“名前”によって人格とか人生も変わってくるのかもしれない。

―― では、ここからはニューアルバム『新空間アルゴリズム』についてお伺いしていきます。まず1曲目「リチェルカ」からの2曲目「LINE」の流れで、グワーッとアルバムの世界に惹き込まれますね。楽曲の勢いと熱量を思いっきり感じました。

大橋 ありがとうございます。実は「LINE」を1曲目にしようかとも悩んだんです。でも「リチェルカ」は曲の冒頭に、僕らがレコーディングのときから“ファンファーレ”って呼んでいたブラスのセクションが入るんですよ。それが本当に“始まり”の合図って感じで。で、僕らって、視聴機でCDを聴いて買う世代だったんですけど、初っ端から「リチェルカ」のファンファーレで始まったら、アルバムをレジに持っていってくれるんじゃないかなって。あと「リチェルカ」からの「LINE」の流れは、まず冒険が始まって、その主人公が自転車を漕いで未来に進んでいくストーリーとして繋がっていくような感じがして、今はすごくこの曲順で良かったなって思いますね。

―― そして、1曲目2曲目とスピード感があったからこそ、3曲目に軽快な「パーリー!パーリー!」が入ることで、ちょっと一休みできるというか、また違う心地よさを味わえるんですよねぇ。

大橋 新曲がそこで初めて出てくるんですよ。それがなんか二人の中でも大きかったかなぁ。

常田 この「パーリー!パーリー!」を1曲目にするという案も一回ありましたね。ただ、ド頭のフレーズが<もう疲れたの?>ですから(笑)。それでこの曲はアルバムの入り口ではないなって話になりました。でも、曲順が完全に決定するまではもっと後ろのほうにいたような…。

大橋 そう、ストーリーとしてね。やっぱり<もう疲れたの?>まだまだこれからだよっていう歌詞からいくと、アルバムの7曲目~8曲目くらいに出てくるのがちょうど良いのかなぁって思ったんですけど。そうなってくると、既発曲がずっと並んでいくことになるので、半ば強引に3曲目に置いたところもあるんですよ(笑)。ただ全体を通して聴いたときには、この曲があることでなんか安定感あるなぁと思えました。

―― 先ほど「スタッフが引いてしまうくらい、曲に対してお互い真剣に言い合うようになった」とおっしゃっていましたが、今回のアルバムの歌詞面でもやはり意見をぶつけ合いましたか?

常田 そうですね。今までもそうでしたけど、今回はかなりいろんなことを言い合って。とくに「未来花(ミライカ)」はねぇ…。

大橋 「未来花(ミライカ)」はそうとう話し合いましたね。

―― アルバムの芯として、とても強い楽曲ですよね。

常田 そうなんですよ。だからこの曲をもっと強いものにするために時間をかけようってことになって、制作を何週間か後ろにズラしてみたりとか。それでもまだ何か落とし穴は無いだろうかって、スタッフも交えてアイデアを出し合ったりとか。一旦、難しい方向性にも行きかけたんです。前のアルバムのときはそんなイメージがあって、ダブルミーニングだけじゃなく、トリプルミーニングにしたりとかいろいろ挑戦しました。だけど今回はそうではない匂いが全曲を作っている中であって。だからこそ、もっとシンプルにとか、そんなに深く意味を持たせなくても良いんじゃないかとか、ライブで伝わらないよねとか。一聴しただけで内容が入ってきて、かつ、歌詞を読んだときに染みるような歌を作りたい、という想いはありましたね。

―― この曲には、大切な人の“名前を呼ぶ”というテーマがありますが、スキマスイッチ楽曲には他にも「キレイだ」「雨待ち風」「最後の日」「きみがいいなら」など“名前”というワードが登場する歌詞が多い気がします。

常田 はい、自分にとってすごく普遍的なテーマなんですよ。そして今までそれだけ歌詞に出てきただけに、いつかしっかり1曲にまとめたいなという気持ちがありまして。

―― 「未来花(ミライカ)」は“名前を呼ぶ”というテーマの集大成なんですね。

photo_01です。

常田 その感じがありましたね。この歳になると周りに「名前を付ける」側の人も増えてきたし、もう「名前を付けてくれた」人に会えなかったりってこともあるし、名前にまつわる愛を考えることも多かったりするんですよ。名前にはやっぱり“願い”とか“愛情”が込められているんだろうなぁとか。正しい道を外れてしまった人にだってやっぱり名前はあるんだよなぁとか。そういう話をしていくなかで、しっかり“名前を呼ぶ”ということを歌詞にしてみたいなと思ったのが「未来花(ミライカ)」が出来た大きなきっかけですね。

