INTERVIEW
「人と人が作り出す瞬間ってものに、人は共感していく。」

ここからはニューアルバム「SKETCH」についてお聞きしていきたいのですが、まずユウキさんは前作のアルバム「INDUSTRUST」について『Jam9の決意を示した1枚だった』とコメントされていましたが、それはどのような決意だったのですか?

ユウキ:前作は、音楽業界がしぼんでいるとか、どんどん売り上げが減っているとか、そういうマイナスな風潮に真っ向からフォーカスをあてた曲をどんどん作っていこうというコンセプトだったんです。僕らが浜松から、東京やいろんな地方に出て経験したことや、ミュージシャンとか音楽業界の人たちと話したようなことを歌ったものが多かったですね。業界が厳しいと言われている中でも、僕らは僕ららしく、独創性のある音楽を作っていこうよ、っていう決意でした。

Giz'Mo:本当にとてつもなく破天荒なアルバムで…(笑)。俺らは他と同じじゃないし、誰に操られているわけでもねぇよっていう社会への反発だったんですよ。音楽がどんどん売れなくなっていく中で、こういう曲を作れ、こういうプロモーションをやれ、握手会、サイン会、3枚買ったらどうとか…そういうの要らないからって。それでやっていくアーティストもいて然りだと思います。ただ、自分たちはそうやってキャーキャー言われるタイプではないので、だったら違うことをちゃんとやらなきゃっていうのが前作ですね。

では、今回の「SKETCH」というタイトルにはどんな想いを込めたのでしょうか。

Giz'Mo:うまく言葉にできるかわからないんですけど、“SKETCH”と言ってもこれは壮大な油絵ではないんですよね。ただ<今>を切り取りたかったんですよ。長い年月を重ねて完成させるものではなくて、今の自分たちだから感じること、この瞬間だから生み出せるメロディーや言葉、そういうもので作りたいという気持ちが「SKETCH」というタイトルの由来です。

また、今作は「暖かい言葉とメロディー」にフォーカスを当てた、「思わず涙が出そうになる」アルバムがコンセプトなんですよね。

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Giz'Mo:前作はかなり外向けのアルバムで、「Jam9っていうのはこういう音楽をやっているから」という証明だったんです。でも、2015年にその「INDUSTRUST」を出してからの1年で、やっぱり人と人が作り出す“瞬間”ってものに、人は共感していくんだなってことをすごく感じたんですよね。じゃあ次にアルバムを作るとしたら、今度はもっと聴いてくれているファンの方々にフォーカスをあてて、人と人に触れるような曲、みんなが聴きたい曲を作るからね、という思いから今回のコンセプトが決まりましたね。



この「SKETCH」の一番太い柱になっているのは“応援歌”だなぁと感じました。5曲目「RESTART」の<味わった悔しさをいつか跳ね返すその為に>といったフレーズをはじめ、“見返し精神”を感じる歌詞が多く、グッときました。

ユウキ:「RESTART」は『清水エスパルス 2016シーズンテーマソング』のタイアップ曲なんですけど、今期エスパルスはJ2(下位リーグ)に落ちているということもあって、こういう曲を作りました。ジュビロはJ1(上位リーグ)に上がりましたけど、僕らの住んでいる街は小さい頃からサッカー王国と言われてきたのに、静岡のサッカー自体がどんどん淋しいものにはなってしまっていて。自分たちもサッカーをやってきた人間として「もう1度ゼロから始めようよ」という気持ちを込めましたね。

Giz'Mo:試合前にスタジアムで曲を歌わせてもらって、歌い終わったらゴール裏に僕らも行くんですよ。そしてそこでJ1からJ2に落ちていく過程をみんなと一緒に味わいました。選手たちの悔しさだけではなく、観客席でそれを見守っていた人たちの気持ちも同時に感じられて…。じゃあ2016年、J2でスタートするという状況で、どんなメッセージが良いんだろうということをすごく考えて作った曲が「RESTART」ですね。あと、こういう前向きな言葉が増えてきたのは自分たち自身がポジティブに状況を捉えられるようになったのもあると思います。ダメならダメで、俺ららしくやればいいじゃんって。諦めるんじゃなくて、それでも風穴開けてやろうぜって思えているんですよね。

