を読んでほしいなと思います。


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