―― その自分の名前に込められた“願い”を叶えていくのが、人生なのかもしれないなぁ…と、今お話を聞いていても思いました。

常田 ですね。自分がなんでこの名前なんだろうってことは誰しも一度は考えると思うし。最近思うんですけど、呼びやすい名前の子って、やっぱり呼ばれやすいからか、人とよく話す子が多い気がするんですよね。逆にちょっと珍しい名前の人なんかはちょっとコンプレックスを持っていたりとか。僕だって「もっと簡単な読み方の苗字だったらよかったのに…」とか思います(笑)。だから、名前によって人格とか人生も変わってくるのかもしれないなぁって感じますね。

―― また「未来花(ミライカ)」は<あなた>という二人称を使っていますよね。スキマスイッチ楽曲にはめったに登場しない表現ではないでしょうか。

常田 まさにそう気づいてほしかったというか、聴いた人に「どうして<あなた>なんだろう」って考えてほしいという想いを込めたところがあります。あとやっぱり<君>よりも<あなた>の方が、いろんな対象の人に当てはまるので、広く取ってもらえるかなという話もしました。自分にとっての<あなた>に誰が当てはまるかなって思い浮かべてほしいんですよね。

―― 歌っていても<君>と歌うのと<あなた>と歌うのとでは、感情の込め方が変わってきますか?

大橋 全然違いますね。歌詞の人称に関しては僕、女性ボーカルが羨ましいなぁって思うことのひとつなんですよ。女性の方は<僕>って歌っても<君>って歌っても、響きが良い気がするんですよ。だけど男性ボーカルが自分のことを<私>っていうのは難しいなって。それと同じでやっぱり<あなた>も普段とは違う想いが乗っからないとなかなか歌えない。歌い手としてすごく意識します。だからこそ僕が<あなた>って言葉を歌っているところに、気づいてもらえたら、心に引っかかってもらえたら、曲としてすごく正解だったなと思いますね。たとえば、女性が男性に急に「お前さぁ」って言われたときにドキッ!とするような感覚というか(笑)。それはなんか歌にも通じるんじゃないかなぁと思って。そういうところはポエムとはまた違う、音楽のすごく面白いところだなぁと感じますね。

―― ちなみに“名前を呼ぶ”ことがテーマなので、やはりお二人の名前【卓弥】と【真太郎】の由来も気になります。

大橋 僕はねぇ…まず【卓】は“すぐる”とも読めて、いわゆる“優れた”とか“たくましい”とかそういう意味合いが込められているらしいです。あと【弥】という字もまぁポジティブな意味を持っている、くらいしか聞いてないんですけど。ただ電話越しとかに自分の名前の漢字を説明するときに「卓球の【卓】に弥生の【弥】です」って言わなきゃいけないのが嫌で(笑)。せめて“たく”の漢字は違うのが良かったなぁって思うんですよね。だけど僕の幼なじみで【卓(たく)】って名前の友達がいるんですけど、その子はお父さんがすごく巨人ファンで“江川卓”が好きだったからっていうのが由来なんですよ。めちゃくちゃはっきりしてるじゃないですか!そういう話を昔、道徳の授業で【名前】について話し合うときに聞いて、その潔さがすごく羨ましくて…。なんか僕もそういう由来がよかったなぁ…って感じたことを思い出しました(笑)。

常田 僕の名前は急遽、用意されたそうです(笑)。もともと3月3日が予定日で、女の子が生まれるって勝手に信じていたらしいんですよ。それでまず、父親が【進(すすむ)】って名前だから【進】という字を使って、男の子だったから【太郎】を付けて【進太郎】にしたんですって。だけど調べてみるとその名前はすごく字画が悪くて、代わりに“しん”という漢字をいろいろ探していって、結果的に“真”+“太郎”で、本当に男らしく生きてほしい、みたいな願いを込めたらしいです。さっきのうじうじした“スキマスイッチくん”の歌詞の話とは真逆ですけど(笑)。

―― なるほど(笑)。でも字画を調べるのもまた、親から子への「幸せになってほしい」って願いですよね!

常田 ただ…友達に占いが出来る子がいるんですけど、今の僕の字画を見てもらったら良くないらしくて、44画っていう大凶画…。奇人や変人に多いって言われました(笑)。まぁでもやっぱり名前の話は面白いですよね。方言の話も同じだなぁと思うんですけど、こうやって今みたいにひとつの話題にもなりますし。上京したての頃、名前と方言の話にはホント助けられました。

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