Jam9さんの応援歌は“逆境”が立ち上がるための強いバネになっていますが、みなさんの一番の逆境期というといつ頃でしょうか。

Giz'Mo:2010年にデビューする1年くらい前かなぁ。リーマンショックで会社が倒産しかけて、勤めていた派遣工場の仕事自体がなくなっちゃったんですよ。じゃあ生きていくために就職先を探すのか、どうするのかという話し合いをしてきたときに、デビューの話が舞い込んできたんです。そこで「1年インディーズでCDを出して試してみて、いけそうだったら来年デビューしよう」と言われました。でも、仕事もないのに1年間どうやって生きていけばいいんだろうって。だから、挑戦させてもらうにあたって、本当にいろんな人に迷惑をかけたし、助けてもらいましたね。とりあえずいろんなものを親に払ってもらって(笑)。結果を出さなきゃいけなかったから毎日ライブを入れていたりとか、苦しかったし、未来への不安も大きかったです。でも大変だったからこそ、一番思い出深い一年だったのかなぁと今は思います。まぁ、僕らは別のところでデビューの話が流れてしまったこともあるし、わりと逆境は多いです(笑)。そうやって何度もJ2に落ちるんですけど、またギリギリJ1の後ろのほうに時々上がってくるという繰り返しですね。

ユウキ:浜松って工業都市なので、やっぱりリーマンショックのときって会社が傾いちゃったとかで、僕らと同じように仕事を失った人が本当にたくさんいたんですよ。当時、僕はハローワークの整理券を配るバイトをやったんですけど、超殺伐としていました。でも、それまで「自分はなんて不運なんだ」と思っていたけど「あぁ、こんなに同じ立場の人がいて、しかもこの人たちはもう新しい仕事を探して働こうとしているんだ。すげぇな」って。そう思ったら、もうちょっとだけ頑張ろうという気持ちが湧いてきましたね。俺らは好きなことをやっていて今こうなっているんだから、自分で責任取りゃいいや!って、割り切れた瞬間だったかもしれないです。

このアルバムには、応援歌の他、家族愛や恋心を描いたものなど、本当にいろんなタイプの曲が詰まっていて、まさに“捨て曲無し”の全10曲なのですが、あえて選ぶとすると皆さんそれぞれのイチオシ曲はどの曲ですか?

MOCKY:そうですねぇ、全部良いんですけど…その中でも1番最後の「island melody」っていう曲への思い入れは強いですね。この曲はもともとJam9がファンクラブというものを初めて立ち上げたときの曲なんです。一昨年、47都道府県をまわっている時にもあった曲ですし。Jam9にとって大切な曲だと思います。

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ユウキ:僕は6曲目の「LIFE〜10年後のアナタへ〜」ですかね。この曲が、アルバムタイトル「SKETCH」に込めたものに一番近いかなぁという気がします。今回プロモーションで1月の頭から一ヶ月くらい山口に行っている期間があったんですけど、その時に作った曲なんです。小さな街の人々の暮らしとか、今こうやって見ているもの、今感じている気持ち、今ある関係性が10年後も変わらずそばにありますようにって…。それは大きな願いではないかもしれないですけど、幸せの中身ってこういうものなんじゃないかなぁと、自分たちなりに考えて作ったので、アルバムを通して伝えたかったメッセージを込めることができたんじゃないかなぁと思いますね。

Giz'Mo:今回、一番産みの苦しみがあったのは4曲目の「巡愛歌」でした。前作のアルバムで「恋散歌(こいさんか)」という曲を作ったんですけど、すごくいろんな方が評価してくださって。その続きを描いたのが「巡愛歌」なんです。どうしても別れなきゃいけない切ないサヨナラを経て、もう一回出会ってみようと(笑)。どんな風に昔付き合っていた人と再会するんだろう、そこでどんな感情が生まれるんだろう、お互いどんな風に歩み寄れるんだろうっていう想像の中で作っていったので大変でした。

難しいシチュエーションの感情ですね…。

Giz'Mo:そうなんです、でも前作の「恋散歌」はサビで<何度でも何度でも何度でも叫ぶよ キミの声 その笑顔 忘れられない>っていうフレーズがあって、すごくネガティブな歌詞だったんですよね。それが「巡愛歌」では<あれから何度も何度も何度も夢にみた景色 好きになれたそれだけで良かった ただアナタの幸せを願った>っていう歌詞に変わったんです。それがすごく素敵だなぁというか、続きとして本当に良い形になったなぁと思います。実際にこういう瞬間が来たとき、きっとこの曲を思い出すだろうし、とても思い入れが強い1曲ですね。



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